今回は、前回に引き続きヘム鉄の基本です。
ヘム鉄の吸収を促進するもの、吸収が阻害するものはあるのかについて、もっと深掘りしてみましょう。
まず、「ヘム鉄」と一口に言っても、それが「肉」に含まれているものなのか、それとも「サプリメント」として配合されているものなのかで、吸収の仕組みも変わってきます。
例えば、ヘム鉄の吸収率は10%〜30%と言われており、差が大きく開いていることが分かりますよね。
ヘム鉄が吸収阻害の影響を受けないなら、この吸収率は高い状態で維持されるはずです。ですが、実際の吸収率には大きな開きがあります。
これは何故なのでしょうか?
吸収率に差が出るということは、吸収率が変動するような、何かの要因があることになります。
この要因には一体何があるのか、分子栄養学の観点から考えてみましょう。
分子栄養学としてヘム鉄を考えた場合、「肉」に含まれているヘム鉄と、「サプリメント」に含まれるヘム鉄は分けて考える事が重要です。
肉に含まれているヘム鉄の吸収
ヘム鉄は、ご存じの通り動物性の鉄分のことです。肉や魚などには「ヘモグロビン」や「ミオグロビン」などとして含まれていて、赤身の肉や魚に多く含まれています。
ヘモグロビンは、主に血液中で酸素を運ぶ役割をし、ミオグロビンは主に筋肉に含まれていて酸素を貯蔵する役割を担っています。赤身の肉に多く含まれているのは「ミオグロビン」の方です。
肉にヘモグロビンがあまり含まれていないのは、血抜きがされているからですね。
この「ヘモグロビン」「ミオグロビン」は、「グロビン」というタンパク質と「ヘム鉄」が結合した状態になっています。
このままでは分子量が大きくて腸粘膜から吸収出来ないため、ヘム鉄を吸収するためには「グロビン」と「ヘム鉄」を切り離さなければなりません。
この切り離しの役割を担っているのが、胃酸や消化酵素です。
消化酵素によって切り離された「ヘム鉄」は、そのまま小腸粘膜にあるヘムトランスポーターから吸収されます。
つまり、肉のヘム鉄を吸収するためには、
十分な胃酸と消化能力が必要
ということになります。
もし仮に胃酸の分泌や消化能力が不十分な場合、肉を十分に消化出来ず、肉に含まれるミオグロビンも消化出来ません。この場合、ヘム鉄の吸収率は低下することになります。
また、肉や魚を食べる時は、ほとんどの場合焼いたり煮たりなど加熱して食べますよね。
この場合も、ヘム鉄の吸収率に影響を与える可能性があります。
先ほど出てきた「ミオグロビン」は空気や熱の影響を受けやすいタンパク質です。
例えば、スーパーで売られているお肉は、色鮮やかな赤色をしていますよね。これは、ミオグロビンが空気に触れると酸化し、「オキシミオグロビン」に変化するためです。この状態では、まだミオグロビンに含まれる「ヘム鉄」は二価鉄の状態(Fe2+)の状態を保っています。
そして、肉は時間が経過すると、更に酸化して茶色く褐変します。これは、「オキシミオグロビン」に含まれていた「ヘム鉄」が酸化されて三価の鉄(Fe3+)の状態になったことで、「メトミオグロビン」に変化するためです。
オキシミオグロビンはミオグロビンに含まれる「ヘム鉄」がまだ二価鉄の状態(Fe2+)を保っているのに対し、メトミオグロビンはヘム鉄に含まれていた二価鉄が酸化されて三価の鉄になっています。
ヘム鉄は「ポルフィリン環」と呼ばれるタンパク質のようなカプセルに二価鉄(Fe2+)が包まれている構造をしていますが、このヘム鉄の中心部分にある鉄イオンが酸化すると二価鉄のFe2+から三価鉄のFe3+に変わってしまうというわけですね。
しかも、このような反応は熱を加えることでも起こります。スーパーで買った新鮮なお肉は、家に持ち帰って焼いたり煮たりして食べますよね。この時、加熱したお肉は茶色く色が変わるのはご存じかと思います。
この茶色くなったのは、まさに肉に含まれていたミオグロビンが熱によって変性し、中に含まれていた「ヘム鉄」が酸化することで「変性グロビンヘミクロム」に変化するためです。
このことから、ミオグロビンおよびヘム鉄は、熱や酸素に非常に弱い事がわかります。
さて、この焼いた肉を食べた場合、ヘム鉄の吸収にはどのような影響があるでしょうか?
