胃がんや慢性胃炎を引き起こす原因に、ピロリ菌の感染があります。現代では衛生環境が整ったことからピロリ菌に感染する人も減ってきました。しかし、幼少期にまだ衛生環境が整っていなかった世代の感染率は依然高い上、その次の世代である若い人にも母子感染や親族から感染するケースも見受けられます。

 

そんなピロリ菌の感染ですが、胃がんや慢性胃炎、萎縮性胃炎を引き起こす以外にも様々な病気の原因となる事が分かってきました。特に、ピロリ菌の感染については糖尿病や低血糖症との関連も指摘されています。

 

今回は、ピロリ菌に感染しているとなぜ低血糖症を発症する原因になるのかについてと、成功率を上げるピロリ菌の除菌アプローチ、低血糖症のその他の原因について解説します。

胃の不調を引き起こすピロリ菌。ピロリ菌に感染するとなぜ低血糖症発症の原因に?

まずは、ピロリ菌についておさらいしておきます。ピロリ菌と言えば、胃がんを引き起こす菌として有名ですよね。ピロリ菌はその正式名称を「ヘリコバクター・ピロリ」といい、胃粘膜に感染する菌のことです。この菌に感染していると、菌が出す毒素によって胃粘膜が傷つき、胃炎や胃潰瘍、胃がんの原因となる事が分かっています。

 

従来の考えでは、「強力な胃酸が分泌されている胃粘膜の環境下では菌は生きられない」とされてきました。そのため、胃の不調や胃潰瘍はすべて、ストレスや辛い食べ物の食べ過ぎ、胃酸の分泌過剰が原因だとされてきたのです。

 

しかし、1973年にオーストラリアのロイヤルパース病院に勤務していたウォーレン医師とマーシャル医師がピロリ菌を発見したことでこの認識が大きく変わりました。

 

現在ではこのピロリ菌の感染が、慢性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍をはじめ、胃がんやリンパ腫、悪性腫瘍の発生にも繋がることが報告されています。

 

そんなピロリ菌ですが、現在では衛生環境も良くなり、感染する人も大きく減ってきています。ピロリ菌の感染源は主に井戸水からが多く、上水道が整備された現代では感染者数も大きく減っているのが現状です。

 

特に2010年以降では40歳代を境に大きく感染率が減少しており、30代以下では殆ど感染は見られません。しかし、50歳代以降では、まだ幼少期に上水道の整備が無かったためにピロリ菌の感染率は高めです。ですので、感染者数が減っていても、ご自身が40歳代以降の年齢であればピロリ菌に感染している可能性があります。

 

また、ピロリ菌は口腔内にも生息しており、乳幼少期に親から口を介して感染している場合もあります。これは、親がピロリ菌に感染していて、親が噛んだものを子供に口移ししたり親が使った箸やスプーンで子供に食事を与えたりすることで感染が広がってしまうためです。

 

このため、若い世代で衛生環境に問題が無くてもピロリ菌に感染していることは十分考えられます。両親にピロリ菌感染の既往歴があったり、親の年代が1970年以前だったりする場合は、子供にも感染している可能性がありますので注意して下さい。

ピロリ菌と低血糖症の関係とは?

では、そんなピロリ菌の感染と低血糖症にはどのような関係や発症理由があるのでしょうか。

 

ピロリ菌に感染すると引き起こされる主な症状として「胃炎」があります。この胃炎が慢性的に続くことによって胃腸機能が低下し、消化吸収能が低下します。この消化吸収能の低下は、食べ物の消化不良や栄養欠損を招く原因となる事から、低血糖と深い関係があります。

また、もう一つの原因にピロリ菌感染による胃炎によってインスリンの効きが悪くなってしまうことが挙げられます。これは、胃炎が慢性的に続くことによって免疫機能が過剰に反応(TNF-αの分泌亢進)し、血糖値を下げるためのホルモンである「インスリン」の働きが悪くなってしまうことがあるためです。

 

ピロリ菌と言えば「胃がん」や「胃潰瘍」を発症する原因と言われていますよね。しかし、ピロリ菌に感染したからと言って必ずしも潰瘍や胃がんを発症するわけではありません。

 

これらの疾患を発症しなくても、殆どの人にはピロリ菌の出す毒素によって「胃炎」が発症します。この胃炎はピロリ菌の感染部位が広がっていくにつれて炎症部位が広がっていき、やがて胃粘膜全体に広がります。胃粘膜全体に炎症が広がると「慢性胃炎」となり、この状態が長く続くことによって萎縮性胃炎や胃潰瘍、胃がんに発展してしまうのです。

 

さらに、ピロリ菌に感染した部位ではピロリ菌を攻撃しようと白血球の一種であるマクロファージが活性化します。このマクロファージが更に炎症を起こすサイトカインの一種、TNF-αを放出することでインスリンの機能が低下し、インスリン抵抗性が増加します。

