貧血があると低血糖症が重くなる。朝起きられない、あまり食欲が無いなど、低血糖症以外にも様々な不調を抱えている場合は、貧血も疑いましょう。

お子さんの場合は、食事量の不足や消化吸収能の低下などで低血糖症に陥りやすくなる以外にも、貧血によって低血糖症を引き起こしやすくなります。

 

これは、成長期に伴う鉄の需要増加に加え、女の子の場合では生理によって出血してしまうことからも「鉄欠乏性貧血」に陥りやすくなるためです。また、食事量の不足や偏った食生活によって鉄分の摂取量が少なくなってしまう場合も鉄不足を引き起こすことがあります。

鉄欠乏性貧血とは、その名の通り鉄の摂取量が少ない場合や不足している場合に起こる貧血のことです。この鉄欠乏性貧血は、全体の貧血原因の約7割を占めていると言われています。

 

この鉄欠乏性貧血は子供に多く、理由としては骨や皮膚などの成長や合成に鉄分が欠かせないためです。特に子供の身長が伸びる速度は著しく、骨を伸ばすためには骨の鉄筋部分を担う「コラーゲン」が欠かせません。このコラーゲンは鉄を材料に作られており、骨以外にも肌や歯肉など様々な組織においてコラーゲン繊維が重要な役割を果たしています。

 

成長期のお子さんは身長を伸ばすためにコラーゲンの合成量が著しく、日々大量の鉄分が消費されています。また、初潮を迎えた女の子の場合は毎月月経によって定期的に出血しますので、さらに鉄分の消費量と必要量が増加します。

 

他にも、先ほど解説した消化吸収能の低下や、病気、怪我などによって出血量が多くなったり、部活など運動の衝撃によって溶血が亢進すると鉄欠乏性貧血になりやすくなります。

 

このことからも、成長期のお子さんは貧血になりやすい傾向にあります。加えて、現代の食生活で摂取量が多くなったコーヒーや紅茶などのジュースや、レトルト、インスタント食品の摂取量増加によって、十分な鉄分を補給することが難しくなりました。

 

これらは「タンニン」や「リン酸」などが多く含まれており、これらの成分は鉄分の吸収を阻害してしまいます。そのため、余計に鉄欠乏性貧血に陥りやすくなってしまうのです。

 

鉄欠乏性貧血に陥りやすくなる原因

  • 朝食を抜くなど食事量の不足

  • パンやお菓子、ラーメンやうどんなど、偏った食生活

  • 肉類の摂取量低下、菜食主義

  • コーヒーや紅茶の摂りすぎ(タンニンの影響)

  • レトルトやインスタント食品の摂りすぎ(リン酸の影響)

  • タンパク質不足

  • 胃の消化能力低下

  • ビタミンCやビタミンB群、亜鉛など造血に必要な栄養素の不足

そんな貧血の主な症状としては、「朝起きられない」「めまいや立ちくらみがする」「爪がもろくてすぐ割れる」「喉に違和感があり、物を飲み込みにくい」などがあります。この他にも、下図のように様々な症状が引き起こされます。

 

鉄欠乏性貧血とその症状

  1. めまい、立ちくらみがある

  2. 爪先が割れる、もろい

  3. 頭痛、耳鳴りがする

  4. 風邪を引きやすい、風邪が長びく

  5. 疲労感がある、何となくだるい

  6. 下痢をしやすい

  7. むくみやすい

  8. イライラしやすい

  9. 軽い動作で動や息切れがする

  10. 注意力が低下している

  11. 寒がり、冷え症である

  12. 喉に違和感がある、カプセルが飲みにくい

  13. 朝起きられない

  14. 口内ができやすく、荒れやすい

  15. 食欲がない

  16. 歯茎から出血しやすい

  17. 顔色が悪い

  18. 知らないうちにあざが出来ている

  19. 毛穴が開いている、肌のきめが粗い

  20. 好き嫌いが多い、菜食主義である

  21. 化粧ののりが悪い

  22. 痩せている(BMI*が18以下)

  23. 抜け毛、キレ毛が多い、つやがなくパサつく

  24. 代謝が悪く、太りやすい

このような不調の症状が多岐にわたることから、元々は貧血が原因にも関わらず「うつ病」や「パニック障害」「起立性調節障害」などの精神疾患と間違えられてしまう場合も少なくありません。しかも、貧血と低血糖症の症状は似ている部分もあり、この2つの症状が重なる事で更に症状が酷くなることもあります。

