近年、健康意識の高まりによって、サプリメントなど健康食品に対する関心が高まっています。サプリメントを摂る事で、病気の予防や健康効果が得られるというのは何となくイメージがつきますよね。

 

このような関心の高まりから、サプリメントや健康に関する情報がインターネットやSNS上でも増えてきました。その中でも、サプリメントを摂取して不調を改善させる「オーソモレキュラー療法」についての情報も増えてきています。

 

この中には、「オーソモレキュラー療法であらゆる不調が改善出来る」などといった怪しい情報も発信されていることもあり、思わず疑ってしまった方も多いのではないでしょうか。

 

今回は、オーソモレキュラー療法とは一体どのような療法なのかについてと、オーソモレキュラー療法は本当に効果があるのか、オーソモレキュラー療法は何故怪しいと言われてしまうのかについて解説します。

オーソモレキュラー療法で病気が治るってホント? 何だか怪しくない?

オーソモレキュラー療法とは、基本的にオーソモレキュラー療法に対応するクリニックで専用の採血を行い、その結果をもとにサプリメントを用いてアプローチしていく療法です。

 

このオーソモレキュラー療法を行うと、現代の医療では治療が難しい原因不明の不調や、うつ、パニック障害などのメンタル的な不調が改善出来ると言われています。また、アンチエイジングや美白など美容にも効果があるとされ、様々な病気の予防や改善など、多くの効果が期待出来るとされる療法です。

 

そんなオーソモレキュラー療法で効果が期待出来ると言われているものには次のようなものがあります。非常に様々な不調や病気が当てはまることが分かります。

 

オーソモレキュラー療法で効果が期待出来ると言われているもの

 

 

 

ただ、ここまで様々な効果が期待出来るというのは、実際の所かなり怪しいですよね。検査を受けてサプリメントを飲むだけの療法で、なぜここまでの効果が期待出来るのでしょうか?

 

オーソモレキュラー療法では、自身に足りない栄養素を至適量補給することで細胞レベルから栄養状態を整え、身体が本来持っている機能を取り戻すことが出来るとされています。この身体が持っている本来の機能を取り戻すことが結果的に病気の改善や予防へと繋がることから、オーソモレキュラー療法では様々な病気の改善も期待出来ると言われているのです。

 

ただ、実はオーソモレキュラー療法は単にサプリメントを飲んで病気を治す療法ではありません。このあたりの誤解が多く、「オーソモレキュラー療法は怪しい」と言われてしまっているものと思われます。

 

そこで、実際にオーソモレキュラー療法に携わる筆者が、オーソモレキュラー療法が怪しいと言われる理由を考察してみました。筆者は、オーソモレキュラー療法を受ける方へのサポートや分子栄養学を伝える活動を行っています。

 

このような仕事を行う中で、「オーソモレキュラー療法って何だか怪しい」といわれたことは何度もあります。この経験から、なぜオーソモレキュラー療法が怪しいと言われているのか、そもそもオーソモレキュラー療法とはどのような療法なのかについて、筆者の経験と目線から解説してみます。

オーソモレキュラー療法が怪しいと言われる理由

まず、オーソモレキュラー療法が怪しいと思われてしまう理由の多くは、次のようなことに関連しています。

  • 栄養を摂取するだけで様々な病気が治ると言われている

  • そのために、やたら大量のサプリメントの摂取を薦められる

  • わざわざ専用の血液検査を受けさせられる

  • 検査料金やサプリメント代がやたら高い

  • 効果を感じるまでにかなりの時間とお金がかかる

  • オーソモレキュラー療法や分子栄養学の間違った情報が多く発信されている

  • 実践した人の声が少なく、本当に効果があるのか不明

特に、「サプリメントを飲めばあらゆる不調が良くなる」「そのサプリメントや検査代がやたら高い」「調べてもあまり詳しい情報が出てこない」という点で怪しさを感じるのが共通しているようです。

 

また、医師が発信しているオーソモレキュラー療法の情報についても、「食事を変えれば病気が治る」や「過剰摂取が心配になるほど大量のサプリメント摂取が推奨されている」など、怪しさ満点の情報が発信されていることもあります。

 

では、これらの情報は本当なのでしょうか? 一つ一つ解説していきましょう。

栄養を摂取することで様々な病気が治るって本当?

