貧血を改善させるための具体的な分子栄養学的アプローチ②
貧血改善には腸内環境改善も重要! 短鎖脂肪酸の産生量を増やすことで鉄・亜鉛の吸収率もアップ
貧血改善を行う際は、鉄分や亜鉛を補給する以外にも同時に腸内環境を整えることも重要です。先ほども解説しましたが、貧血や低血糖症を抱える状態では自律神経が乱れることから、胃と腸の働きが低下して腸内環境が悪化しやすくなります。
この腸内環境の善し悪しは鉄分や亜鉛の吸収にも大きく関係しており、腸内環境が悪い状態ではいくら鉄分や亜鉛を補給しても十分に吸収することが出来ません。これだと、せっかく摂った鉄分や亜鉛が無駄になってしまいます。そうならないためにも、しっかりとミネラルが吸収出来るように腸内環境を整えていきましょう。
腸内環境を整える上で重要な存在が、腸内細菌です。いい菌が多いと、ミネラルの吸収を助けてくれたり、腸内環境を良くしてくれたりと様々な良い働きをもたらしてくれます。その腸内細菌の中でも、ミネラルの吸収を助けてくれる働きをするのが「酪酸菌」「乳酸菌」「ビフィズス菌」「大腸菌」です。
例えば、酪酸菌はFe3+の鉄をFe2+に還元してくれて、小腸で吸収しやすくする働きをしてくれます。Fe3+やFe2+などの鉄イオンの違いについては、先ほど解説しましたね。鉄には二価の鉄や三価の鉄があって、Fe2+が二価の鉄、Fe3+が三価の鉄です。Fe3+の三価鉄は水に溶けませんが、Fe2+の二価の鉄は水に溶けやすいという特徴があります。
そのため、Fe3+の三価の鉄を小腸から吸収するためには、一度Fe2+の二価の鉄へと還元しなければなりません。このFe3+からFe2+への還元を手伝ってくれるのが、酪酸菌などの腸内細菌です。この酪酸菌や乳酸菌、ビフィズス菌なが腸内に多くいると、鉄分や亜鉛などのミネラル吸収を助けてくれます。
また、他にもこれら酪酸菌や乳酸菌、ビフィズス菌などの腸内細菌が多い場合は、有害菌の増殖も防いでくれます。
腸内環境には、酪酸菌や乳酸菌、ビフィズス菌などの善玉菌と、グラム陰性菌やサルモネラ菌、カンジダ菌などの悪玉菌が生息しています。この有害菌は未消化のタンパク質やコレステロール、胆汁酸などをエサに毒素や硫化水素などの有害物質を放出します。この毒素や有害物質の一部が体内に吸収されてしまうことから、腸のみならず全身に悪影響をもたらします。
また、カンジダ菌は鉄分をエサに増殖するカビ菌の一種です。このカンジダ菌が腸内で増えすぎてしまった場合は、摂取した鉄分がカンジダ菌の餌となり、小腸で鉄分が十分に吸収出来なくなってしまいます。しかも、むしろカンジダ菌に餌を与えることになるのでカンジダ菌がドンドン増えてしまいます。これでは貧血改善のために鉄分を摂れば摂るほど逆効果です。このことから、貧血改善をする際は腸内環境も整えていきましょう。
この腸内環境を整える上で重要なのが、「酪酸菌」「乳酸菌」「ビフィズス菌」「納豆菌」などの有用菌が出す「短鎖脂肪酸」です。この短鎖脂肪酸の量やバランスが整っているほど腸内環境が整っていると判断することが出来ます。
また、短鎖脂肪酸にはミネラルの吸収を助けてくれたり、腸内環境を酸性に傾けてくれたりする作用もあり、酸性に弱い有害菌やカンジダ菌の増殖抑制効果や有害物質の発生抑制、体内への侵入抑制効果もあります。
この短鎖脂肪酸の量とバランスを増やす上で最も重要な栄養素が、「食物繊維」です。食物繊維とは、胃で消化されずに腸まで届く繊維質や難消化性の糖質のことで、大きく分けて「水溶性食物繊維」と「不溶性食物繊維」があります。これらは主にワカメや昆布等の海藻類や、お米、トウモロコシなどの穀物類、フルーツや野菜などに多く含まれています。
これら食物繊維を多く含む食べ物を食べるとお腹の中で善玉菌の餌となり、餌を食べた善玉菌は腸に有益な働きを持つ「短鎖脂肪酸」を生成してくれます。この短鎖脂肪酸の量と質が、腸内の健康状態を決定づけてくれるのです。
ですので、腸内環境の改善を行う際はこの短鎖脂肪酸を意識するようにしましょう。最近流行りの腸活では、乳酸菌やビフィズス菌などの菌(プロバイオティクス)を摂ることばかりが言われていますよね。しかし、いくらいい菌を摂ったとしても、いい菌の餌になる食物繊維(プレバイオティクス)が無ければ短鎖脂肪酸は作られません。
重要なのは、いい菌であるプロバイオティクスと、そのエサとなるプレバイオティクスを両方同時に摂ることです。こうして善玉菌を増やしていけば、短鎖脂肪酸の生成量も増えていきます。短鎖脂肪酸の量とバランスが整ってくれば、鉄分の吸収アップにも繋がりますし、鉄をエサに増えるカンジダ菌の増殖抑制にも繋がります。
このような事から、腸内環境を改善させるためにも有用菌とそのエサとなる食物繊維を同時に摂っていきましょう。食物繊維が多く含まれる食べ物としては、以下のような物があります。
食物繊維が多く含まれる食べ物
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こんにゃく
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きくらげ
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寒天
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切り干し大根
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椎茸、干し椎茸
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ドライプルーン、ドライいちじく
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いりごま
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おから
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グリーンピース
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納豆
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ゴボウ
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アボカド
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ブロッコリー
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枝豆
