近年、糖質の摂りすぎが糖尿病や低血糖症など様々な病気の原因になるとして、糖質制限を行う事が流行っています。糖質制限とは、パンやお米、芋類、お菓子などの糖質摂取を制限することで、健康増進または病態改善をしようという方法です。

 

しかし、このような糖質制限を行う事が体に良いと言われている反面、糖質制限を行えば行うほど体調が悪くなり、低血糖に陥ってしまう人も増えてきています。低血糖症とは、血糖値が正常値よりも大きく下がってしまうことで、精神的不調や体調不良を引き起こし、最悪の場合は意識障害や死に至る恐ろしい病気です。

 

健康になるために糖質制限をしているのに、なぜ余計に体調不良や低血糖に陥ってしまうのでしょうか?


今回は、糖質制限中に低血糖症に陥ってしまう理由と、正しい糖質制限、低血糖症の改善方法について分子栄養学的な観点から解説します。

糖質を過剰摂取する問題点と低血糖症との関係

現代では、パンやパスタ、お米やお菓子などの糖質を過剰に摂取する食生活になりやすいことから、これらの摂取しすぎが「機能性低血糖症」や「血糖値スパイク」などを引き起こすとして問題視されるようになってきました。

 

機能性低血糖症や血糖値スパイクとは、ラーメンやパスタ、うどん、パン、お菓子、ジュースなど、精製された糖や糖質を大量に摂取してしまうことで血糖値が一気に上昇し、その後急降下してしまう状態の事です。この血糖値が急上昇したり急降下したりすることを繰り返してしまうことにより、イライラしたり落ち着かなくなったり、人によってはキレやすくなったり攻撃的になったりと、様々な精神的不調や身体的不調が引き起こされることがあります。

 

具体的には、空腹時の血糖値は正常値にもかかわらず、お菓子やジュース、炭水化物を摂ることによって血糖値が急激に上昇し始め、血糖値が160を超えるなど高血糖状態になります。

 

その後、身体は高くなった血中の糖を利用して血糖値を下げるために「インスリン」というホルモンをすい臓から分泌します。この時、インスリンの効きが悪くなっていると、通常以上にインスリンが分泌されてしまいます。すると、今度はインスリンが逆に効き過ぎてしまうことで低血糖に陥ってしまう事があるのです。

 

例えば、お菓子やジュースなどを甘いものやラーメン、パスタなどの炭水化物を摂ると血糖値が急激に上昇します。その後、身体は血糖値を下げるためにすい臓から大量のインスリンを分泌します。このインスリンが大量に分泌されることによって血糖値が急激に下がり始め、今度はインスリンが効き過ぎることによって血糖値が下がりすぎて低血糖になってしまうというわけです。

 

この時、低血糖の状態では脳のエネルギー源となる「ブドウ糖」が足りなくなることから、耐えられないほどの眠気が急激に襲ってきたり、甘い物の欲求が異常に強くなったりすることがあります。その他、ダルくなったりやる気が起きなくなったり、最悪の場合には意識を失ったり、命を落としてしまう事もあります。

 

低血糖症の主な症状

  • 全身の倦怠感、疲れやすい

  • 集中力が無い

  • 眠気が強く、朝起きられない

  • 寒がり、低体温

  • 動悸がする

  • めまいがする

  • 冷や汗をかく

  • 不眠

  • イライラする

  • 頭痛

  • 神経過敏

  • 不安、恐怖感が強くなる

  • 太りやすくなった

そのため、身体は命を守るために全力で血糖値を上げようとします。このときに分泌されるのが副腎皮質から分泌される「アドレナリン」や「ノルアドレナリン」「コルチゾール」などです。これらホルモンは筋肉などに含まれるタンパク質を分解し、タンパク質からブドウ糖を合成するよう働きかけます。(タンパク質からブドウ糖を合成することを糖新生と言います)

 

そして下がりすぎた血糖値を上昇させるのですが、これらホルモンには同時に交感神経を刺激し、攻撃性を高める作用もあります。

 

このことから、イライラしたり落ち着かなくなったり、人によってはキレやすくなったり攻撃的になったりと、様々な精神的不調や身体的不調が引き起こされてしまうことがあるのです。

 

このような、普段の状態では正常の血糖値の範囲内に収まっているのに、食事をすると血糖値が乱高下し、低血糖症に陥ってしまう事を、「血糖値スパイク」や「機能性低血糖症」もしくは「かくれ低血糖症」といいます。

 

では、このような「血糖値スパイク」や「機能性低血糖症」を予防するためには、どのようすればいいのでしょうか?