オーソモレキュラー療法に関する情報の中には「食事を改善すれば病気が治る」といったように、特定の食事や食品を食べることで特定の病気が改善出来るといった情報や、「サプリメントを摂取する事で病気が治る」と言われていることがあります。

 

結論を先に言いますが、「食事を改善すれば特定の病気が治る」というのはウソです。また、「サプリメントを摂取する事で病気が治る」というのも半分ウソです。

 

まず、オーソモレキュラー療法はそもそも特定の食品やサプリメントを摂取して病気を治す療法ではありません。確かに食事内容が偏っている方については食事改善も必要ですが、だからと言ってそれだけで病気が治ったり、オーソモレキュラー療法としてのアプローチが出来たりすることはありません。

 

例えば、食生活に問題があって2型糖尿病になってしまった方は、確かに食事の改善が必要です。バランスの良い食事を心がけ、過剰な糖質や脂質の摂取は控えることが必要になります。ただ、それだけで2型糖尿病は改善出来ません。食事を整える事で一時的に血糖値は下がるかも知れませんが、一時的に血糖値が下がったとしても、それで2型糖尿病が治った訳ではないからです。

 

2型糖尿病の原因は確かに食生活の問題もありますが、主な原因は糖代謝の悪化です。インスリンの効きが悪くなっていたり、糖をエネルギーとして上手く使えなくなっている場合にも引き起こされます。この原因は、栄養欠損をはじめ、感染症や慢性炎症、疾病など様々です。そのため、単に食事を変えたりサプリメントを飲んだだけで、病気が治ることはありません。

 

よく見かける間違ったオーソモレキュラー療法の情報としては、「亜鉛はインスリンの構成成分の1つなので、亜鉛を十分な量摂取すればインスリンの働きは改善出来る」とされるものです。「そのために亜鉛のサプリメントを飲みましょう、亜鉛が多い食品を食べましょう」と言われています。ただ、確かにインスリンの構成成として亜鉛も必要な栄養素ですが、原因はそれだけではありません。

 

インターネット上では、このような「食事を改善すれば病気が治る」「特定の栄養素をサプリメントを摂取する事で特定の病気が治る」「必要以上に過剰な糖質制限をさせる」といった根拠のない間違ったオーソモレキュラー療法の情報が多く出回っています。そのため、「オーソモレキュラー療法は怪しい」と思われる方が多いのかと思います。

 

では、オーソモレキュラー療法は全く効果が無いインチキ療法なのでしょうか? いいえ、実はそうではありません。これらはそもそもオーソモレキュラー療法に対する認識自体が間違っているのです。

 

どういう事かというと、まずオーソモレキュラー療法とは一体どのような療法なのかをよく理解することが重要です。

 

まず、オーソモレキュラー療法とは、私たちの身体の中に正常にあるべき分子(molecule)を至適濃度に保つ(ortho)充分量の栄養素(nutrition)を摂取し、それを適切に消化・吸収・代謝することによって生体機能や自然治癒力が向上し、病態改善が得られるという理論です。

 

この自然治癒力とは、いわゆる「ホメオスターシス」と呼ばれるもので、常に身体を一定の健康状態に保とうとする機能(生体恒常性)になります。このホメオスターシスが乱れてしまうことで病気を発症するというのがオーソモレキュラー療法の考え方です。

 

例えば、私達の身体は熱いところでも寒いところでも、常に体温が一定になるようコントロールされていますよね。熱いところに行けば汗をかいて体温を下げようとしますし、寒いところに行けば身体を震わせて体温を上げようとします。

 

また、体内に病原菌が侵入した場合は免疫力が働いてやっつけようとしたり、咳やくしゃみ、下痢などで排泄しようとします。このような身体の機能を常に健康に保とうとする機能(自律神経・免疫機能・ホルモンバランス)がホメオスターシスであり、生体恒常性と呼ばれているものです。

 

このホメオスターシスは、私達の細胞が分子である栄養素(タンパク質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル)を使って機能を維持しています。私達の細胞そのものも栄養素で出来ていますし、活動するエネルギーも栄養素を利用しています。この栄養素が体内に十分な濃度存在していれば、十分な機能を発揮することが可能です。

 

そして、この細胞の構成や活動に必要な栄養素は、私達が普段食べているものから得られています。つまり、私達の身体は、私達が食べた「食べ物」や「栄養素」で作られ、ホメオスターシスが維持されているのです。

 

しかし、もし体内の分子が乱れていた場合、私達の身体はホメオスターシスを正常にコントロールする事が出来なくなってしまいます。

 

特に、胃や腸などの消化管に問題があったり、食事の内容やバランスが悪くなったり、運動不足や睡眠不足、お酒の飲み過ぎや喫煙などがあったりしていると、体内の分子(栄養素)の量やバランスが乱れてしまい、細胞の正常な働きが出来なくなってしまいます。

 

このような、何らかの原因で細胞の正常な働きが出来なくなることでホメオスターシスの乱れに繋がり、ホメオスターシスが乱れることで病気を発症してしまうという考え方です。これは、逆に言えば、ホメオスターシスの乱れや細胞の機能を正常にを整えることが出来れば、病気も良くなる可能性があります。

 

