進化と退化 | SFショートショート集

SFショートショート集

SFショート作品それぞれのエピソードに関連性はありません。未来社会に対するブラックユーモア、警告と解釈していただいたりと、読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。長編小説にも挑戦しています。その他のテーマもよろしく!!

本編は「並行時空の世界!?」・・・続編です。

 

 彼らの背後に立っていた人物はまるでヒューム人そっくりであった。

メグが

「ヒューム人!?・・・」

「君たちはヒュームを知っているのか?」

カーラが

「私とメグはヒュームの子孫よ・・・あなたは?」

ヒューム人そっくりの人物が

「私はヒューム人です。名はシュールといいます・・・あなた方はもしかして次元ポータルをくぐってきたのですか?」

今度はサラが対応した。

「そうだよ・・・マリコフの鞭の一振りで次元ポータルに吸い込まれたんだ」

「そうでしたか。私たちはここで何人かの生命反応をキャッチしたので、私が偵察に来たのです。また、あのドーム都市からの逃亡者だと思っていましたが、良い方向に予想が外れました。でも、マリコフの暴走は収まっていないのですね?」

クリスチーヌが

「マリコフを知ってるのね・・・ということは”同じ次元の人”ってことね。あなたが何故ここに居るのか聞かせてください」

 

 彼らは総勢12人いた。ヒューム人が4人、サーク人が5人、シュメール人が3人。全員がマリコフの犠牲者であった。また、ドーム都市の住民だったという16人がいた。そして、この星の原住民であるヴァース人の部落があり、そこへ案内された。建物は質素な木造家屋だった。

 そして、この惑星ヴァースのドーム都市に住む住民と原住民たちとの関りについて話を聞かされることになった。

 

 

 ドーム都市は今から一万年前各地で建造された。惑星温暖化に歯止めがかからず自然災害の猛威にさらされ、毎年世界中で多くの犠牲者が出た。建設にあたり、あらゆるテクノロジーを駆使して外界を遮断する術を得た都市の運営はAIに任された。その根底にはヴァース古代の「スーパーシティ構想」なるものが土台にあると知った。各地にドーム都市が建造されていった。そこで大きな問題が発生。都市に入る人間の選別である。住民が政府にコントロールされる時代が来るのではないかという不安が指摘されて、それが現実のものとなってしまったのだ。所得制限が線引きとなり、富裕層だけが都市に入り、それ以外は外界に取り残されてしまった。

 外界に取り残された人々がヴァースの原住民というわけだ。

 その後、世界中に数えきれないドーム都市が建造され、どのドーム都市の中も快適な環境が保たれている。各都市は人口10万人から大きな都市では100万人を超えている。ドーム都市で生まれ育ったものは一生ドームから出ることはない。それぞれの都市の人口は一万年前から一定の人口密度を保っている。その秘密は、死を迎える人間の数と生まれる子供の数が一致するように調整されているから。そもそも人間は死ぬことがないのだ。だが、やむなくあるいは希望して死を迎える人間もいる。

 人間が死ぬことがない大きな要因は、医学と科学的知識を用いて開発された機械類や道具類、いわゆるテクノロジー産業のおかげである。生まれる前に遺伝子操作され、完全な健康体の子供を授かる。もちろん子供を持つことが許される人間はあらかじめ都市からの通達で知らされる。万が一、事故や病気が原因で命が危ぶまれるような事態になったときは、即座に代替え臓器があてがわれる。脳そのものも老朽化すれば人工知能に置き換わり、電子化された記憶が移植されてしまう。

 そんなドーム都市で育った人たちの一部は、都市の外の世界にたまらなく興味を抱き、いつかは外の世界を確かめてみたいと思うようになっていた。あらゆる情報は都市そのものが統制し管理しているので、都市にとって不都合な情報には絶対にアクセスできないようになっている。そんな中、実質都市そのものが市民たちを支配していることに気が付いた少数の人間の不満がふつふつと水面下で煮えたぎっていたのである。都市にとってみれば、彼らのような者は一種の変異株だろう。彼らは地下組織の存在を知り、同じ疑問を抱いている人間と情報交換を始めたのだ。

 彼らは都市の成り立ち、歴史から外部の世界の情報を少しは知ることができたとき、実際にドーム都市を出て外部と接触したいと考えるようになったのである。

 ドーム都市の住民だったというメナムという青年は、ある日、組織の仲間でこの都市の長老と言われている老人と会うことができた。長老から「都市伝説」を聞かされて、ドームを出る方法を探っていると伝えたところ・・・

「過去に何人もの人間が出て行った。彼らの都市で生きた証はすべて抹殺される。逃亡者は何があってもドームに戻ることは許されない。覚悟はよいか」

 その後、長老の記憶中枢にアクセスして外界への扉を開くためのパスワードを入手し、ドームから逃亡してきたというわけだ。


 

 外界は夏の時期、空気は澄んでいた。空気はドーム都市と同じ濃度だと思われる。樹木が生い茂りあたり一面に「土」がはびこっていた。メナムが土を実際に見たのも触れるのも初めてだ。木の枝から何かが飛び出した。「鳥」だ。映像で見たことはあるが、実物に出くわしたのも初めて。見るものすべてが新鮮な刺激だった。

 辺りをしばらく散策したとき、人の声らしきものが川のせせらぎに交じって聞こえてきた。近づいていくと向こうもこちらに気がついた。女たちだ。おびえた様子で立ちすくんでいたので優しく声をかけてみたが、言葉が通じない。当たり前だ。そこで用意してきた翻訳機を通してもう一度試してみる。いくつかの言語のうちやっとそれらしき言語が見つかった。

「僕はドームから来たメナムという、君たちは?」

3人の若い女性の一人が

「私はミラ。ドーム都市は快適?」

「ドーム都市のこと知ってるの?」

「よく親や先生から聞かされていて、ある程度知ってるわ」

安心したのか意外と落ち着いた様子で話し始めた。その後、メナムはその話の内容に衝撃を受けたのは間違いない。


 

 ドーム都市の建設後、急速に大気汚染が減少して温暖化は緩やかになり正常な惑星環境が戻り、今まで安定的な気候変動で推移して、外部に取り残された人たちは一変して自然との共生を満喫していた。オープン都市からドーム都市へと切り替わりが進んだ結果、膨大な汚染物質を排出していた環境が改善されたのだ。誰にも制約されず、監視されず、自然のままに生き死に、1万年もの間を平穏に穏やかな歴史を綴ってきたというのである。


 

 彼女たちはドーム都市をどう思っているのか聞いてみた。

「あなたたちのおかげでヴァースは救われた。でも、あなたたちの心は一万年前と変わらず進化していない。むしろ退化している。過去に何人もの人たちがドーム都市から逃げてきた。住むに値しないドーム都市は人間にとって不要だと思いませんか?文明の利器は時に人の成長を妨げる。その最たるAIが都市を牛耳っていることで、テクノロジーだけが進化して、人間そのものはむしろ退化しているのではないでしょうか。かわいそうですが、私たちにはあなた方を助ける術を持っていません」


 

メナムはドームから逃亡してきたことを後悔することはなかった。


 

 ・・・これが、ドーム都市の元住民たちが話してくれた実話である。


 

 さらに、驚くべき話を彼らから聞くことができた!

 

…続く


※ 本編を最初から読みたい方はこちらのリンクをクリックしてくださいね!