 

まず大前提として行いたいのは、「甘い物の撮りすぎや炭水化物の過剰摂取をしない」事です。お菓子やジュースなど、加工された甘い物には大量の砂糖が含まれています。また、ラーメンやうどん、パスタやパンなどは炭水化物と言われ、消化されると糖分に変わります。

これらを摂りすぎることによって血糖値が急激に上昇する原因となりますので、まずはこれらを摂りすぎないようにしましょう。

 

血糖値スパイク・かくれ低血糖症対策に必要なこと

  • 甘い物、炭水化物の摂りすぎを控える

  • バランスの良い食生活を心がける

  • よく噛む

  • 食べたら動く運動する習慣を取り入れる

  • インスリンの働きを高める栄養補給をする

  • 必要に応じて回数頻回食を取り入れる

  • 口腔内のケアをする(歯周病など)

具体的には、お菓子やジュースなどの甘いものは極力避け、ラーメンやパン、パスタなどの炭水化物だけでお腹いっぱいにすることは避けるようにしてください。そして、タンパク質や脂質、炭水化物を含めたバランスの良い食事を心がけるようにすることが大切です。

 

この時、糖質制限のしすぎにはくれぐれも注意して下さい。実は、このような糖質の摂りすぎを気をつけるあまり、逆に糖質制限をし過ぎてしまう人が中にはいます。糖質制限のしすぎはカロリーの不足を招き、逆に低血糖を引き起こしてしまう原因になるので、極端な糖質制限はくれぐれも行わないようにしましょう。

糖質制限のしすぎが低血糖の原因に。過剰な糖質制限は避け、バランスの良い食事を心がけましょう

低血糖症を改善させる上で重要となるのが、極端な糖質制限は行わないことです。上述した血糖値スパイクや隠れ低血糖では糖質や炭水化物の摂りすぎが問題でしたが、だからと言って極端に制限しすぎてしまうことも逆効果となります。

 

なぜかというと、人は食べた食べ物をエネルギーに変えて体を動かしたり、体温を維持したり、消化吸収をしたりしています。この時、過剰な糖質制限によって摂取カロリーが低くなってしまうと、体内で利用出来る糖やエネルギーが枯渇してしまいます。その結果、低血糖へと陥ってしまうことがあるのです。

 

そのため、糖質制限を行っている方の栄養アプローチとしては、まず第一に「過剰な糖質制限」行わないようにすることです。

 

実は、糖質制限を行えば行うほど糖代謝が悪化し、低血糖症が悪化してしまう傾向にあります。これは、糖質制限や食べないダイエット等で体内でブドウ糖が足りなくなってしまったとき(血糖値が下がったとき)は、真っ先に筋肉を壊してブドウ糖を生成し、エネルギーとして使ってしまうためです(糖新生)。

 

筋肉にはブドウ糖(グリコーゲン)を貯えたりエネルギーとして使ってくれる組織でもあるため、筋肉量が落ちてしまうとブドウ糖(グリコーゲン)を貯えたりエネルギーとして上手く使うことが出来なくなってきます。その場合に引き起こされるのが、前述した「血糖値スパイク」や「かくれ低血糖症」などの低血糖症です。

 

実は、低血糖症を引き起こす原因の1つに、筋肉量の低下があります。筋肉はブドウ糖を取り込んでエネルギーとして使っている臓器ですので、筋肉量が減ってしまうとそのぶんだけブドウ糖がエネルギーとして使いにくくなり、血糖値が上昇しやすくなったり、血糖値の乱高下を引き起こしたりしやすくなります。