肉や魚を焼いたり煮たりすると、硬く縮みますよね。これは、肉のタンパク質が熱によって変性したためです。
この変性したタンパク質やミオグロビンは、生の状態と比べて消化しにくくなっています。よって、加熱した肉からヘム鉄を摂取するには、生の状態と比べてより消化能力が必要です。
さらに、酸化や加熱によって変性したヘム鉄(Fe3+)は、ポルフィリン環による安定性が失われ、消化管内でヘム構造が分解されやすくなったり、ヘムトランスポーターからの吸収経路に適合しにくくなったりする可能性が高くなります。※1
この場合、ヘム鉄(Fe3+)に含まれていたFe3+はポルフィリン環から外れて遊離の「非ヘム鉄(Fe3+)」となり、非ヘム鉄として吸収されることになります。
非ヘム鉄は、ご存じの通りヘム鉄と比べて吸収率がかなり低い鉄です。タンニンやフィチン酸など吸収阻害の影響も受けやすく、その吸収率はわずか5%以下しかありません。
ヘム鉄が非ヘム鉄化してしまった場合、非ヘム鉄の吸収には胃酸やビタミンCなどが必要になります。
よく、ニセ分子栄養学では「食事だけで分子栄養学が実践できる」「サプリメントは要らない」などと言われていることがありますが、アレは嘘です。分子栄養学を実践する際は、個人の消化能力の状態など個体差や、栄養素の損失などを考慮する必要があります。
このように、肉や魚に含まれる「ヘム鉄」は、胃酸の分泌量や消化能力、加熱や酸化など様々な影響を受けます。一口に「ヘム鉄」と言っても、何をどのようにして食べたのか、その人の消化能力はどの程度なのかで、吸収率は大きく変わってくるというわけです。
サプリメントに含まれるヘム鉄の吸収
一方で、サプリメントに含まれているヘム鉄はどうでしょうか。
サプリメントに含まれているヘム鉄は、主に「豚」の血液に含まれる「ヘモグロビン」を原材料に、酵素分解によって「ヘム鉄」を抽出・濃縮したものです。
肉に含まれている「ミオグロビン」からヘム鉄を摂取する場合と違って、ミオグロビンを消化する必要がありません。
そのため、サプリメントのヘム鉄は、消化能力が低下している方でも吸収しやすいというメリットがあります。
一方で、サプリメントに含まれているヘム鉄は、ヘモグロビンやミオグロビンなどの「グロビンタンパク」に包まれていないことから、より酸化・劣化に注意が必要です。
肉などに含まれているヘモグロビンやミオグロビンは、ヘム鉄がグロビンというタンパク質に強固に包まれた状態になっています。このグロビンタンパクの「保護」があるため、ヘム鉄はより酸化から守られ、高い安定性を保つことが出来ます。
これは、先ほどのお肉の例からも分かるように、お肉が酸化するとまず先にミオグロビンが酸化して「オキシミオグロビン」に変化していましたよね。
このように、ミオグロビンが先に酸化することでヘム鉄を酸化から守っています。
しかし、サプリメントのヘム鉄ではこのグロビンタンパクを酵素で分解しているため、ヘム鉄がほぼむき出しの状態となっています。(サプリメントのヘム鉄はヘム鉄ペプチド・ヘム鉄ポリペプチドとして含まれる)
この状態では、グロビンタンパクによる保護が無いため、よりポルフィリン環の中心にある鉄が酸化されやすくなります(2価鉄から3価鉄へ)。
特に、サプリメントのヘム鉄は高温多湿に弱く、湿度など水分があるとより酸化が早く進みます。
酸化・劣化したヘム鉄(Fe3+)は、ポルフィリン環による安定性が失われ、消化管内でヘム構造が分解されやすくなったり、ヘムトランスポーターからの吸収経路に適合しにくくなったりする可能性が高くなります。
このことから、サプリメントのヘム鉄は、肉や魚などと同じく
鮮度が命
です。
鮮度が高いヘム鉄サプリメントほど、酸化・劣化が少なく、錆びていない新鮮なヘム鉄として吸収出来ます。
サプリメントのヘム鉄の鮮度を維持するには、原材料として仕入れた「ヘム鉄パウダー」を長期保管しないこと、温度・湿度など適切な管理体制で保管していること、サプリメント加工時やカプセル充填時などに酸化・劣化しないよう製造管理されていること、製造後も品質が保てるよう、保存状態を適切に管理し、流通させるなどかなりの品質管理体制が求められます。
ヘム鉄サプリメントにピンからキリまである理由の一つは、この品質管理の違いによるものです。
ヘム鉄サプリメントは、肉や魚などと同じように「生鮮食品」です。肉や魚などと同じく、鮮度が高いほど鮮度維持にコストがかかり、価格が高くなります。
逆に、肉や魚は鮮度が低くなると「見切り品」として半額シールが貼られるなど、価格が安くなりますよね。
同じような感じで、鮮度維持にコストをかけていないヘム鉄サプリメントは、価格が安くなる傾向にあります。特に大量仕入れ、大量保管でコストを抑えているようなヘム鉄サプリメントは要注意です。
また、ヘム鉄サプリメントには「不溶性」のものと、「水溶性」のものがあります。不溶性のヘム鉄は水に溶かされて利用されることはほぼありませんが、水溶性のヘム鉄は飲料やゼリーなど水に溶かして利用する目的で開発されています。
ヘム鉄は水分と接触することでより早く酸化が進むため、水溶性のヘム鉄を飲料やゼリーなどに溶かして利用されている場合は、よりヘム鉄の酸化・劣化に注意が必要です。
このような鮮度の違いやサプリメントの設計の違いなどによって、同じように見えるヘム鉄サプリメントでも吸収率が変わってくる可能性があります。
ヘム鉄自体の吸収を促進したり吸収を阻害したりする大きな要因は殆どありませんが、鮮度や質には注意して下さい。
ちなみに・・・
ビタミンCには、ミオグロビンの酸化やヘム鉄の酸化を抑えてくれる働きがあります。また、三価の鉄に酸化したヘム鉄を、二価の鉄に還元してくれる働きもあります。腸管内では三価のヘム鉄、二価のヘム鉄どちらも吸収することが出来ますが、鮮度の高い二価鉄を含むヘム鉄を吸収した方が、より血清鉄としての利用がしやすいというメリットがあります。
そのため、ヘム鉄サプリメントを摂る際はビタミンCと一緒に摂るのはオススメです。
とは言え、ビタミンCはあくまでヘム鉄を酸化から守る働きをするものであって、一度加熱されて変性したヘム鉄や、安定性を失ったヘム構造を再び復活させるような働きはありません。
ヘム鉄は鮮度が命ですので、ヘム鉄サプリメントを選ぶ際は鮮度を重視しましょう。
参考
※1
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