先日、米国にてプロテインパウダーから鉛やカドミウム検出が検出されたというニュースが発表されていました。

 

このニュースでは、オーガニックのプロテインパウダーは、平均すると非オーガニック製品に比べて鉛の含有量が3倍、カドミウムは2倍、 大豆やコメ、マメ類などを原料とする植物性パウダーの場合、ホエイパウダーと比べて鉛の含有量は3倍に上ったとのことです。

 

 

他にも、記事にはこのような記載がありました。

 

チョコレート味のプロテインパウダーについては、バニラ味に比べて鉛の含有量が4倍、カドミウムは最大で110倍に上った。 ダークチョコレートにはフラボノイドや抗酸化物質などの有益なミネラルが豊富に含まれる半面、高濃度の重金属が含まれることも分かっている。2024年7月の調査では、72種類のダークチョコレート製品のうち43%から、カリフォルニア州安全飲料水および有害物質施行法(プロポジション65)で定める許容量0.5ppmを超す鉛が検出された。

 

クリーンラベルプロジェクトの24年調査は、プロテインパウダーのベストセラーブランド70社の160製品を対象とした。ただし製品名は公表していない。 プロテインパウダーは独立の認定検査機関に送り、258種類の汚染物質について約3万6000回の個別検査を行った。 このうち今回の報告の対象としたのは鉛、カドミウム、ビスフェノールA(BPA)およびビスフェノールS(BPS)のみ。残る汚染物質のデータは後日公表するとしている。 BPAとBPSについては、18年の検査では55%の製品から検出されていたが、今回の検査では調査対象とした160製品のうち検出されたのは3製品のみだった。 重金属については、鉛とカドミウムの含有量をカリフォルニア州のプロポジション65の基準値と比較した。 その結果、全体では160製品のうち47%がカリフォルニア州の基準値を超え、21%については含有量が基準値の2倍に上ることが分かった。 鉛の含有量が基準値を超えていた製品は、植物性パウダーとオーガニックパウダーでは80%近くに上る一方、コラーゲンパウダーは26%、ホエイパウダーは28%にとどまった。

 

このニュースに対して、僕なりの見解を書いておこうと思います。

 

まず、食品内における鉛やカドミウムの含有は、プロテインパウダーに限った物では無く、農産物の殆どに含まれています。

 

これは、鉛やカドミウム等が元々の土壌に広く存在しているため、植物が生長する際には他の栄養素と共に鉛やカドミウム等の重金属も吸い上げながら成長、蓄積していくためです。

 

特に鉛に関しては、地殻に比較的豊富に存在し、自然由来の鉛が環境中に広く分布するほか、現在までに有鉛ガソリンの使用による大気汚染、鉛鉱山や製錬所からの排出、鉛管、蓄電池、ハンダ、含鉛塗料等の利用によって人為由来の鉛も環境中に拡散しています。

 

そのため、日常生活においては、食事(食物だけではなく飲料水や食品用器具・容器包装からのばく露も含む。 )、大気、土壌、室内塵等の幅広い媒体から鉛の影響を受けているものと考えられます。

 

(食品安全委員会鉛ワーキンググループより

https://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/iken-kekka/kekka.data/pc1_namari_lead_030512.pd

 

 

つまり、食品から鉛やカドミウムが検出されること自体、別におかしな事ではありません。また、前述した理由から鉛やカドミウムの含有量をゼロにすることも、ほぼ不可能です。

 

この事を前提とした場合、問題となるのは、食品に含まれている鉛やカドミウムの量がどれだけ多く含有していたのか?ということです。

 

先ほどのニュース内では、「重金属については、鉛とカドミウムの含有量をカリフォルニア州のプロポジション65の基準値と比較した」とありますが、実際の基準値や検査方法などについては明記されていません。

 

そのため、実際にどのくらいの重金属が含有していたのかについては不明です。ニュース内に置いても、「サプリメント製造業者でつくる業界団体はCNNの取材に対し、今回の報告では汚染判定にどのような基準が使用されたのか、製品がどのように選定されたのをめぐる透明性が不十分だと反論している。」と書かれています。至極当然の反論かと思います。

 

 

ここからは僕の考察になりますが、ニュースの内容からそれらしきキーワードを参考に、このニュースの本質を探ってみましょう。

 

まず、今回の調査で使用されたカリフォルニア州のプロポジション65の基準値についてです。

 

プロポジション 65とは、カリフォルニア州で販売されている製品に含まれる有害な化学物質について、州民に警告する義務を定めた州法のことです。正式名称は「1986年の安全飲料水および有害物質施行法」で、1986年に住民投票により可決されました。

