特異体質 | SFショートショート集

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SFショート作品それぞれのエピソードに関連性はありません。未来社会に対するブラックユーモア、警告と解釈していただいたりと、読者の皆さんがエピソードから想像を自由に広げていただければ幸いです。長編小説にも挑戦しています。その他のテーマもよろしく!!

本編は「ヒューマンセンス」・・・続編です。

 

  ルスラン博士からヒュームテクノロジーのヒューマンセンスが紹介された翌日、ラウロを除きサリームメンバーはそれぞれ本来所属している職場に復帰しようとしていた。カーラはスペースナビのマーズオフィス、メグはルナオフィスに赴いていた。道中それぞれ二人は濃い目のサングラスをかけて素顔が見えないように隠していた。彼女たちの素顔は地球、月、火星を含むほぼすべての人類にその正体を知られていたので隠密行動を余儀なくされていた。

 

 宇宙港ロビーで二人は別れ、それぞれのターミナルに向かっていた。途中カーラは10歳くらいの女の子に出会った。だだっ広い宇宙港ロビーの片隅にひとりで、キョロキョロせわしなく目配せしていたので迷子かと思い、近寄って、

「お父さん、お母さんは?」

と聞いてみた。

「はぐれちゃった・・・」

女の子はカーラの手を握ってきた。

次の瞬間、その女の子は大きくなりカーラそっくりの女性に変身してしまったのだ。驚いたカーラは思わず手を振りほどいた。

カーラに化けた女は

「油断したようだね、カーラ・ファーナム、あんたの正体はお見通しだよ」

「誰・・・名を名乗りなさい」

「私はサラ、あんたの命をもらいに来たのさ」

サラと名乗ったカーラそっくりに変身した女は手に銃のようなものをちらつかせていた。

カーラはとっさにヒュームのテクノスーツに身を包んで防御しようとした。カーラが変身した直後に、サラはカーラの手を掴んできた。

 しかし、そのあとサラは捨て台詞をおいて去っていってしまった。

「この次会ったときは容赦しないよ」

 

 

 丁度そのころ、ルナ・シティへのターミナルにいたメグの身にも異変がおこっていた。

「助けて~!」  
メグの背後から女の悲鳴が聞こえた。振り向くと、若い女性がサングラスの男に手首をつかまれ連れ去られようとしていた。メグは駆け寄り女の手首をつかんだ。サングラスの男はあっさりと女の手を放し、その場を去っていった。だが次の瞬間、若い女性はメグそっくりに変身していたのである。さらに手には銃らしきものを持ってメグに銃口を向けていた。メグは身を守るためにとっさにスーパー・ツインズに変身していた。さらに相手もスーパー・ツインズに変身したのである。
「油断したようだね。次に会ったときは命をいただくよ!」
「誰なの?」
「あたしはニナ・・・あんたの中に男が見える、それは次に会った時のお楽しみだね」
そのあとニナは捨て台詞と共に去っていった。

 

 カーラは大勢の人の注目を浴びていることに気が付いて、

「もう大丈夫よ」

・・・と集まってきた群衆に向かって言った。そして、人目の付かない場所を探して空中を移動し変身を解いた。サングラス姿に戻ると、さっそくメグに連絡を入れた。

「メグ、おかしなことがあったの」

「・・・カーラ私もよ、ニナという女が私に変身したの」

カーラとメグは同時に同じように襲われたことになる。相手はカーラとメグそっくりに変身した。メグもテクノスーツに変身した直後に腕を掴まれて、その後立ち去っていった。手口は同じだ。

 

 二人は職場への復帰はキャンセルした。急遽ソフィアのオフィスに戻るとサラとニナについての情報を得ようとヒュームのシャリーに連絡を入れた。

 ほどなくシャリーから返信が入った。

 カーラたちを襲った二人はラクサム人だという。惑星ラクサムは核によって汚染され人が住めなくなった。放射能汚染の弊害で特異体質のラクサム人が多く生まれた。サラとニナもその特異体質を持って生まれた事例だろう。ラクサム人の変身能力は過去に数件報告されていた。その変身する過程では必ず対象となる相手に触れる必要があるようだ。だから、カーラとメグに変身するために「接触」したのである。だが、ラクサム人の変身能力は万能ではなかった。相手が生身の生物に限るのだ。だから、サイボーグやクアンタムに対してはいくら接触しても変身できないという情報であった。一番の狙いは、彼女たちが持っているパワーだ。姿形だけではなく変身相手の持っているパワーをもそのまま取り込んでしまうのだ。目的は、ヒュームのテクノスーツを纏ったカーラとメグが持っているパワーを手に入れることだったに違いない。

 

 よくない予感が彼女たちに押し寄せてきた。背後にマリコフがいることもシャリーは告げていたのである。偽のカーラとメグに変身したサラとニナが何を企んでいるかが見えてきた。

 

…続く