分子栄養学基礎⑥-1 身体本来の機能を取り戻すには、運動・栄養・休養の3つのバランスを取ることが必要。そして、その目的のために必要な栄養を摂るという考え方が重要です

 

では、天然由来で前駆体の質の良いサプリメントを至適量摂取していれば、それだけで身体本来の機能を取り戻せるのでしょうか?

 

多くの方は、サプリメントを摂取する目的として、「何か不調を改善したい」「病気を予防したい」「もっと健康的な生活を送りたい」などの目的があるかと思います。

 

しかし、このような不調の改善や病気の予防、健康増進は、単に栄養補給を行っているだけでは目的を達成させることは出来ません。なぜなら、不調の改善や病気の予防を行うためには、運動や睡眠などの生活習慣が深く関係していることに加え、社会的繋がりやライフスタイルなどの環境的、社会的、心因的な要因なども関係しているからです。

 

例えば、慢性疾患やガンなど、多くの病気は生活習慣が関係していると言われています。

 

ガンの場合は、発症原因に生活習慣が70%以上関わっているとされており、遺伝的素因としては30%以下と言われています。また、糖尿病や生活習慣病などの慢性疾患に至っては、90%以上の原因が生活習慣であり、遺伝的素因は10%以下です。どちらも、生活習慣が病気の発症原因として占めている割合が高いことが分かります。

 

この病気の原因となる生活習慣としては、食事や栄養の偏りなども関係していますが、それ以外にも運動や睡眠、ストレスや環境などのライフスタイルも関係しています。病気の予防や治療効果を高めたい場合は、このような生活習慣の改善を同時に複数行うことが重要です。

 

例えば、科学的根拠に根ざしたガン予防ガイドライン「日本人のためのがん予防法(5+1)」では、確実に効果が期待出来るような生活習慣改善法として「禁煙」「節酒」「食生活」「身体活動」「適正体重の維持」の5つの改善可能な生活習慣に「感染」を加えた6つの要因を挙げています。

 

https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.htmlより

 

これらの要因はガンの発症に繋がる可能性があり、ガンを予防するためにはこれら生活習慣をすべて改善していくことが最も効果的です。この生活習慣の改善は、どれか1つを集中的に行ったとしてもほとんど効果は期待出来ません。

 

この事は、科学的根拠に根ざしたガン予防ガイドライン「日本人のためのがん予防法(5+1)」の中でも解説されています。

 

https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.htmlより

 

国立がん研究センターによると、この5つの健康習慣を実践する人は、0または1つのみ実践する人に比べ、男性で43%、女性で37%がんになるリスクが低くなるという推計が示されました。

 

上のグラフからも分かるように、1〜2つの生活習慣を改善してもあまり効果は期待出来ず、実践した健康習慣の数が多くなるほど予防効果が高くなるという結果が出ています。これは、ガンに限らず糖尿病や認知症など生活習慣病の予防に関しても同様です。

 

つまり、いくら分子栄養学に基づく栄養アプローチを行っても、それだけで病気の予防や健康維持は出来ません。どんなに質の良いサプリメントを摂ったとしても、運動不足や飲酒、喫煙、暴飲暴食などその他の生活習慣が悪かった場合は、殆ど健康効果が期待出来ないのです。

 

このため、分子栄養学を実践する際は、栄養アプローチを行う事に加えて食生活を含めた生活習慣の改善も同時に行うことが必要です。特に運動や睡眠は重要で、運動と質の良い睡眠、栄養補給が合わさって初めて、体内の乱れた代謝や分子が整ってきます。これは、運動したことによる組織への刺激や、質の良い睡眠をとることによって、摂取した栄養素が身体を作ったり修復したりすることに使われるためです。

 

では、なぜ栄養補給を行うだけでは生体内の分子の乱れや代謝の乱れが整えられないのでしょうか? 分子栄養学では、至適量の栄養を補給することで生体内の分子の乱れが整い、自然治癒力が向上して病態改善が得られると言われています。

 

このように聞くと、栄養を摂っているだけで病態改善や予防効果が得られそうに聞こえますよね。しかし、栄養素を摂ったら摂った分だけ身体が勝手に栄養素を使っていくというわけではありません。

 

摂った栄養素は、身体を作ったり修復したりする材料として使われて初めて意味があります。この栄養素を体内で有効に使うためには、身体を動かして筋肉量を増やすなど、自らの活動を通して意図的に使っていくことが必要です。

 

具体的には、筋肉量を維持、増加させるためにはそれなりの負荷を筋肉にかける必要がありますし、骨粗しょう症の改善などで骨を丈夫にするためには骨に刺激を与えることが必要です。身体は、このような組織への刺激と、修復する材料となる栄養素が合わさることで、始めて修復や増強を行ってくれます。

 

しかし、現代社会では、昔に比べて車や電車などの移動手段が発展したことで、歩いたり走ったりして移動する機会が減少しました。加えて、インターネットの発展によるリモートワークへの移行、洗濯機など清掃家電や調理家電等の進化などによって移動や家事を行う機会も減少し、座位を中心とした運動不足の生活習慣が慢性化しています。