この乱れた細胞機能やホメオスターシスを整えるために、その人に合った十分な栄養素の補給を行うのがオーソモレキュラー療法です。

 

ただ、実際には単にサプリメントを摂ったとしても、それだけでホメオスターシスが整うことはありません。ホメオスターシスを整えるためには、その人に合った量の栄養補給に加えて、運動や睡眠など生活習慣の改善も必要です。

 

というのも、生体内の分子の乱れは栄養欠損以外にも、運動不足や睡眠不足といった生活習慣の影響によっても発生するためです。この様な原因で乱れた生体内の分子を整えるためには、十分な栄養素の補給以外にも、運動や睡眠など、生活習慣の改善も必要になります。また、この生活習慣を改善させるためにも、十分な栄養補給が必要です。

 

つまり、細胞機能やホメオスターシスの乱れを整えるためには、運動・栄養・休養の3つのバランスを取ることが必要であり、その目的のために必要な栄養素を摂取するという考えが重要になります。

 

オーソモレキュラー療法による栄養アプローチは、この3つの目的のために栄養素を摂取する事であって、決して栄養素だけで病気を治すといった療法ではありません。この部分の認識は、オーソモレキュラー療法で特に間違われやすい事の1つです。

 

例えば、「糖尿病に効果がある栄養素を摂取する」のではなく、「糖代謝を改善させるために必要な筋肉をつける、運動するために必要な栄養素を摂る」事が正解です。

 

他にも、「ガンに効く栄養素を摂取する」のではなく、「ガンの発症原因となる生活習慣や、肥満を改善させるための運動などに必要な栄養素を摂る」といった感じです。

 

特に、病気の殆どは生活習慣が大きく関係しています。生活習慣の改善無しに、生活習慣病の改善はあり得ません。オーソモレキュラー療法は、これら3つの目的をサポートするためのものです。何か特定の栄養素を摂取しただけで病態改善が得られるわけではない点には十分理解しておきましょう。

 

オーソモレキュラー療法を実践する上で重要な考え方

  • 痩せる栄養素は何ですか? 
    → 基礎代謝を上げるために運動して筋肉を付ける。そのために必要な栄養を摂る◎

  • 2型糖尿病に効く栄養素はなんですか?
    → 糖代謝改善に運動と筋肉量アップが必要。そのために必要な栄養素を摂る◎

  • ガンに効く栄養素は何ですか? 
    → ガンの予防、改善にも運動と筋肉量アップが必要。そのために必要な栄養素を摂る◎

  • 眠れるようになる栄養素を教えてください 
    → 質の良い睡眠には、自律神経のバランスを整える、運動することが必要。そのために必要な栄養素を摂る◎

オーソモレキュラー療法では、栄養素を対処療法のように用いるのではなく、病気を予防したり、健康を維持するために必要な運動・栄養・休養の3つのバランスを整えるために必要な栄養素を摂取するという考え方が重要です。

 

また、十分な栄養補給と上述した生活習慣の改善に加え、必要であれば感染症の治療や薬での治療など、現代医療による治療も必要です。これは、感染症などの病態によっても栄養素の吸収力低下や、生体内の分子の乱れが引き起こされてしまうためです。

 

例えば、ピロリ菌に感染していると胃がんのリスクが上昇すると言われています。ピロリ菌に感染した方全員が胃がんを発症するわけではありませんが、殆どの人に胃炎が起こります。

 

この胃炎は慢性的な炎症を引き起こし、生体内の分子の乱れ引き起こします。加えて胃粘膜が炎症によってダメージを受けてしまうことで胃腸機能が低下し、食べ物の消化吸収能力が低下して生体内の分子の乱れに繋がってしまいま。

 

このような感染症などの病態にはサプリメントで対処出来ませんので、西洋医学的な治療が必要です。そのため、オーソモレキュラー療法では「至適量の栄養補給」と「生活習慣の改善」「必要な治療」をセットで行っていきます。この3つがセットになって、はじめてオーソモレキュラー療法と言えるのです。

 

この事をしっかり理解できれば、「食事を改善すれば病気が治る」「特定の栄養素をサプリメントで摂取すれば病気が治る」といった情報は、根拠のない間違ったオーソモレキュラー療法の情報である事が分かりますよね。

 

このあたりの間違った情報や認識が広まっていることが、オーソモレキュラー療法が怪しいと言われている大きな理由になっているかと思います。

 

オーソモレキュラー療法は、栄養素における体内での働きを理解し、至適量の栄養素を補給することで身体本来の機能を取り戻す療法です。何か特定の栄養素を摂取しただけで病態改善が得られるような療法ではありません。

 

 

 

※この記事は、下記記事から一部を抜粋・改編したものです。記事全文は下記記事をご覧下さい。元記事はこちら↓