かあちゃんタクシー -4ページ目

仮面

そのお客さんを乗せたとたん、かあちゃんは「しまった」と思いました。

そのひとは、座席のすみっこのほうにちぢこまって座り、
こそこそしたり、挙動不審な態度を取ったりしています。

行き先などを聞いても、はっきり答えなかったり。

「えー、えー、しらねえのかよ。え?右折だよ、右折。
 う、あー、左折だよ、ちげーよ、右折!」

意味不明のことを言って威嚇してきたりします。

母ちゃんは、怖くて非常灯でもつけようかと思いましたが、
なんとかかんとか対応しました。


だけど、しかし、そのお客さん。


降りる間際、急に正気(いわゆる普通の人のような)の態度になったかと思うと

「おれは今日いやなことがあったから からかっただけだ。
 運転手さん、こういう人にまともに付き合わなくていいんだよ。」

と言い、急に姿勢を正して去って行きました。

母ちゃん、あぜん。

タクシーで演技するのも良いけど、おどかすのはやめてもらいたい、
と思った母ちゃんなのでした。

感心

母ちゃんがまだ新人の頃。

不忍池通りで、目の不自由なひとが信号を渡っていました。
なんとなくその様子を眺めていた母ちゃん。

すると、青になったらそのひとが手をあげました。

「あら、お客さんだわ。」

早速そのお客さんを乗せる事にしました。

「茗荷谷お願いします。」

母ちゃん、その頃はまだ新人だったので茗荷谷がわからなかったのですが、
お客さんは

「あ、私がわかるので大丈夫ですよ」

と言ってくれました。
それなら、と、さっそく車を走らせます。

「ここ左ですか。」「いや右です。」

そのお客さん、目が見えないハズなのに、
今いる場所が見えるかのようなナビゲーションぶりです。

さらに感心なことに、まっすぐ走っていたら

「ここ右に曲がってください」

とまで言われました。

今いる場所がどこかわかるのは不思議です。
見えない人は頭の中に地図が入っているんだなあ、と思った母ちゃんなのでした。

置いて行かないで!

今日は、かあちゃんの同僚の運転手さんが遭遇した、嫌なお客さんのおはなしです。

女性のお客さんを降ろした運転手さん、
ふと、シートに大きなかばんが忘れてあることに気がつきました。

お客さんはすでにどこかへ行ってしまっていたので、
そのまま会社にかばんを持って帰ることに。

会社について、忘れ物の担当さんにかばんを渡し、くつろぐ運転手さん。
そこへすぐ、さきほどの忘れ物担当さんが…。

「さっきの忘れ物のかばんには、犬の死体が入っていましたよ」


…どうか、置いて行かないでください。