かあちゃんタクシー
 
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500ウォン

その日の営業が終わり、母ちゃんが売り上げを数えていた時のことです。

あら
これは500円硬貨じゃないわ

500とは書いてありますが、どう見ても日本のお金ではありません。
なんだかつるつるしています。
隣で見ていた同僚の運転手さんが言いました。

これは韓国の硬貨だな。
500ウォンって言うんだ。
だいたい65円くらいの価値だよ。
こりゃ、やられたな。

聞けば、500ウォン硬貨は500円硬貨と重さや形が似ているので、
500ウォン硬貨を使った不正や変造硬貨事件はたくさんある、とのこと。

母ちゃんはがっかりしました。
それでも、もうどうすることも出来ません。
その日は泣き寝入りすることになりました。


それから、3日後。
派手な美人のお姉さんが

某スタジオまでお願いします。

と乗車してきました。

きっとモデルさんかなにかだわ

と、母ちゃんは思いました。
無事にスタジオまで到着してスタッフも総出でお迎えに見えました。
しかし、そのお姉さんも500ウォン硬貨を差し出したのです。

母ちゃん
「お客さま、これは500円硬貨ではありませんよ。」

お姉さん
「あらやだ。
 んー、じゃあ一万円札しかないわ」

かあちゃんは複雑な心境でした。
どうみても確信犯だと思いますが、確たる証拠もありません。

お金持ってないわけじゃないだろうにさ
710円しか乗らないくせにさ
どうしてこんなひとばかりなのかしら

悔しかったり悲しかったりする母ちゃんなのでした。

生きているうちに。

そのお客さんは、定期的に鬼子母神にお参りに行きます。

毎回母ちゃんタクシーを指名して頂いている常連さん。
お参りの間、母ちゃんは門のところで待っています。

静かな時間でした。
お客さんは言います。

「最近の神社仏閣は、人が死ぬときばかりに一生懸命だ。
 葬式代を稼ぐことしか考えていない。
 こちら側の人間もそうだ。
 普段何も信心していないくせに、死ぬときだけ宗教にお世話になる。」

「そうですね」

母ちゃんは言いました。

「生きてるときに信心しろ」

まったくその通りかもしれません。

そのお客さんは、その昔、結核だったそうです。
昔のことですから、結核といえば死に直面する病気でした。
お客さんは一生懸命鬼子母神に祈りました。

どうか助かりますように

お客さんの療養中、素晴らしい薬が発明されました。
ペニシリンです。


お客さんは、今も変わらず鬼子母神にお参りに行きます。
母ちゃんは門のところで待っています。

変人対策

母ちゃんタクシーに変なお客さんが乗って来ました。

「Aに行ってください」

と言われたのでAに行こうとすると

「Bに行ってください」

と言います。
それでは、と母ちゃんがBに行こうとすると

「やっぱりAかな」

と言います。
そしてC、D、と次々行き先を変えるので、母ちゃんは

これは困ったお客さんだなあ

と思い、ちゃんと話そうとバックミラーをのぞきました。

すると
さっきまで後部座席にいたハズのお客さんがいません。

これはタヌキか幽霊か

と振り返ると、
いました、お客さん。

後部座席に寝転がっていたのです。

あああ もう降りてもらいたい

と思った母ちゃん、妙案を思いつきました。

「お客さん、お客さん、具合が悪いんですか?」

と話しかけたのです。

するとお客さん

「ううううん そうなんだよ 具合悪いんだよ」

と言います。

「あらあ、では降りて病院に行ってくださいね。」

そう言うがいなや、母ちゃん、タクシーを停めるとお客さんを降ろしてしまいました。
もちろんお代も頂きます。

おかしなお客さんも、母ちゃんにかかれば、形無しなのでした。
おしまい。

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