 

加えて、過剰な糖質制限では、食べる量も噛む量も少なくなるため、消化管の筋肉量低下に繋がります。胃や腸の殆どは筋肉である事から、消化管の筋肉量低下は消化吸収能の低下を招く大きな原因です。この結果、食べ物を上手く消化吸収出来なくなり、さらに低血糖症を深刻化させることに繋がります。

 

消化吸収能の低下や低血糖症が深刻化した場合、最悪の場合は「甲状腺機能低下症(低T3症候群)」や「SIBO」「リーキーガット症候群」などにも発展する恐れも高いです。また、胃や腸の筋肉が低下すると胃や腸を十分に支えられられなくなり、胃や腸が垂れ下がってしまう「胃下垂」も引き起こしやすくなります。胃下垂は、更に消化吸収能を低下させ、栄養障害を引き起こしやすくなる原因です。

 

このため、過剰な糖質制限はむしろ身体に大きな悪影響を引き起こしますので絶対に行わないようにして下さい。

 

それから、野菜たっぷりのヘルシーな食事を行っている方は、貧血やタンパク質不足に注意が必要です。野菜たっぷりのヘルシーな食事では、鉄分やタンパク質が十分に摂取出来ないことから貧血が進行したり、筋肉量が低下したりしてしまう危険性があります。

 

鉄分は肉や魚などの赤身肉に多く含まれていますが、野菜たっぷりのヘルシーな食事ではこれらを避けてしまうため、十分な量の鉄分を補給することが出来ません。特に女性は毎月の月経によって血液が失われてしまうので、十分な鉄分補給しないと貧血がドンドン進行してしまいます。この貧血も代謝を悪化させるため、太りやすくなったり低血糖症を引き起こしやすくなります。

 

また、筋肉はタンパク質で出来ているため、肉や魚などのタンパク質の摂取量が不足してしまうと筋肉量の低下にも繋がります。筋肉量の低下は低血糖症と深い関係がありますので、ヘルシーな食事をすればするほど低血糖症に陥ってしまうリスクが高くなります。

 

ですので、極端な糖質制限やヘルシーな食事は低血糖症や貧血を引き起こす主な原因になりますので、絶対に止めましょう。

 

過剰な糖質制限を行うことによって引き起こされること

  • 貧血になりやすくなる

  • 甲状腺機能が低下しやすくなる

  • 筋肉量が低下する

  • 太りやすくなる

  • 低血糖症を発症しやすくなる

  • 消化吸収能が低下する、胃下垂になる

  • PMS(月経前症候群)、生理不順など月経に問題が起こる

  • 非アルコール性脂肪肝になりやすくなる

  • 腸内環境が悪くなる、便秘、下痢になる

  • SIBOやリーキーガット症候群などになりやすくなる

極端な糖質制限は行わず、きちんとバランスの良い食事とカロリーの摂取を心がけましょう

このように極端な糖質制限はむしろカロリー不足やタンパク質不足を引き起こし、低血糖症の原因となります。そうならないようにするためにも、炭水化物や脂質、タンパク質などバランスよく食べるように心がけて下さい。

 

オススメの食事内容としては、和食や地中海料理などがオススメです。和食ではご飯に味噌汁、納豆に卵焼き、焼き鮭など複数種類の食べ物を食べるので、炭水化物に脂質、タンパク質をバランスよく摂る事が出来ます。また、地中海料理も、肉や魚などおかずの種類も多く、炭水化物や脂質、タンパク質をバランスよく摂る事が出来ます。

 

それから、糖質制限を行っている方は朝食を食べない方も多く、もし朝食を抜いてしまうと低血糖症に陥りやすくなってしまいます。低血糖症を引き起こさないようにするためにも、朝食はしっかり食べるようにして下さい。

 

この時大切なのは、必要な量のカロリーはしっかり摂るようにすることです。カロリーは身体を動かすために必要なエネルギー源のことで、これが足りなくなると低血糖を引き起こしやすくなります。