 

インスリンの働きが悪くなってしまうと、血糖値が上がったときにより多くのインスリンを分泌する必要があります。この多量に分泌されたインスリンが効き過ぎてしまうことで、今度は血糖値が下がりすぎてしまい、低血糖症を引き起こしてしまうという流れです。このような低血糖症のことを「反応性低血糖症」や「機能性低血糖症」、「乱高下型低血糖症」や「隠れ低血糖症」と言います。

ピロリ菌に感染していると引き起こされる低血糖症とその症状

では、ピロリ菌の感染によってインスリンの働きや糖代謝が悪くなってしまった場合、具体的にどのような低血糖症の症状が引き起こされるのでしょうか?

 

まず低血糖症の基本について解説すると、低血糖症とは血糖値が正常範囲以下にまで下がってしまった状態の事です。通常血糖値は80〜100前後に保たれていますが、何らかの原因で血糖値が80〜70以下を下回っている状態が続いていると、低血糖症と判断することが出来ます。

 

低血糖状態になると、冷や汗や動機、意識障害や痙攣、手足の震えなどの症状が現れることもあり、最悪の場合は死に至る恐れもあります。

 

他にも、「食べた後や夕方になると猛烈な眠気が襲ってくる」というのも低血糖の典型的な症状の1つです。それ以外にも耐えられないほど甘い物の欲求が強くなったり、気分が落ち込んだり不安感に襲われるなど、その症状は多岐にわたります。

 

https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/040/050/05.htmlより

このような低血糖症は、常に血糖値が下がってしまった状態とは限りません。
空腹時の血糖値は通常範囲に収まっているにも関わらず、何か物を食べたときや甘い物を食べたときに血糖値が急上昇し、その後急降下する「血糖値スパイク」と呼ばれる状態も引き起こされています。

 

これはいわゆる「機能性低血糖症」の症状の1つであり、インスリンの働きが落ちてしまうことによって膵臓から大量のインスリンが分泌され、今度はそのインスリンが効き過ぎてしまうことによって高血糖と低血糖の状態を繰り返してしまう状態です。

 

血糖値が下がりすぎてしまうと、脳のエネルギー源であるブドウ糖が足りなくなってしまいます。すると、最悪の場合は意識障害や死に至る恐れがあるため、身体は全力で阻止しようと「アドレナリン」や「ノルアドレナリン」などのホルモンを分泌します。

 

これらホルモンは、体内のタンパク質からブドウ糖を合成し、血糖値を上げてくれる作用もあります。しかし、これらホルモンは同時に交感神経を刺激してしまうため、イライラしたり攻撃的になったり、不安な気持ちになったりと様々な精神的不調も引き起こしてしまうのです。

 

機能性低血糖症や乱高下型の低血糖症では、このような血糖値スパイクが一日に何度も引き起こされていることがあります。一日の間に気分の波が大きく揺れ動くことから、「うつ病」や「パニック障害」などの精神疾患と間違えられてしまうことも少なくありません。しかも、抗うつ剤などの精神薬を処方されるケースも多く、低血糖症に対して精神薬による治療を行っても、低血糖症自体が治るわけではありません。

 

また、機能性低血糖症では甘い物や炭水化物の摂取を控えるようアドバイスされることがあります。これは甘い物や炭水化物に含まれる糖質が血糖値の乱高下やスパイクを引き起こす原因とされているためです。

 

しかし、根本はインスリンの働きが低下してたり、分泌量に異常がある状態であり、炭水化物や糖質の摂取が原因で機能性低血糖症を引き起こしているわけではありません。むしろ、炭水化物の摂取量を減らしてしまうことによって必要なカロリーが確保出来なくなってしまったり、腸内環境が悪くなったりして低血糖症が酷くなる恐れもあります。

 

もちろん、甘い物や炭水化物の摂りすぎはよくありませんが、だからと言って炭水化物の摂取量を極限まで減らしても機能性低血糖症が改善することはありません。

 

機能性低血糖症の主な原因は、インスリンの効きが悪くなったことによる血糖値の乱高下と低血糖時におけるホルモンの分泌過剰が問題です。このインスリンの働きが低下する原因として、ピロリ菌の感染による慢性炎症や消化能力低下による栄養欠損が関係しています。

 

このことから、機能性低血糖症の症状を抱えている場合はインスリンの働きを改善させることが重要です。そのためにも、原因の1つとなるピロリ菌に感染していた場合はピロリ菌の除菌を行う事も検討してみてください。

 

 

 

 

 

 

 

この記事は、下記記事から一部を抜粋・改編したものです。記事全文は下記記事をご覧下さい。元記事はこちら↓