 

このような生活環境による運動不足の状態では、筋肉や骨に刺激が与えられないことから、身体は運動機能が不要になったと判断して筋肉量や運動機能が低下していきます。この筋肉量の低下や身体機能の低下は「基礎代謝」の低下を招き、糖尿病や肥満などの生活習慣病に繋がってしまう原因です。

 

つまり、栄養療法だけをしっかり行ったとしても、運動しなければ筋肉量や身体機能が低下し、むしろ病気のリスクが上昇してしまうのです。

 

筋肉量の低下は代謝と運動機能の低下。代謝と運動機能の低下は、生体内分子の乱れです。

この筋肉量の低下で危惧されるのが、代謝機能の低下です。筋肉はタンパク質で出来ていることから「タンパク質代謝」に直接的な影響がありますし、筋肉を動かすためにはエネルギーとなる糖質や脂質も必要なため、「糖代謝」や「脂質代謝」とも関係があります。

 

筋肉量の低下は、これら糖質や脂質、タンパク質の利用量(基礎代謝)も低下させます。すると、使い切れなかった糖質や脂質が脂肪として貯えられ、太りやすくなります。この筋肉量の低下による肥満が、サルコペニア肥満やメタボリックシンドロームなど、生活習慣病へと繋がってしまう原因になるのです。

 

サルコペニア肥満とは、筋肉量が低下する「サルコペニア」と脂肪蓄積による「肥満」が合わさった状態を言い、メタボリックシンドロームはお腹周りが大きいことに加えて、血圧の上昇や空腹時高血糖、脂質の異常値のうち2つ以上が当てはまる状態の事です。

 

サルコペニア肥満では、筋肉量の低下と肥満が同時に引き起こされる事から、メタボリックシンドロームの原因となる糖尿病や高血圧、脂質異常症などの代謝疾患と、ロコモティブシンドロームなど運動機能低下のリスクが非常に高まります。

 

また、肥満と聞くと太っている人を想像するかも知れませんが、太っていなくても注意が必要です。特に日本人の場合は欧米人に比べて、肥満でなくても生活習慣病を発症する人が多いと言われています。その原因として、近年注目されているのが、肝臓やすい臓など脂肪組織以外の様々な臓器に脂肪が蓄積する「異所性脂肪」です。

 

異所性脂肪では、本来脂肪が蓄積することのない臓器に脂肪が蓄積することで、臓器機能を低下させます。日常生活で特に身近なものとしては、お酒の飲み過ぎや糖質、脂質の摂りすぎによる脂肪肝です。脂肪肝では、肝臓が慢性的に炎症状態となり、ダメージを受けて肝硬変や肝臓ガンなどに進行する原因になります。

 

他にも、すい臓や筋肉に脂肪が蓄積することでインスリンの分泌や筋肉組織の糖と取り込みを抑制することで糖尿病にも繋がります。これら臓器に異所性脂肪が蓄積することによって、タンパク質代謝や糖代謝、脂質代謝の機能を低下させることから、メタボリックシンドロームを招くリスクが非常に高くなります。

 

このような異所性脂肪の存在は、身体の外側から見ても見分けることは出来ません。そのため、太っているように見えなかったり、BMI値や体重が適正だったりしている人も注意が必要です。

 

もし、このようなサルコペニア肥満やメタボリックシンドロームの状態で年齢を重ねていくと、筋肉量や運動機能の低下から、ロコモティブシンドロームや認知機能低下など、更なる生活習慣病の発展に繋がる可能性があります。

 

ロコモティブシンドロームとは、骨や筋肉、関節、神経などの運動器に障害が生じたことにより、歩行するための移動機能が低下した状態の事です。

 

通常、腰や膝などは骨格や筋肉によってある程度の重さや負荷にも耐えられるようになっています。しかし、食べ過ぎや運動不足、サルコペニア肥満やメタボリックシンドロームを抱えたまま年齢を重ねている方は、膝や腰を支える筋肉がないため、重さや負荷に耐えられません。

 

すると、動く事が苦痛になって更に動かなくなり、運動機能が低下します。運動機能が低下すると、骨が弱って骨粗しょう症を発症しやすくなることから、転倒のリスクも高まります。もし転倒して骨折した場合は、長期間ベッドで過ごすことになってしまい、ますます運動機能の低下と骨密度の低下を引き起こします。

 

同時に、動かない時間が増えることから外部とのコミュニケーションや社会との関わりも減少し、脳機能も低下して認知症を発症するリスクが高まります。

 

このように、ロコモティブシンドロームと認知症は相互に影響を与え合って負の連鎖を引き起こします。筋肉量の低下や身体機能の低下は、代謝の低下や生体内の分子の乱れ(病気)と深く関係しているのです。

 

分子栄養学は、単に食事やサプリメントで栄養を補給する療法ではありません。分子栄養学は運動・栄養・休養の3つのバランスを取る事が重要であり、その目的のために必要な栄養を摂るという考え方が重要です。

 

 

 

 

 

※この記事は、下記記事から一部を抜粋・改編したものです。記事全文は下記記事をご覧下さい。元記事はこちら↓