 

特に極端な糖質制限によって低血糖症を引き起こしている場合は、まず第一にバランスの良い食事と適正なカロリーの摂取を行う事が必要になります。その為には、ご自身に必要なカロリー摂取量を把握し、基礎代謝を下回らないように食事を摂取していきましょう。

 

必要なカロリー量の計算は、次のサイトで計算することが出来ます。

基礎代謝量・1日の必要エネルギー量計算式 基礎代謝量・1日の必要エネルギー量計算サイト

 

サイト上で、ご自身の体重と身長、年齢と性別を入力し、活動レベルを「低い」「普通」「高い」の中から選択して「計算」ボタンを押せば、一日に必要なエネルギー量と基礎代謝量が分かります。ここで計算したカロリー量を参考に、一日に必要なエネルギー量は必ず摂取するようにして下さい。

 

例えば、ある人の基礎代謝量が1320kcal/日、一日に必要なエネルギー量が2292kcal/日だとしましょう。

 

この基礎代謝量は、「体温など生命維持をするために絶対必要なカロリー」のことです。この基礎代謝を下回ると命の危険に晒されてしまいます。基礎代謝量以上のカロリーは生きる上で最低限必要なカロリーですので、絶対に下回らないよう注意してください。

 

一日の必要エネルギー量は、基礎代謝に加えて体を動かしたり、頭を使ったり、喋ったりするなど日常生活を送る上で必要なカロリーが足された物です。この一日の必要エネルギー量を十分に摂取する事で、筋肉が壊されてエネルギーとして使われてしまうことを防げます。

ですので、ご自身に必要な一日のエネルギー量を計算し、これを下回らないような食事をするようにしましょう。

 

逆に、この必要エネルギー量よりも多いカロリーを摂取してしまうと肥満に繋がります。多すぎても少なすぎても体には良くありませんので、適切なカロリー摂取量を心がけて下さい。

食事をこまめに摂る回数頻回食を実践する

また、状態によってはバランスの良い食事を心がけると血糖値スパイクや機能性低血糖症に陥ってしまう場合があります。このような場合は、回数頻回食を実践してみて下さい。

 

回数頻回食とは、1時間や2時間おきに少量の食事を何回も摂取する事です。また、朝昼晩の三食に加えて、間に間食を挟むという方法もあります。こうすることによって食事一回あたりの血糖値の急激な上昇を抑えることができ、血糖値を一定に保てるので低血糖も防ぐことが出来ます。

 

回数頻回食のコツとしては「吸収が比較的穏やかな糖質を組み合わせる」事と「なるべくこまめに食べる」ことです。こうすることで血糖値の乱高下を防ぎ、更に血糖値を下げないように安定させることが出来ます。

 

ここで言う吸収が比較的穏やかな糖質とは、お米や芋類などのデンプン質のことです。デンプンは噛むことによって徐々にブドウ糖に分解され、徐々に吸収されていきます。このため、精製された砂糖を補給するよりも、比較的穏やかに血糖値を上昇、維持させることが可能です。

 

また、いくらお米でも一気に食べると血糖値が急上昇しますので、何回にも分けて食べるようにしましょう。お団子くらいに小さく握ったおにぎりを1時間おきに食べるなど、細かく分けて食べれば、血糖値をなるべく一定以上に保つことが可能になります。

 

それから、お米などのデンプン質は油でコーティングすると急激な血糖値の上昇を緩やかにしてくれます。具体的には、チャーハンやピラフなど、お米を油で炒めるものがこれにあたります。

 

これらも血糖値スパイクや低血糖の予防としてはそれなりに活用出来ますので、吸収の早い糖質と吸収の遅い糖質を組み合わせてなるべく回数頻回を行い、低血糖にならないよう工夫してみて下さい。

 

 

 

 

 

この記事は、下記記事から一部を抜粋・改編したものです。記事全文は下記記事をご覧下さい。元記事はこちら↓