医療で使われる薬の役割と、分子栄養学で使われるサプリメントの役割の違い

分子栄養学では、病気の改善や予防のためにサプリメントで必要な栄養素を摂取して頂く事があります。例えば、骨粗しょう症の場合であれば、カルシウム・マグネシウムやビタミンD、ビタミンKなどのサプリメントです。

 

対して、病院で行われている骨粗しょう症の治療においても、カルシウム製剤やビタミンD製剤、ビタミンK製剤、破骨細胞の働きを抑える「骨吸収抑制剤」などのお薬が処方されています。

 

このように見ると、分子栄養学では単に薬をサプリメントに置き換えただけなのでは?と感じますよね。

 

しかし、薬とサプリメント、分子栄養学と一般的な医療では目的も役割も全く異なります。分子栄養学を理解する上で、この目的と役割の違いをしっかりと理解することが重要です。

まず、薬と栄養素ではその役割が異なります。薬の役割は、症状を抑えたり、病気の悪化を防ぐためのものです。対して栄養素の役割は、壊れた細胞を修復するための材料として補給する物になります。

 

先ほどの骨粗しょう症の例で言えば、骨を壊してしまう破骨細胞の働きを強制的に薬で抑えたり、骨を形成する骨芽細胞の働きを薬によって強制的にコントロールしたりするのが現代の医療であり、医学です。

 

このお薬によるアプローチでは、体内で行われている代謝を薬によって強制的にコントロールする事から、必ず「副作用」が伴います。分かりやすい例で言えば、ビタミンD製剤は食品に含まれるビタミンDに比べて、過剰摂取による高カルシウム血症や高カルシウム尿症のリスクが高く、他にも吐き気や下痢などの症状を引き起こす可能性があります。

 

これは、ビタミンD製剤に含まれるビタミンDが「活性型」であるためです。食品に含まれているビタミンDに比べて働きが強いことから、ビタミンD製剤の使用は医師の管理下の元、慎重に投与量が決められて処方が行われています。

 

対して栄養素の場合、薬と比べて重篤な副作用はあまりありません。食品やサプリメントに含まれている栄養素は、薬と違って生体内で自由にコントロールする事が出来ます。この、体内での栄養素の働きを身体にまかせるのか、それとも強制的にコントロールするのかが、薬と栄養素の大きな違いです。

 

分子栄養学と薬物療法の違い

薬物療法

  • 既に活性化したもの(薬物)を投与する

  • 栄養素や体内での働きを強制的にコントロールする

  • 速効性がある、誰にでも同じように効果が期待出来る

→副作用がある

 

分子栄養学

  • 天然物を投与する

  • 栄養素の利用は生体内のコントロールに任せる

  • 速効性は無いが、人それぞれにあった効果が期待出来る。

→副作用が少ない

 

では、一見すると同じ栄養素が含まれているように感じる薬とサプリメントですが、具体的にどのような違いがあるのでしょうか?

 

薬の中にもビタミンA製剤やビタミンD製剤など栄養素の名前が付いたお薬がありますし、サプリメントの中にもビタミンAやビタミンDなどがあります。同じ名前が付いているので、どちらも同じように感じますよね。

 

しかし、薬とサプリメントではその働きが全く異なります。その理由は、薬に含まれているのが「活性型」であるのに対し、食品やサプリメントに含まれているのは「前駆体」であるためです。

 

栄養素には、同じように見えても「活性型」と「前駆体」があります。食品などに含まれる栄養素は、体内に入ってもそのままの形では働くことが出来ません。いったん身体の中で働ける形(活性型)に変えられてから、やっと働けるようになります。

 

前駆体は、この活性型になる前の状態を言い、食品やサプリメントに含まれる栄養素のことです。体内では、酵素の働きによって必要に応じて前駆体から活性型に変換されて利用されています。対して活性型の栄養素とは、骨粗しょう症の治療に用いられているビタミンD製剤や、ニキビの治療薬として使われている「ビタミンA製剤」などです。お薬で使われる栄養素は、既に活性型として配合されているため、速効性があり、誰に対しても同じように効果が期待出来ます。

 

例えば、ビタミンAには「レチノール」「レチナール」「レチノイン酸」という3つの種類があります。また、ビタミンAの一種と言われているβカロテンも必要に応じてレチナールに変換されています。このうち、「βカロテン」「レチノール」が前駆体で、「レチナール」と「レチノイン酸」が活性型です。(※正確にはレチノール、レチナール、レチノイン酸共に活性型ですが、ここでは分かりやすくするためにレチノールを前駆体としています)