 

例えば、低血糖症の主な症状を下記の表にまとめてみました。鉄欠乏性貧血の症状と見比べてみると、かなり似ていることが分かりますよね。

 

低血糖症の主な症状

  • 全身の倦怠感、疲れやすい

  • 集中力が無い

  • 眠気が強く、朝起きられない

  • 寒がり、低体温

  • 動悸がする

  • めまいがする

  • 冷や汗をかく

  • 不眠

  • イライラする

  • 頭痛

  • 神経過敏

  • 不安、恐怖感が強くなる

  • 太りやすくなった

また、貧血と低血糖症はどちらも症状が似ているので、低血糖症の裏に貧血が隠れていることにも気がつかない場合が多いです。もしくは、どちらも徐々に進行していくことから不調の状態に慣れてしまい、貧血や低血糖を抱えていることにすら気がつかない人もいるほどです。このため、貧血も低血糖症も精神疾患など他の病気と間違えられやすい病気でもあります。

 

そして、この貧血の中でも気をつけたいのが、病院では貧血と診断されていないけど貧血になっている「隠れ貧血」の存在です。通常、貧血かどうかの判断は病院の血液検査で診断してもらいますよね。

 

しかし、現在の病院では貧血の診断を「ヘモグロビン」「赤血球」の値が低いかどうかだけで診断を行っています。ヘモグロビン値の低下は確かに貧血を診断する指標となるのですが、この値が一定以下にまで低下していない限り、仮にギリギリ下限の値だったとしても貧血と診断されません。この貧血と診断されていなくても貧血の状態になっている「隠れ鉄欠乏性貧血」のお子さんが非常に多くなってきているのです。

 

隠れ貧血とは、赤血球数やヘモグロビン値が正常値の範囲内だったとしても、「フェリチン値」のみが低値を示している状態であることです。フェリチンとは貯蔵鉄の事で、貧血が進行していく際には真っ先にこの貯蔵鉄から使われます。

 

具体的には、血清フェリチン値が40ng/mL以下になっている状態で、このフェリチンの量が少なくなってしまうと、いざ出血してしまったときにヘモグロビンなどに使う鉄が十分にありません。その結果、通常時は貧血と診断されていなくても、月経などで出血した場合にスグに貧血に陥ってしまいます。このような状態が、隠れ貧血と言われている状態です。

 

この隠れ貧血の状態では、ヘモグロビン値が下がっていなくても貧血と同じような不調が引き起こされていきます。また、貧血が徐々に進行していくことから、貧血だと気がつかないまま徐々に頭痛やめまい、倦怠感や食欲不振、朝起きられないなどの症状が悪化している場合もあります。

 

このような貧血と診断されていないけど貧血に陥ってしまっているお子さんはかなり多く、一般的な病院の血液検査ではまず見つけてくれません。このような貧血と診断されていないけど実際には貧血が隠れている「隠れ貧血」や「潜在性鉄欠乏性貧血」のお子さんも、低血糖症になりやすくなるので注意が必要です。

 

貧血になりやすいお子さんの特徴

  • 朝食を抜くことが多い

  • パンなど炭水化物の摂取量が多く、肉類の摂取量が少ない

  • 小食であまり量を食べられない

  • 偏食がある

  • お腹の調子がいつも悪い

  • 身長が高い

  • 親が貧血と診断されたことがある

  • 初潮を迎えている

  • 部活などで激しい運動をしている

では、具体的に貧血と低血糖症にはどのような関係があるのでしょうか?


1つ言えることとして、貧血があると低血糖症になりやすくなるという傾向があります。その理由は、貧血の状態だと身体が作り出せるエネルギー生成量が低下してしまうためです。

 

貧血は単に血が足りないだけと思われがちですが、それだけではありません。血液や鉄分は体内の細胞に酸素や栄養を届けたり、脳の神経伝達物質を合成する材料としても使われています。そのため、貧血だとその分だけ全身に酸素や栄養を運ぶ能力が低下し、糖をエネルギーとして利用する能力が低下してしまいます。

 

また、貧血では脳の神経伝達物質の合成量が低下することから、自律神経の乱れや学力の低下も引き起こす原因です。この自律神経の乱れが引き起こされると、身体は強いストレスを受けて血糖値の正常な維持が出来なくなります。

