
いやぁ、部長。
私はお世辞がからきしだめで。
もう少し、お世辞が上手ければ営業マンとしてよい成績をおさめられるのにって、
しょっちゅう上司にしかられてます。
いやぁ、部長。
だから本当に、御社のご担当が山崎部長で、本当に良かった。
部長は、私がお世辞を言える人間じゃないのをわかっていらっしゃる。
それに、なんてったって、部長ご自身、お世辞が嫌いでいらっしゃる。
いや、ごもっともです。
見え透いたお世辞がいやらしいことは、ごもっともです。
でも、部長。
世の中には、お世辞でころっと気分良くなってしまう人が多い。
ここだけの話ですが、
ほら、K社のT常務。ご存知でしょ?
あの方は、まぁこう言っちゃなんですが、おべっか使われるのが好きなタイプといいましょうかね。
私なんぞ、お世辞が苦手なもんで、なかなかお付き合いいただけなくて苦労しました。
いや、ここだけの話にしておいてくださいよ。山崎部長。
T常務と比較されるのは、部長としても不本意でしょうが、
そりゃ、そうです。T常務は典型的な日本人ですから。
その点、部長はヨーロッパで長くお仕事されてた経験がおありですし。
え、出張で行ったくらいですか?
いやぁ、部長は立ち振る舞いが洗練されているものだから、つい長いものと勘違いしておりました。
そ、それでですね、部長。
つまらん普通の人間は、お世辞に弱いものです。
私も、長年営業マンやってきてますから、そのぐらいのことは、まぁちょっとはわかるわけですが。
いやいや、生意気なこと言ってしまって申し訳ない。
その点、山崎部長はクレバーでいらっしゃるから、お世辞が通じない。
山崎部長は、お世辞が通じるような、俗人ではいらっしゃらない。
いやぁ、感服します。
おかげで、お世辞の言えない私も、こうやって部長にお付き合いいただくことができるってわけです。
はい。おけげさまで。
「あ、ルカちゃん、どこ行くの? え? あぁ、部長の灰皿ね...」
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部長。
あのルカちゃん。部長にまんざらでもないみたいですよ。
いや、さっきママにちょっと耳打ちされましてね。
わははは。
部長、隅に置けませんねぇ。
あ、いやいや、そんなつもりじゃ。部長。
恐縮です。では、明日11時に、御社に契約書を持ってお伺いすれば...
いやぁ、本当に、部長のような、知性があって懐の深い方とお知り合いになれてよかった。