 

レチノールは主にレバーや魚の脂肪部分、肝臓部分に含まれていて、普段私達が食品から得られるビタミンAです。また、βカロテンは主に緑黄色野菜に含まれています。これらは体内で必要な量を必要なだけ、必要に応じて「レチナール」や「レチノイン酸」に変換(活性化)されて利用されています。

 

対して、皮ふ科などの治療で用いられているのが、既に活性型のビタミンAである「レチノイン酸」です。レチノイン酸には細胞の分化・増殖を促進し、皮膚の細胞分化やターンオーバー(新陳代謝)を調節する働きがあります。このことから、主にニキビの治療薬として使われています。

 

このように聞くと、栄養素は前駆体で摂らずに活性型で摂った方が効果が高いのでは?と思いますよね。しかし、活性型で摂った場合は身体が本来持っている調節機能を無視して栄養素が働いてしまいます。そのため、場合によっては栄養素の働きをコントロールできなくなり、副作用が出たり逆に生体内の分子や代謝が乱れたりしてしまう原因になるのです。

 

例えば、レチナールは主に網膜に存在し、視覚に関与するのに対し、レチノイン酸では細胞の分化・増殖に関与しています。同じビタミンAに属していますが、この2つは全く働きが異なります。もし、眼の健康を目的としているのに、同じビタミンAだからと「レチノイン酸」を大量に摂取してしまった場合、レチナールとしての働きは得られないどころか、レチノイン酸による副作用によってむしろ健康を害してしまう結果になりかねません。

 

また、ビタミンAといえばよく過剰症について言われることがありますよね。ビタミンAを摂り過ぎると、死に至るなど危険が伴うというものです。

 

この点については、前駆体である「βカロテン」や「レチノール」ではそのような危険性はありません。なぜなら、副作用の報告のすべては活性型である「合成のレチノイン酸」を大量投与した結果であって、決して「レチノール」や「βカロテン」でテストされたものではないからです。

 

ビタミンA過剰症についての注意喚起では、その情報の多くが活性型のレチノイン酸と「レチノール」「βカロテン」などを混同しています。基本的にレチノールやβカロテンでは、活性を持たないことから安全性が高いビタミンAです。

 

加えて、「レチノール」と「レチナール」は体内で必要に応じて相互に変換することができ、体内でビタミンAを運ぶ際や貯蔵する際にも「レチニルエステル」というエステル化(コーティングのようなもの)が行われます。例え食品からビタミンAを摂りすぎたとしても、体内では「レチナール」を活性の低い「レチノール」にしたり、レチニルエステルという非常に安定性が高い状態にして肝臓に貯えることが出来るのです。

 

そのため、「レチノール」や「βカロテン」をサプリメントで摂ったとしても、基本的に過剰摂取の心配はありません。逆に、レチノイン酸はレチノールへと変換できないことから、薬によるレチノイン酸の大量投与は過剰摂取の危険性が高いです。

 

また、体内では必要に応じて「レチノイン酸」に活性化して利用されますが、この体内で作られる「レチノイン酸」と薬で用いられる「レチノイン酸」の作用は異なります。

 

例えば、体内でレチノイン酸が生成される場合、その生成量やタイミングは生体の調節機構によって厳密に制御されています。一方、薬など外部から投与される場合は、一度に大量のレチノイン酸が体内に供給されるため、自然な生体調節とは異なる影響を及ぼす可能性が高まります。

 

つまり、体内で作られるレチノイン酸は、作られる量や作られた後の分解量、分解するタイミングなどを身体がコントロールできるのに対し、外部から投与したレチノイン酸は、身体がコントロールする事が出来ません。このため、外部から投与するレチノイン酸の作用と、身体の中で作られるレチノイン酸の作用は、同一視してはならないのです。

 

このように、同じ栄養素に見える薬とサプリメントでは、その働きも目的も全く異なります。医学は活性型の薬を投与して体内での働きを強制的にコントロールするのに対し、分子栄養学では前駆体の栄養素であるサプリメントを用いて、栄養素の利用は生体内のコントロールに任せます。

 

この体内での栄養素の働きを理解し、「なぜ栄養素が不足してしまったのか?」や「体内で栄養素がきちんと働くためにはどうすればいいか?」を考えてアプローチを行っていくのが分子栄養学であり、医学との大きな違いです。

 

 

 

 

 

※この記事は、下記記事から一部を抜粋・改編したものです。記事全文は下記記事をご覧下さい。元記事はこちら↓