 

このことから、貧血は低血糖症や起立性調節障害、PMS(月経前症候群)などを発症する原因となりえます。

なぜ、貧血、鉄不足が低血糖症の原因に? 貧血と低血糖症の深い関係

では、ここからは貧血と鉄不足がなぜ低血糖症の原因になるのかについての具体的な解説に移りましょう。この関係を理解しておくことは、今後低血糖症と貧血改善を行っていく上で役に立つはずです。

 

まず、鉄分が私達の身体の中でどのように働いているのかについてです。鉄分は、全身に酸素を運ぶためのヘモグロビンの材料して使われる以外にも、全身の細胞がエネルギーを生み出す際の補酵素として使われています。

 

具体的には、私達が食べた糖質や脂質、タンパク質などは胃で消化され、小腸で吸収された後に血液中にのって全身へと運ばれます。全身へと運ばれた栄養素は細胞内のミトコンドリアへと運ばれ、このミトコンドリアがATPと呼ばれるエネルギーを産生することで、私達は筋肉を動かしたり体温となる熱をエネルギーを生み出しています。

 

このミトコンドリアがエネルギーを生み出すときには、鉄分を始めとしたミネラルやビタミンB群などが必要です。もし、貧血などで鉄が足りないと、ミトコンドリアがエネルギーを作る事が出来なくなってしまいます。

 

それから、鉄分から作られるヘモグロビンは体中に酸素を運ぶ役割も担っています。ミトコンドリアがエネルギーを産生するときには、この酸素も欠かせません。酸素が不足することで更にエネルギー産生能力が低下し、糖のエネルギー利用や糖代謝が更に低下してしまうことに繋がります。

 

つまり、貧血になってしまうと①糖質、脂質、タンパク質などの栄養を細胞の隅々まで運ぶ能力が低下し、鉄が不足することでミトコンドリアがエネルギーを作り出せなくなります。さらに、③貧血状態では酸素の運ぶ量が低下し、ミトコンドリアが利用出来る酸素も減ってしまうのです。

 

この3つが重なる事でミトコンドリアが糖質や脂質、タンパク質などをエネルギーとして利用出来なくなってしまい、全身の細胞の働きや臓器の働き、糖の代謝が落ちてしまいます。これが、貧血から低血糖症へと繋がってしまう理由です。

 

例えば、貧血ではお子さんに多い「ケトン性低血糖症」を引き起こしやすくなる以外にも、糖分の取り過ぎや糖の代謝が低下した事による「血糖値スパイク」や「隠れ低血糖」「機能性低血糖症」を引き起こしやすくなります。

 

隠れ低血糖や機能性低血糖症とは、炭水化物や甘い物を食べたときに血糖値が急上昇し、その後急降下して低血糖症に陥ってしまう低血糖症のことです。

 

通常、糖分(グルコース)は貯蔵型の糖であるグリコーゲンとして肝臓や筋肉に貯えられ、運動時や低血糖時などに必要に応じて使われています。これら糖をエネルギーとしてうまく使えない状態だと、そのぶんだけ血管内に余分な糖が溢れることになります。

 

この溢れた血糖はインスリンの過剰分泌を引き起こし、インスリンの効き過ぎによって血糖値が下がりすぎます。このような状態が、機能性低血糖症のような血糖値の乱高下を引き起こす原因となります。また、インスリンの機能が低下していたり、糖の代謝が落ちている場合も機能性低血糖症に繋がることがあります。

 

イメージとしては甘い物や炭水化物の摂りすぎによって血糖値が急上昇し、その後すい臓から血糖値を下げるためのホルモンであるインスリンが大量に分泌します。インスリンが大量に分泌されたことによって血糖値が急降下し、低血糖に陥ります。

 

この時、低血糖は脳を動かすためのエネルギーが足りなくなるため、耐えがたいほどの眠気や動機、冷や汗や息苦しさ、不安感や気分の落ち込み、頭痛など様々な不調が表れます。さらに、意識を失ったり命を失うリスクがあることから、身体は血糖値を上げるために副腎髄質からアドレナリンやノルアドレナリン等の血糖値を上げる作用のあるホルモンを分泌します。

 

これら血糖値を上げる作用のあるホルモンは、同時に交感神経を刺激するため、イライラしたり不眠になったり、ちょっとしたことで爆発的な怒りが湧いてきたり等の精神症状、身体症状を引き起こしてしまうのです。

