前回のブログでは、私が昔日本で働いていた時の上司の息子さんA君に会って、しなやかなで戦略的な人生設計に感銘を受けました。その一方、A君は現在勤務する会社については窮屈でゲイとしては本当に居心地の悪いところと思っているようです。仕事は楽しいし、その会社の持っているリソースでビジネス経験を積むことの大切さは十分わかっているようでした。しかし「いい会社だとは思うけれど、(ゲイとして)人生を捧げるような環境ではない」というA君の言葉に、私が20年前に感じたような日本の会社組織への窮屈さを思い出しました。
私がいた会社は、オープンリー・ゲイであるA君の父上が役員をしてたような会社なので、雰囲気は当時から割とリベラルでしたが、それでも、上層部にはストレート男性たちが君臨していました。あれから20年、私がいたその会社には女性役員が登場しましたが、A君が今勤める旧財閥系企業は役員全員男性。社外取締役に女性が一人。何だか多様性を受け入れていこうとしているどころか、変わらないことに価値を置いているような様相です。社会も新しい世代も刻々一刻と変わっているのに、頑として変わらないぞ、というメッセージにも受け取れます。もちろん、会社も色々努力してるんでしょうけど。
バーからレストランに移動する道すがら、A君と私は二人で並んで歩いたので日本語で色々深い話ができ、淡々と今の会社のLGBTに対する本当の態度やゲイとして日本の会社組織で生きていくことの違和感を語ってくれました。
彼の見立てでは、彼が勤務する会社は世間体のためにダイバーシティ推進室を作って、口当たり良く色々なことをしているふうに見えるけれど、本当のところ、ゲイの社員の活躍なんて会社としては全く興味はないようだ、とのこと。例えば、今のダイバーシティ室の室長さんは、欧米で海外法人の管理職を長年務めて社内国際派と呼ばれてるけれど、実際には社内天下り的なおっさんで、SDGsとLGBTを混同したりと散々らしいです。当然ながら女性活躍なども推進しているようですが、実際には女性が本当の意味で活躍できる環境を整備するよりも、統計的な幹部の比率を高めるために組織をいじくりまわして本当は管理職でもないようなポストを格上げして、見かけ上の女性管理職比率を上げているだけとかで、A君は憤慨していました。程度のこそあれ、こういうからくりはダイバーシティを考慮した管理職登用が進んでいると言われるアメリカでも見受けられる事象です。もう中年の私には、どうだっていいよ、と超越していますが、若いA君の正義感とは相容れない状況のようです。
国際都市東京。世界的企業もたくさんありますが、、、。
そんな職場においてA君自身は、ゲイであることを聞かれない限り話さないけど隠しもしない、という態度を貫いているそうです。会社レベルではダイバーシティ推進室の音頭でLGBT互助会みたいなものがあるそうなのですが、実際にそのLGBTグループに参加したら、なぜか上司に色々と探りを入れられてそのグループでの活躍を歓迎されていないのが明らかだったそうです。その上司は「(総合職男性社員は)将来的な幹部候補なのだから、ああいう色付けされるようなところには顔を出さない方がいいよ」と言われたそうです。「色」こそが個性ですし、ゲイであることはA君という優秀な若者の個性の一部でしかないのに、これでは、ゲイは出世できないよ、といっているのと同じだと思いました。A君曰く、それでもこの上司はA君の理解者だと言っていましたが、多分、これはこの上司個人の問題ではなく、会社の文化の問題だと思います。
私の日本時代はまだLGBTなんて言葉もなかったし、職場では「見猿、聞か猿、言わ猿」な感じでした。社内におかまと噂される人はいましたし、ゲイもいたのでしょうけど、皆日陰もののようにしていたか、逆にきらきらストレート男子を装って生きていたはずなのでわからなかったし、お互いつながることもなかったです。しかし、今日、同性愛者の存在が知られるようになって、政治的な話題にも登ってきているのに、日本を代表するような大企業において活躍を期待されるのはストレートの男性である、という文化は驚きを通り越して、心配すらあります。
また、A君は留学費用があまりにかかるので当初は社費留学も考えたようですが、社内選考で選ばれるのは入社年次10年位の30代前半でしかも結婚している男性社員と暗黙の了解があって、人事部にいる同期社員にやんわりと今年は社費留学は諦めるように言われたそうです。学費を出す会社側から見れば、すでに家庭を持っている男性社員なら、留学後辞めてしまうリスクが少ないのはわかりますが、なんだかな〜と思いました。遡って私が留学を目指した時にも、社費留学制度を考えました。しかし、結局留学後に辞めると全額返金しなければならないので、アメリカで現地就職を考えていた私は出願しませんでした。その時に、同期で親しくしてた女性社員から「NWくん、男なんだから応募書類出すだけ出せば良かったのに」と言われたことがありました。私は最初「男らしく度胸を持たんかい!」という激励だと思ったら、「女が選ばれるわけないじゃん?」と返され、彼女の失望の嘆きでした。
あまり周囲に会社の愚痴に共感してくれる日本人がいなかったのかA君は饒舌になり、さらに、彼の会社内のゴルフ文化の話をしてくれました。年に何度も各種ゴルフがあって、その幹事役が回って来る前に会社を辞めるのが楽しみで仕方ない、という話なんですが、休日返上で半ば強制的にゴルフをさせるような状況がいまだにまかり通っていることに新鮮な驚きを感じました。東京ゲイプライドの週にゴルフがあって、出欠表に×つけたら2年上の先輩がすかさず寄ってきて「(若いメンバーの)君と俺は参加必須だよ」と言われたとか(笑)。
実は、私も日本時代には部署のゴルフ大会に悩まされました。当然、週末に行くのですが、参加するのは男性社員だけ。しかもゴルフの後はビール飲んで、クラブハウスの風呂で一緒にみんなで裸の付き合い。裸を見たいようなイケメンがいたわけでもないし、当時私はわりと着痩せタイプで、実はぽっちゃりしてして、風呂で先輩などに裸見られて「脱いだら凄いんです系?」と体型のことをコメントされたこともあります。そういうゴルフイベントがある週末は非常に憂鬱でした。自分の給料からゴルフセットを買わされ、やりたくもないゴルフに休日を奪われたのは嫌な思い出です。そういえば、A君の父上である私の元上司も大体ゴルフには参加してましたが、A君曰く、お父さんはゴルフに思い入れはなかったようで、会社を定年してからはゴルフセットは物置にしまったままとのことです。元上司もまた当時は付き合いでやっていたようです。本当は当時まだ幼かったA君と時間を過ごしたかったのだろうと今になって思います。
と言うことで、A君の話を聞いて、私が同じ年頃だった時の経験と比較してみましたが、あまりにも類似点が多く、日本企業、特に大企業の文化がこの20年であまり変わっていないことに本当に驚きました。もちろん、企業の中にも創意工夫で社員が皆居心地がいい雰囲気を実現しているところもたくさんあると思いますし、日本の「カイシャ文化」の良いところもたくさんあると思いますが、人口減で労働力不足が叫ばれる今、A君が勤務するような日本を代表するような企業が、そういう日本的雰囲気が好きな人だけで国際的に太刀打ちできる企業を維持していくことができるのかなあと、先行き不安になっています。
私が、会社にとっては大きな損害だよね、と言ったらA君は「僕が1人辞めたぐらいで会社は痛くも痒くもないですよ」と笑っていましたが。A君が私くらいの年齢になる20年後に、こうした日本企業はどうなってるんでしょうね。