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オクラ
このリスト以外にもワカメや昆布、キャベツなど食物繊維が多く含まれる食べ物は沢山ありますので、食材や献立を色々と工夫してみて下さい。
また、食物繊維は不溶性食物繊維と水溶性食物繊維などをバランス良く十分な量を摂取する事が大切です。食べ物からではこれら食物繊維をバランス良く十分な量を食べることが難しい上、有用菌を生きたまま腸に届ける事も難しいので、サプリメントからも補給していくことがオススメです。短鎖脂肪酸を増やすアプローチとしては、次のようなプロバイオティクス、プレバイオティクスが配合されたサプリメントを選びましょう。
短鎖脂肪酸の量とバランスを整える栄養素
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乳酸菌(有胞子性乳酸菌)
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ビフィズス菌
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酪酸菌
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納豆菌
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食物繊維(水溶性、不溶性両方)
ただし、乳酸菌などのサプリメントは様々な会社から販売されていますが、その殆どは生きて腸まで届かない可能性があります。乳酸菌やビフィズス菌などは胃酸に弱く、その殆どが胃酸や胆汁酸の影響で死滅してしまいます。このようなサプリメントを飲み続けても、腸内環境の改善には繋がりません。これはヨーグルトやキムチなど発酵食品から摂れる乳酸菌なども一緒です。
ですので、乳酸菌など有用菌は、生きて腸まで届く「有胞子性乳酸菌」が配合されている物がオススメです。有胞子性乳酸菌とは、硬い殻に覆われている乳酸菌のことです。この硬い殻に覆われていることで胃酸や胆汁酸から身を守り、生きて腸まで届きます。
また、プロバイオティクスとして最も摂りたいのが「酪酸菌」です。酪酸菌は「酪酸」という短鎖脂肪酸を作ってくれる菌で、腸内の健康状態に非常に重要な役割を担っています。これらをバランス良く含めたプロバイオティクス製品と、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維がバランス良く含まれたプレバイオティクス製品を同時に摂るようにしてみて下さい。
これら腸内環境改善のために専用に設計された製品は、オーソモレキュラー療法でも用いられています。ご興味ある方は、当方の推奨するオーソモレキュラー療法を受けてみて下さい。
それから、もしご自身の腸内でどれだけ短鎖脂肪酸が作られているか知りたい場合は、便中短鎖脂肪酸検査を受けることで分かります。
便中短鎖脂肪酸検査では、短鎖脂肪酸のバランスや量を測定することができ、腸内環境の健康度や食生活が適正かどうかが分かります。お腹の調子があまり良くない方や、前述したリーキーガット症候群の傾向がある方など、腸内の環境を良くしたい方は是非一度受けてみて下さい。便中短鎖脂肪酸検査も、当方で推奨するオーソモレキュラー療法にて受ける事が出来ます。
ただし、注意点としては便中短鎖脂肪酸検査を受ける際は必ず胃のチェックを同時に行うようにしてください
腸内環境が悪くなる原因としては、第一に胃の不調とも関連があります。胃の消化力が落ちている場合は未消化物が腸内に流れ込み、悪玉菌のエサとなって腸内環境が悪くなります。
ですので、短鎖脂肪酸検査を受ける場合や、お腹の調子があまり良くない方、前述したリーキーガット症候群に当てはまる方は必ず胃の検査も受けるようにしましょう。胃の状態は血液検査で概ね知ることができ、この血液検査はオーソモレキュラー療法にて受ける事が可能です。
胃の状態を知る血液検査項目としては、胃酸の分泌量を表すPG1や、粘膜の炎症程度を表すPG2、胃粘膜萎縮の程度を見るPG1/2比などがあります。このPG1の数値が低い場合は胃酸の分泌量が少なく、タンパク質をしっかり消化吸収することが出来ていない可能性があります。タンパク質がしっかり消化できていない状態だと、未消化のタンパク質が腸に流れて悪玉菌のエサになり、悪玉菌が増える原因となりえます。
また、ピロリ菌に感染していたり、胃粘膜の炎症や萎縮があるとタンパク質が上手く吸収できなくなってしまいます。これらの検査結果を参考に、タンパク質がしっかり消化吸収出来ているかや、胃の健康状態も同時に確認してみましょう。
もし胃の状態や腸の状態に問題がある場合は、先ほどのプレバイオティクス、プロバイオティクスに加えて腸粘膜を強化したり、消化を助けるための栄養素が必要になります。必要に応じて、次のような栄養素も組み合わせてみて下さい。
腸粘膜、消化能力を強化する栄養素
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消化酵素
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タンパク質
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グルタミン
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ビタミンB群
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ビタミンC
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ビタミンD
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ビタミンA
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亜鉛
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ヘム鉄
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レシチン
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カルシウム・マグネシウム
これらはどれか1つだけ集中的に行っても意味がありませんので、貧血対策と合わせてセットで行うようにしましょう。
この記事は、下記記事から一部を抜粋・改編したものです。記事全文は下記記事をご覧下さい。元記事はこちら↓