 

このような精神症状を伴う血糖値の乱高下を引き起こしてしまう状態を「反応性低血糖症」や「機能性低血糖症」、「隠れ低血糖症」といいます。これら機能性低血糖症では、血糖値の波の状態に応じて精神症状や自律神経症状を伴うのが最大の特徴です。血糖値スパイクが引き起こされている状態では、糖がインスリンによって中性脂肪に貯えられてしまうため、脂肪肝や肥満になりやすくなります。

 

この他にも、貧血になると消化吸収能の低下や代謝の低下、自律神経の乱れを引き起こし、血糖値が下がったときに血糖を十分に上げられなくなってしまいます。この結果、引き起こされやすいのがお子さんに多い「ケトン性低血糖症」や無反応性低血糖症のような血糖値を上げられない低血糖症です。

 

無反応性低血糖症とは、何を食べても血糖値が十分に上がらず、ずっと低値の状態に留まってしまう状態の事です。無反応性低血糖症の原因は、食べた物がちゃんと消化吸収出来ないために血糖値が上げられないほか、正常な血糖値を維持するために必要なホルモンを分泌している「すい臓」や「副腎」が疲れ切ってしまっていることも原因として考えられます。

 

例えば、鉄分はミトコンドリアのエネルギーとして使われる以外にも、脳の神経伝達物質の材料としても使われています。脳の神経伝達物質とは、分泌されると幸せな気分になったり、感情をコントロールしている物質のことで、うつ病の原因と関係があると言われている「セロトニン」などが有名です。このセロトニン以外にも「ノルアドレナリン」や「ドーパミン」など様々な神経伝達物質がバランス良く分泌されて、私達の精神や自律神経が保たれています。

 

この神経伝達物質の材料には、鉄分が欠かせません。まず、神経伝達物質を合成するためには、材料として「アミノ酸」が必要です。このアミノ酸は、肉や魚などのタンパク質を胃で分解し、小腸で吸収することで補給しています。このアミノ酸にはおよそ20種類ありますが、そのうち脳の神経伝達物質として利用出来るのは「L-グルタミン」と「L-フェニルアラニン」「L-トリプトファン」です。

 

そして、この3つのアミノ酸がそれぞれ「鉄」や「葉酸」「ナイアシン」などを利用して「L-グルタミン酸」や「L-チロシン」「5-HTP(ヒドロキシトリプトファン)」などに合成され、最終的に「GABA」や「ドーパミン」「セロトニン」や「メラトニン」などに合成されて利用されています。

 

この脳の神経伝達物質を合成する際には、必ず鉄が必要です。例えば、「L-フェニルアラニン」から「L-チロシン」に合成する際には鉄が必要ですし、「L-トリプトファン」から「5-HTP(ヒドロキシトリプトファン)」に合成する時にも鉄が必要です。この時に体内で鉄分が不足していると、脳の神経伝達物質を合成するための材料が足りなくなってしまい、自律神経の乱れやうつ症状、朝起きられない、ストレスの増加、頭痛やめまいPMSや消化吸収能の低下など様々な体調不良へと繋がってしまうのです。

 

それから、「セロトニンは幸せホルモン」だということをどこかで聞いたことがありませんか?セロトニンはノルアドレナリンやドーパミンなどを調節する以外にも、分泌されることで多幸感を得られるホルモンでもあります。


このセロトニンから合成される「メラトニン」は、体内時計を司っていたり質の良い睡眠を司っており、リラックスするための副交感神経を優位にするホルモンでもあります。

 

これら脳の神経伝達物質合成が出来なくなってしまうということは、副交感神経を優位にする事が出来なくなってしまうことに繋がります。副交感神経が優位に出来ない場合は、リラックス出来ない状態が続いてしまうということです。この状態では常に交感神経が優位の状態に陥り、交感神経優位の状態では胃や腸の働きが低下してしまいます。

 

加えて、交感神経優位の状態では常に神経が高ぶって身体がストレスを受け続け、先ほど解説した副腎からストレスに対抗するためのホルモンが大量に分泌されます。このことから、副腎が疲れて副腎疲労へと進行し、結果的に低血糖症へと繋がってしまうことがあるのです。

 

 

 

 

 

 

この記事は、下記記事から一部を抜粋・改編したものです。記事全文は下記記事をご覧下さい。元記事はこちら↓