「悪党が、社会変革を考える時」 --- SIEMBRA | /// H A I H A I S M ///

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あわてない、あわてない。赤ちゃんが「はいはい」するように、のんびりゆっくり進みましょう。

Siembra/ルベーン・ブラデス ウィリー・コロン
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今日ご紹介したいアルバムは、WILLIE COLON と RUBEN BLADES の共作「シエンブラ SIEMBRA」です。


このアルバム「シエンブラ」はサルサ史上最も売れたアルバムで、 プロデューサーをつとめるウィリー・コローンと、ほとんどの歌を作り歌うルベーン・ブラデスの2人は、ラテン音楽界の不滅の名コンビとも言われていました。


ところがこの2人、とても対照的な2人で、後には喧嘩別れ状態だったとも言われています。


ウィリー・コローンは、17歳の時にサルサを代表するレーベルである「ファニア」からデビューしていて、当時は「わる」のイメージで人気を得ていました。

彼のファーストアルバムのタイトルも、「EL MALO(悪党)」だもの。「ちょっといかした街の悪党」ってな感じですね。


一方ルベーン・ブラデスは、パナマ大学の法学部を出た後パナマ国立銀行に勤め、その後ニューヨークに出てきてファニアに就職しています。

サルサ界きってのインテリ」って言われていた彼ですが、ファニアでの最初の仕事は郵便物の整理係をだったとか。


ルベーン・ブラデスは、後にパナマの大統領選挙に立候補しています。ご存知でしたか? 落選してしまいましたが、3位だったと思います(ただし3人中の)。


この異質な2人のコラボレーションによるアルバム「シエンブラ」は、サルサの評価を大きく変えた1枚であるといえましょう。その理由の1つは、「世界を変えよう」という、歌詞のメッセージ性にあると言えるでしょうか。

シエンブラ(Siembra)というのは、スペイン語で「種をまけ」ということ。

収穫しようと思ったら、つまり何かを得ようと思ったら、まず「種をまけ」ってね。


なんか説教臭いけれど、色恋だけを歌っていればいいって思われていたダンス音楽としてのサルサが、ラティーノの「社会」(アメリカ合衆国内に限らず、ラテンアメリカ世界全体)の音楽に変化した瞬間と言えるでしょう。


1曲目、Plastico のエンディングでは、ラテンアメリカの国の名前が順番に呼ばれていきます。

「パナマー」「プエルト・リコ」「メヒコ」「ベネスエラ」「ペルー」... ってな具合に。そして最後には「ニカラグァ・シン・ソモサ」。意味は、「ソモサの居ないニカラグァ」。当時ニカラグァは、ソモサ大統領の独裁下にありました。


*****



でも、ボクがこのアルバムを好きなのは、そういった社会的なメッセージが理由なのではないのです。このアルバムによって、サルサがダンス音楽から鑑賞するための音楽へと、一つステージを登ったなって感じたからなのです。


一番好きなのは、3曲目の「Pedro Navaja」 Willie Col?n - Siembra - EP


ニューヨークの荒れた街角で、コートのポケットに常に手をつっこんでいる男。ナイフを持っているのを気づかれないように。

3ブロックほど向こうでは何度も歩道を行き来する女。

ゆっくりと道を進むなんでもない普通の車、でも誰もが警察だってことを知っている。

そして、スミス&ウェッソンの38口径。


人生って驚きだろ。驚きこそが人生だろ。


もうニューヨークの冷たい街角の描写がかっこよくって、ボクは、行ったこともない内にニューヨークの街の印象をこの曲で形づくってしまったもの。


だから、ブロードウェイのミュージカルや、5番街のブティックでニューヨークを思い描く人とは、全然違う結果になってしまった。ボクのニューヨークのイメージは「イーストハーレム」。本当に行った時はかなり怖かったけど。


誰か日本語で歌ってくれないかな? ボクで良かったら訳詞つけちゃうけどな。


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