先月紹介した「SHOGUN〜将軍」。男くさい写真と共にゲイ的見所満載という話をブログに書いたら「いいね」の数は普段より少ないのに、記事へのアクセス数が5倍くらいに増えるという現象が起きてました。それだけ、興味をそそる内容だったのでしょうか。

 

アメリカのゲイ界隈では、アジア人男の人気はあまり高くありませんが、「SHOGUN〜将軍」でざわついているように、SAMURAI的概念は例外的にエキゾチックな男くさいファンタジーを誘う要素として根強い人気があります。そして、そのファンタジーを作り上げたのが黒澤明監督の一連の侍映画であり、その映画のほとんどの作品で主演を演じた三船敏郎です。渡辺謙や真田広之が台頭している今でも、三船敏郎・世界の「ミフネ」の存在は、燦然と光り輝いていると言っても過言ではないでしょう。正統派黒澤映画ファンや、ミフネファンの方は不愉快に思うかもしれないので、以降、興味がある方のみお読みください。

 

三船敏郎、1920年当時日本が進駐していた中国山東省生まれ。紆余曲折して俳優になり、「羅生門」「7人の侍」「赤ひげ」「用心棒」など黒澤明監督作品15作に出演しています。その間、英国アカデミー賞、ベネチア映画祭など国際映画祭でノミネート、受賞を重ね世界的スターになっていきます。1966年には3部門でアカデミー賞を受賞したカーレース映画「グラン・プリ」で初めてハリウッド映画に出演し、いわば日本人ハリウッド俳優のはしりとも言えるでしょう。メキシコ映画「価値ある男」に、メキシコ人役で主演するという快挙を成し遂げたように、日本人離れした風貌は当時からセクシー・アイコンとしても有名でした。私も黒澤作品を中心に三船敏郎が出ている映画を何本も見ましたが、いまだに彼のような男の色気を感じさせるアジア人俳優は出てきていないと個人的には思います。侍や将軍といった日本人男性としてのある種の定型スタイルがハマるのは当然、一方で落武者、用心棒、無頼者を演じるときにセクシーさが素晴らしいです。髭が似合い、惜しげもなく裸体を披露し、縄で縛り付けられたり、褌姿で引き回されたりする姿は、まさにゲイのファンタジー。

 

 

羅生門ではほぼ全編上半身露出で出演

 

当時のゲイコミュニティーでも根強い人気があったそうで、たまにシニアなゲイの人たちに「ミフネはカッコよかった」という話を聞きます。今でもマンハッタンでは、ジブリの映画と共に、年中どこかで黒澤作品が上映され、その度に作品の中の三船敏郎を目にすることができます。よって、海外作品に興味があるような若いインテリゲイの中にも、ミフネファンは結構多く、これまでにも何度もミフネに抱かれたい、みたいな「ミフネ・ファンタジー」を聞くことがありました。2016年に日系アメリカ人監督が三船敏郎の活躍の軌跡を描いたドキュメンタリー映画「MIFUNE: THE LAST SAMURAI」が上映されたときに私も映画館にいきましたが、観客の半分はチェルシーあたりに住むアメリカ人ゲイという感じでしたね。しかも、意外に若いファンが多かったのが印象的でした。

 

こんなゲイファンタジーの一角を占めるミフネ

 

 

世界中にファンがいる。アルゼンチンのTeijeiro Art Studioの作品

 

米国一般大衆に最も有名で「ミフネ=サムライ」のイメージが定着したのは、テレビドラマ「将軍 SHŌGUN」(1980)の将軍役で、現在の真田版の元祖です。その頃にはすでに三船敏郎も還暦になっていたので、流石に肌を露出することはなかったようですが、ドラマ自体には男臭い雰囲気は受け継がれていているようです。当時の写真などを見ると、褌姿の役者がたくさん出ています。

 

元祖「将軍SHOGUN」(1980年)

 

 

「MIFUNE: THE LAST SAMURAI」(2016年)

 

三船敏郎の没後四半世紀が過ぎましたが、今、日本人俳優としてその座を引き継ごうとしているのが真田広之でしょう。真田版「SHOGUN」は今季ドラマのストリーミング数ナンバーワンを獲得、名実ともにレジェンド化への道を邁進しています。SNSスペースでは、SANADAというキーワードがバスっていて、「SHOGUN」以前の彼のハードボイルドな活躍が改めて見直されています。彼には「たそがれ清兵衛」など素晴らしい作品もあるのです。

 

ただ個人的には真田広之が三船敏郎に並ぶことはあっても、その存在を超えるのはとても難しいことのように思いますが、いずれにせよ日本人の俳優がこうして注目を浴びるとは誇らしい限りです。

 

 

 

真田氏はミフネに並ぶのか?活躍が楽しみです。