ニューヨークでも「ドライブ・マイ・カー」の上映が始まりました。今年の米アカデミー賞4部門でノミネートされたということで、こちらでも注目の作品です。全世界の映画祭ですでにその名は轟いているようですが、私は、オバマ大統領が最近見た映画でお気に入りの一つとして紹介していた時から気になっていました。

 

 

 

リンカーンセンターにある映画館、その名もFilm at Lincoln Centerでも上映が始まりました。リンカーンセンターといえば、オペラやクラシックコンサート、そしてミュージカルなどの開催で有名ですが、小さいながらもムービーシアターも併設されていて、「ドライブ・マイ・カー」のような海外の良作や、名作クラシックや、ドキュメンタリーなどが上映されています。これからご覧になる方もいらっしゃるでしょうからストーリーの解説は控えますが、とても満足した映画でした。3時間弱と昨今の映画に比べるとやや長いので少し心配しましたが、時間は気になりませんでした。(トイレに行くたくならないように、この日はコーヒー・お茶の類は控えました)

 

監督と脚本を手がけた濱口竜介氏。これまでにも重厚なストーリーを世に出してきた実績十分。

 

ご存知、村上春樹の短編を原作にした映画で、個人的には「春樹ワールド」を巧く映像化できていると思いました。主人公の周りに「死」が存在して、虚構と現実が、そして過去と現在が複雑に絡み合うストーリー、そして、登場人物に「早稲田大学」や「北海道の小さな町」にゆかりのある人が出てくるあたりの安定感。私は熱狂的な春樹ファン、という訳ではありませんが、メジャーどころはほとんど読んでいて、原作で満足しているので、映像化にはあまり期待していませんでした。村上春樹の小説はストーリーが複雑なので、かなり腕のある製作者でないと幾重にも折り重なる時間軸のマトリクスや登場人物の緻密性を映像化できないのだと思いますが、さすが、監督と脚本を手がけた濱口竜介氏、この作品はその辺りをクリアしていました。濱口氏は日本の映画界の期待の星ですね。ちなみに彼が脚本に参画した映画「スパイの妻」もパンデミック直後にニューヨークで上映されていました。

 

左は私のお気に入り台湾人女優Sonia Yuan。右の韓国の女優さんも良かった

 

主演は安定の西島秀俊。惜しくもアカデミー賞で主演俳優賞のノミネートは逃しましたが、体全体で憂いを表現できる俳優はそういないので、作品全体への貢献ということで映画自体が各種部門でのノミネートにつながったのだと思います。脇を固める俳優さんたちも素晴らしく、ドライバーを演じた三浦透子さんも静の演技も良かった。この世代の日本人女優には舌足らずで幼い感じの、いかにも演技の勉強をしていなそうな現代的な喋り方しかできない人が多く、そういう方々が大作映画に出てきたりすると、一言セリフ喋っただけで場違い感、さらに作品の世界観をぶち壊すようなこともあります。三浦さんはそういう女優とは一線を画していてこの作品のトーンにぴったりでした。

 

アジア各国からもキャストが集結しており、個人的には、劇中劇のキャストの一人ジャニスを演じた台湾人女優Sonia Yuanさんの、いかにも周りにいそうな、小生意気さと優しさを同居させた中華系女性の雰囲気がすごくリアリティを醸し出していました。私の台湾人の友達で彼女をフォローしている人がいるので、その延長で彼女のインスタにアカデミー賞ノミネートおめでとう、とコメントしてみたら丁寧に返事をくれました。

 

知る人ぞ知る名画シアター、Film at Lincoln Center。

 

リンカーンセンター前の噴水広場。この日はやや寒さも緩み、結構人出がありました

 

Film at Lincoln Centerでは、これからしばらく上映されるようなので機会があればぜひ。米アカデミー賞本選に向けて、おそらく各地で公開がされ始める思います。そして3月27日の授賞式では、晴れて濱口竜介氏の受賞スピーチを期待したいものです。