 

プロポジション65は、企業に警告表示を義務付けることで、消費者が情報に基づいて製品を選択できるようにすることを目的としたものです。主に発がん性または生殖毒性があると科学的に知られている化学物質のリストを作成し、リストに掲載されている化学物質への有意な暴露がある場合、事業者は製品や施設において明確かつ合理的な警告表示を提供しなければなりません。

 

この法律により、カリフォルニア州で販売される製品は、プロポジション65の要件を満たす必要があります。

 

ただし、プロポジション65の警告は、必ずしも製品が危険であることを意味するわけではありません。あくまで、リストに記載されている化学物質がリスクと認定されたレベルで存在する場合には、製品に適切な警告文を表示することを要求するというものになります。

 

 

このプロポジション65では、主に2つの基準値が用いられています。NSRL(No Significant Risk Level:重大なリスクがないレベル)と、MADL(Maximum Allowable Dose Level:最大許容投与量レベル)です。

 

NSRLは、発がん性物質に適用される基準値です。

これは、70年間毎日、ある物質に特定の量だけ暴露しても、10万人中のがん発症リスクが1人を超えないと推定される暴露レベルです。つまり、非常に低いリスクレベルを示しています。

 

もう一方のMADLは、生殖毒性物質に適用される基準値です。

これは、人間または実験動物において、生殖への悪影響が観察されない最大投与量レベルを基に、安全係数を適用して算出された暴露レベルです。

 

どちらも、基準値を超える場合は、「明確かつ合理的な警告」を表示する必要があります。NSRLとMADLはあくまで基準値であり、これらの値を超えているからといって、必ずしも健康に悪影響があるとは限りません。警告表示は、消費者が情報に基づいて製品を選択できるようにするためのものです。

 

 

そして、プロポジション65における鉛の基準値は、次のようになっています。


がん
重大なリスクレベルなし(NSRL)-経口:

15 µg/日

生殖毒性
最大許容投与量レベル(MADL):

0.5 ug/日

 

https://oehha.ca.gov/proposition-65/chemicals/lead

 

 

仮に、ニュース中で用いられた基準値をMADLの0.5 ug/日とした場合、この基準値を超える鉛を摂取することによって、どのような健康被害が考えられるでしょうか?

 

また、鉛の検出量が基準値を超えたプロテインパウダーは、危険と言えるのでしょうか?

 

プロテインパウダーの実際の鉛含有量については、「ら・べるびぃ予防医学研究所Blog」さんがいくつかのプロテイン成分を調査した結果を載せてくれています。

 

 

調査を行ったプロテインBは「エンドウ豆プロテイン」で、20gあたり0.52㎍の鉛と、

0.49㎍のカドミウムが含まれていました。どちらも、ホエイプロテインに比べてやや高い数値です。

 

先ほどのプロポジション65のMADLの基準値は0.5 ug/日なので、このエンドウ豆プロテインを20g摂取するだけでMADLの基準値を超えてしまいます。

 

ニュース記事中にも、

 

鉛の含有量が基準値を超えていた製品は、植物性パウダーとオーガニックパウダーでは80%近くに上る一方、コラーゲンパウダーは26%、ホエイパウダーは28%にとどまった。

 

とありますので、殆どの植物性プロテインはMADLの基準値を超えていたのだろうと考察することが出来ます。

 

では、この基準値を超える鉛が含有しているプロテインを摂取することで、どのような健康被害が考えられるのでしょうか?

 

この答えを探るために、まずは日本人の一日あたりの鉛摂取量を見てみましょう。食品安全委員会による鉛のQ&Aでは、次のように書かれています。

 

Q6:食事からどのくらい鉛にばく露されていますか。

A6:2019年に実施された研究では、平均的な日本人の食事からの鉛の推定一日摂取量(食物だけではなく飲料水や、食品用器具・容器包装からのばく露も含んだ食事性ばく露全体の推定量)は8.88 µg/日となっています。

食事からの鉛の推定一日摂取量(一人当たり)は、1978年には100 µg/日以上ありました。しかし、1982年までに、有鉛ガソリンの規制といった対策により激減し、その後も、さまざまな対策により一定程度減少し、現在は1970年代の十分の一以下になっています。鉛の推定一日摂取量の経年変化(1977〜2019年)は図1のとおりです。

 

 

 

 

このデータでは、平均的な日本人の食事からの鉛の推定一日摂取量は8.88 µg/日とされています。これは、私達が生きていくために食べ物などを食べていると、普通に入ってきてしまう鉛の量です。

 

この推定一日摂取量に対して、基準値を超えていたとされるプロテインパウダーはどうでしょうか?

