
あー、なつむぎさんですか。鬼山商会の山岸です。今日、社長からえらく怒られましてね。それで、メールをお送りしてるわけです。なつむぎさん、「末日」ってどういう意味だかご存じですよね。月の最後の日ってことです。月の最後の日には30万円返していただけるんでしたよね。
あのぉ、今日は何日かわかってますか? もう1週間以上も待ってるんですよ。これ、私の采配でしてることなんです。でもね、社長の鬼山は怖い男なんですわ。で、今日中になつむぎから30万円取って来んかいと、こういうんですよ。そりゃ、社長の方に理がありますわ。なつむぎさん、あんたが悪いよ。しかたがないよ。だから30万円、返してくださいよ。社長は、ちゃんと回収して来れないんだったら、代わりにお前が金を用意しろって言うんですわ。そりゃ殺生ですよ。私だって女房も子供もいるんですわ。なつむぎさん、今日返して下さいよ。もし、今日30万円社長に持って行かないと、私も担当を外されるんですわ。私が担当を外されて、代わりにもっと気の短い、いつも眉間に青筋を立ててる、つねにイライラ・ピリピリしてる危ない男が担当になるんですよ。これ、なつむぎさんのためにならないですよね。私にとったって担当を外されるってことは、それなりの「しめし」をつけなくちゃならないってことなんですわ。あの、これは社内の事なんで、なつむぎさんに聞いていただくことじゃないんですけどね。ほら、この仕事に就く前に、私、旋盤工をやってたって言ってましたでしょ。あれ、ウソなんですわ。指がちょっと欠けてるのを、なつむぎさんが不安に思わないかって思いましてね。実は、担当をはずされるのは今回が初めてじゃなくて。
そういう事情なんですよ。なんとかなりませんかね。返事まってます。
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なぁくん、おはよう。えりかだよー。なぁくん、こんどの誕生日に、モノグラムグラフティのバッグ買ってくれるんでしょ。ありがとー。えりか、ピンクが好きだからね

なぁくん、この前さぁ、なぁくんが携帯に出ないから、家電にかけちゃったんだー。そしたら、なんかおばさんが出てさ。あはは。ごめん、なぁくんの奥さんだよね。だからね、えりか、自己紹介しちゃった。いつもなぁくんにやさしくしてもらってますって。プレゼントもたくさんもらってます~って。なんかさぁ、そしたらおばさん、すっごく怒ってるの



なぁくん。喜んで~ あのね、赤ちゃんができたみたい~


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あなた。もう私から直接連絡することはありません。これが最後です。これからは、弁護士の片岡さんから連絡が行きますのでよろしく。この前、えりかって名前のはすっぱな女の子から電話がありました。驚きませんでしたよ。あなたが、若い女と中途半端な付き合いをしてることも、街金やら、闇金やらからだらしなく借金をしてることも、調べてもう知ってましたからね。いったい、その借りた金で何をしてたものやら。呆れて物も言えないわ。私にも世間体とかあったから、いままで大きな声では言いませんでしたけど、もう決心しました。父にも報告しました。あなたクビにしてもらうつもりです。もう家族や親戚から何て言われるか。立派で真面目な男性と結婚してる、姉や妹とも、恥ずかしくて顔を合わせられないわ。私だけ貧乏くじを引くなんて、人生って不公平よね。
とにかくあなたはもう、家に帰ってくる必要も、会社に行く必要もありません。あの、えりかだかなんだかって言う、目の周りのまっ黒の女と好きに暮らせばいいわ。まぁ、お金の無くなったあなたに、彼女がどれだけ興味を持つのかしらね。このこと、ちゃんと彼女には伝えましたよ。
そうそうそれから父の指示で、経理の山本があなたの交際費やら、取引先からのバックマージンやらを調べ始めました。山本の言うには、背任罪で告訴することができそうですってよ。楽しみにしてらっしゃいね。
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なぁくん。ごめんね~。赤ちゃんが出来たって、ウソだよ~ん。ちょっとなぁくんを、からかってみたかっただけ。もしかしたら、すっごく喜んでくれるのかなってね。なぁくんは、えりかのこと、怒らないよね。なぁくんの家のおばさんも同じようにからかったら、もう

それから、なぁくん、仕事がなくなっちゃったんだってね。いままでえりかと遊んでくれて、ありがとね。じゃね。バイバイ~
