核放棄を宣言した者たちに対して、国連はすぐさま対応を協議していた。大量の核兵器をどのように破棄するのか、頭を悩ませていた。そして、シャリーに例の転送ポータルの使用を打診していた。使用許可の申請から建造、完成までには少なくとも3か月はかかる。そこで、ルスラン博士からの提案が示された。
「思うに、マーシャン・リームのワープ・ドライブを使えば良かろう。規模は小さいが、必要に応じて大きさは変えられる。それに、私にひとつ考えがある・・・」
ルスラン博士の提案はこうだった。
ワープ・ドライブは円形の盤である。その大きさは最外縁に沿って部品を継ぎ足していくことでワープ・ドライブの大きさは調整できる。さらに、ルスラン博士の独自アイデアがあった。転送時の自動認識機能の搭載だ。核兵器を無効化するための転送と起爆の連携をも自動制御する機能の搭載である。一つ一つの核弾頭に対する関連付けを自動で行うシステムによって、飛躍的に作業は簡素化されるのである。
話は決まり、マーシャン・リームに協力を仰ぐことになった。彼らも核廃絶は切望していたので、問題なく受け入れられた。
そして、ワープ・ドライブを使った核廃絶のシナリオが整い次第実行に移されたのである。
そんな中、リリーが例によって予知夢を見たといって騒ぎ出したのである。その内容はとんでもなく不吉な夢だった。
カーラの葬儀を夢で見た・・・というのである。でも、不思議なのはその葬儀にカーラ自身が出席していたというから、その夢の意味するところがまったく分からないという。
そして間もなく、不吉な予感がカーラの身に起こってしまったのである。
カーラは核廃絶に向けたワープ・ドライブの地球での配備に関する協力の依頼で、ボブとともにマーシャン・リームの地下ドーム都市にいた。
カーラが発言していた。
「地球の核廃絶がいよいよ現実味を帯びてまいりました。一部の火星の住民の皆さんの中には、核に対する非常に強い警戒感があり、テラフォーミング・プロジェクトにとって大きな障害になっていました。でも、私たちは遂に核廃絶に向けての大きな一歩を歩むことができることをとても嬉しく思っています・・・」
カーラとボブの向かい側には、カル・タイとエル・タイの兄弟も顔を並べていた。しかし、和やかな雰囲気の中で協議が進んでいた時、突然カーラがテーブルを強打して
「核廃絶なんてとんでもないよ。地球人に騙されるな!」
しかし、次の瞬間には突っ伏して気絶してしまった。ほどなく目が覚めたが、カーラ自身は何が起こったのかまったく分かっていなかった。
その場に出席していた全員が、ボブを含めてあっけにとられた状態でカーラを見ていた。
「私・・・何かおかしなこと言いました?」
エル・タイが
「何か空耳だった気がします・・・」
エル・タイは咄嗟にとぼけてみせた。
ボブが機転を利かせた。
「皆さん・・・カーラは今日とても疲れている様子ですので、この続きは後日改めてということで、よろしくお願いいたします」
ボブとカーラはそそくさとスペース・ナビのオフィスに戻ると、改めて何があったのかを検証してみた。カーラ自身はボブの行動に怪訝そうだったが素直に従っていた。
「ねぇ、カーラ気分はどう?」
「大丈夫だけど・・・いったい私・・・あの時何を言ってたの?」
「まったく覚えていないんだね・・・」
その時、再び・・・カーラが豹変したのである。今度は有事の姿、つまりスーパーツインズに変身したかと思うと、
「地球の核は私がいただく・・・」
そのまま気を失ってしまった。
ボブはすぐにメグを呼びつけた。
「カーラに異変が起きてるよ。すぐに来てくれ!」
すぐにオフィスに現れたメグは、カーラが気を失っている姿を見て驚いた。
「どうしたの?」
ボブはメグに一部始終を話した。
「実はリリーから緊急で連絡が来てたの・・・カーラには内緒にしてと言われたけど・・・とにかくカーラを地球のウィン博士たちに見てもらうしかないわ」
メグたちは、カーラを抱えるようにしてソフィアのオフィスに現れると、そこにはサリームメンバー全員とラクサム人も心配顔で待ち受けていた。
ボブが
「まるで何かに憑かれたようになって、突然心にもないことを話したかと思うと、すぐに気を失ってしまうんだ。何かが乗り移ったかのように・・・」
ラクサム人のニナが
「もしかしてミーチャかもしれないね」
メグが
「ニナ、詳しく話して・・・」
その時、カーラが目覚めた。
サラが
「大丈夫だよカーラ」
だがその目は、異様に光りまるで別人であった。ベッドに横たわったカーラ自身の安全のためにも、リングで拘束していた。
リリーが泣きそうな顔で、
「カーラ・・・ごめんなさい、私が不吉な夢を見たばっかりにこんなことになって・・・葬儀の夢が現実になっちゃうよ!」
サイモンが
「大丈夫、カーラは強い人だ、絶対に戻ってくるよ!」