 

たった0.5 ug/日です。

 

ものによってはこの基準値の倍の量が含まれていたと考えられますが、それでも1µg/日程度です。一日に三回飲んだとしても1.5µg~3µg程度で、平均的な日本人の食事からの鉛の推定一日摂取量にも及びません。

 

また、プロテインを摂取して鉛摂取量が12µg/日になったとしても、2000年代の20µg/日に比べたら遙かに低く、NSRLの15µg/日にも及びません。

 

よって、殆ど気にしなくても良いレベルかと思います。

 

今回のニュース記事の内容は、ただ不安を煽るだけの内容で、殆ど何の役にも立たないというのが結論です。

 

 

ネット上にはこのようなただ不安を煽るだけの記事や情報が沢山あります。もしかすると、今回の様なニュースを見て「プロテインは危険だから飲むのをやめよう」と思ってしまった方も多いかと思います。

 

情報を精査できないと、ただ不安を煽られてせっかくの健康習慣を失ってしまうことにも繋がりかねません。

 

情報に触れる際は、信憑性があるかどうかをきちんと精査することが大切です。ご自身で調べる自信が無い方は、専門家に相談しましょう。

 

 

鉛・カドミウムの対策法

最後に、鉛やカドミウムの対策法について、分子栄養学の観点から解説しておきます。

 

まず、鉛やカドミウムは摂取したからといってそれがそのまま吸収されるわけではありません。鉛やカドミウムの吸収は、鉄、カルシウム、亜鉛、タンパク質などの摂取量や栄養状態によって異なります。

 

また、摂取後、吸収されも蓄積されなかった鉛は、主に腎臓を通して尿から排泄されます。そのため、肝臓や腎臓の健康状態も重要です。

 

 

次は、プロテインに含まれる鉛やカドミウムの対策法の流れです。

 

①重金属の成分分析を行ったプロテインを選ぶ

プロテインは、物によっては鉛やカドミウムの含有量が無視できないほどの高容量で含まれているものもあります。ニュース記事にある様に、オーガニックのプロテインは非オーガニックに比べて鉛とカドミウムの含有量が高い傾向にありました。

 

オーガニックだから安全な物、良い物とは限りません。そのため、なるべく重金属が含まれていないものを選ぶことが大切です。

 

おすすめは、重金属などの成分を分析しているプロテインを選ぶことです。例えば、分子栄養学実践専用サプリメントのケンビックスシリーズでは、定期的に成分分析を行って公表しています。

 

ペプタ100の例。この結果では、重金属(鉛)として20ppm以下の基準をクリアしている。

 

このようなプロテインを選ぶことで、鉛やカドミウムの過剰摂取を予防することが出来ます。

 

また、オーガニック商品やグラスフェッドプロテインを安全な物、良い物と妄信しないこと、安すぎるプロテインは選ばないことともオススメです。

 

安いプロテインは、原材料を安く抑えたり、重金属など安全性に関わる検査を省いたりして価格を安く抑えています。プロテインの質そのものや安全性に懸念があるため、オススメしません。

 

オーガニックやグラスフェッドプロテインについても、重金属などの成分分析を行っていないものについては選ばないようにしましょう。特にグラスフェッドプロテインについては、牛のエサとなる牧草にも鉛やカドミウム等が含まれています。この牧草が農薬にまみれていたり、重金属で汚染されていたりすると、プロテインも汚染されている可能性が高まります。

 

プロテインを選ぶときは、質の良い原材料を使用し、成分分析も行っている質の高いプロテインを選びましょう。オススメは、分子栄養学実践専用サプリメントのケンビックスシリーズです。

 

②貧血を改善する

次に、貧血を改善することも重金属を体内に入れないようにするために重要です。

鉄と多くの重金属(カドミウム、鉛など)は、腸管で同じ輸送体(DMT1)を用いて吸収されます。そのため、鉄の吸収が活発になると、これらの重金属の吸収も促進される可能性があります。

参考:https://kaken.nii.ac.jp/en/file/KAKENHI-PROJECT-20390175/20390175seika.pdf

 

特に、鉄欠乏性貧血など体内で鉄が不足していると、腸内ではより多くの鉄を吸収しようとします。この時、鉛やカドミウム等が存在すると、鉄以外の重金属の吸収も増加してしまう可能性があります。

 

そのため、鉄欠乏性貧血をはじめとした貧血が見られる場合は、第一に貧血を改善することが重要です。

 

この時、単に鉄を補給すれば貧血が改善出来るわけではありません。血液の成分を作るためには、鉄以外にもタンパク質やビタミンB群、ビタミンC、亜鉛なども必要です。

 

また、摂取する鉄については「ヘム鉄」がオススメです。非ヘム鉄や海外サプリメントの「アミノ酸キレート鉄」は、胃腸障害や鉄過剰の危険性がありますのでオススメしていません。

 

また、二価鉄など非ヘム鉄を大量に摂取した場合、二価鉄イオンによって多くの重金属の溶解度を上昇させる傾向があり、腸管からの重金属吸収を促進する可能性があります。

 

よって、補給する鉄の種類は慎重に選ぶ必要があります。鉄の種類や貧血に対する具体的な分子栄養学的アプローチについては、こちらをご覧下さい。

 

 

 

③亜鉛を十分に摂取する

亜鉛には、メタロチオネインの合成を促進し、有害な金属の吸収抑制と排泄を促進する働きがあります。

 

具体的には、亜鉛を多く摂取すると、腸内でメタロチオネインというタンパク質の合成量が増加します。亜鉛はメタロチオネインに結合して、その構造を安定化させ、他の金属とも結合できる準備が整います。

 

そして、水銀やカドミウムなどの有害金属が体内に入ると、亜鉛を切り離してカドミウムや水銀などの重金属と非常に強い結合を形成します。これは、カドミウム、銅、水銀などのほうが亜鉛より結合力が強いため、亜鉛と置き換わるためです。

 

メタロチオネインが水銀やカドミウムを捕まえると、その重金属は「隔離」されて無毒化された状態になります。これにより、有害な重金属が体内で自由に反応して他の重要な細胞やDNAにダメージを与えるのを防ぐ働きがあります。

 

その後、メタロチオネインと結合した重金属は小腸粘膜の剥離と共に便中に排泄されるか、体内の特定の部位に安全に保管されます。

 

このように、亜鉛はメタロチオネインの構造を安定化させ、有害な水銀やカドミウムと結合させることで、これらの金属が体内で悪影響を及ぼすのを防いでいます。

 

メタロチオネインは亜鉛の摂取量が増加すると合成が促進されるので、重金属の排泄には亜鉛を積極的に摂取することがオススメです。

 

ただし、闇雲に亜鉛を摂取すると銅欠乏症を引き起こす可能性があります。摂取する亜鉛サプリメント等は、何でも良いというわけではありません。

 

亜鉛についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、亜鉛を摂取する前に必ず学んでおきましょう。

 

 

④カルシウムを十分に摂取する

亜鉛の他、カルシウムを十分に摂取することも有効です。カルシウムと重金属の吸収は、互いに影響し合うことが知られています。

 

例えば、カルシウムと一部の重金属(鉛、カドミウムなど)は、腸管で同じ輸送体を用いて吸収されることがあります。そのため、カルシウムの摂取量が増えると、これらの重金属の吸収が抑制される可能性があります。

 

また、カルシウムは、腸管内のpHを変化させる働きがあります。腸内がアルカリ性に傾くと、一部の重金属の溶解度が低下し、吸収が抑制されることがあります。

 

この他、カルシウムは、一部の重金属と結合して不溶性の化合物(キレート)を形成することがあります。これにより、重金属の吸収が阻害されます。

 

このように、カルシウムも重金属の吸収に関わっていることから、カルシウムも十分に摂取しておくことが大切です。

 

ただし、カルシウムだけを漠然と長期間摂取すると、カルシウムの過剰摂取により高カルシウム血症などを引き起こす可能性があります。

 

カルシウムが良いからと言って、カルシウムだけを摂取し続けてはいけません。カルシウムは、マグネシウムやビタミンDなど、様々な栄養と協力して働いています。

 

そのため、カルシウムを摂取するときは、その他の栄養素もしっかりと節酒する必要があります。また、カルシウムにも様々な種類があり、生体内利用効率も考えてカルシウムを選ぶ必要があります。

 

カルシウムについてはこちらで詳しく解説していますので、カルシウムを摂取する前に必ず学んでおきましょう。

 

 

 

最後に、プロテインやサプリメントの必要量や、消化・吸収能力、代謝能力には個人差があります。プロテインやサプリメントを摂取する際は、このような個人差を考慮することが大切です。

 

特に高容量の栄養成分を摂取する場合、安全に行うためには肝臓や腎臓の状態などもチェックしながら行う必要があります。

 

これらをチェックするためにも、必ず定期的に血液検査を受けるようにして下さい。栄養状態のチェックや、栄養の需要を知るための検査としては、「オーソモレキュラー療法」の検査がオススメです。

 

まだ受けたことが無い方は、この機械に是非受けてみて下さい。オーソモレキュラー療法については、こちらで詳しく解説しています。