分子栄養学基礎④ 栄養による改善には個体差の考慮と量が必要

次に分子栄養学の基本となる考え方は、栄養による改善には個体差の考慮と量が必要である事です。

 

前述したように、鉄欠乏性貧血など栄養欠損がある場合には、必ず原因となっている理由があります。この理由は一人一人違うため、必ず個体差を考慮することが必要です。

 

例えば、年齢や性別、病気や怪我の度合い、ストレスや環境の影響、食生活や生活習慣などによって、栄養欠損となる原因や必要な栄養素の量には違いが現れます。

 

先ほどの貧血の例で言えば、男性と女性で貧血となる原因は異なりますし、男性と女性で鉄分の必要量は異なります。また、単に鉄分の摂取量が不足していて、少し鉄分を補給すれば足りる人も居れば、何らかの疾病が関係していて、鉄分を摂っても摂っても足りない方もいます。このように、栄養素の必要量には個体差があるため、栄養素の必要量は千差万別です。

 

加えて、同一人物であっても、時と場合に応じて栄養素の必要量は異なってきます。その日その時によって状況や必要量が異なるため、日々最適な量を意識して栄養を補給することが大切です。

 

特に、活動量が大きいときや、ストレスがかかったとき、風邪など病気のときでは栄養素の消費量が大きくなることから、栄養素の必要量が多くなります。また、慢性的な病気(糖尿病やアレルギー疾患、肝臓病など)やガンの時などは、更に必要量が大きくなります。

 

例え同一人物だとしても、加齢や生活習慣の変化、病態の変化、体調の変化は常に起こっています。日々の状態に合わせて必要量の栄養素を摂取していくことが、分子栄養学の基本です。

 

そして、栄養素による改善の際には、一定以上の量を補給していくことも必要です。特に栄養素においては、摂取量が少ないと殆ど身体に変化が現れないことから、栄養摂取の効果は用量に大きく依存しています。この一定以上の量を摂取することで栄養素の効果を発揮させることを「ドーズレスポンス」と言います。

 

例えばビタミンCの場合、血流に乗って全身の細胞に運ばれて抗酸化作用等を発揮するためには、ビタミンCの血中濃度を一定以上に維持することが必要です。

 

この抗酸化作用などを発揮するためには、ビタミンCを一度に1,000mg以上摂取して初めて血中濃度の上昇が見られることが分かっています。ただし、ビタミンCは水溶性ビタミンのため、摂取後3〜4時間で血中濃度が最大となり、その後は尿と共に徐々に体外へ排泄されてしまいます。

 

そのため、ビタミンCの血中濃度を維持するためには、一度にある程度まとまった量(1,000mg以上)を定期的に補給することが必要です。

 

更に、ビタミンCには美白作用や抗ウィルス作用、ヒスタミン抑制作用、抗がん作用などがあり、抗ウィルス作用が期待出来るビタミンCの血中濃度はおよそ10-15mg/dL、ヒスタミン抑制作用を発揮する血中濃度は88mg/dL程度と言われています。

 

このような違いがあることから、ビタミンCの摂取量はその人の状態や目的によっても大きく変わってきます。また、その人の状態や生活習慣、年齢や性別、酵素と基質の親和性の個体差などによっても摂取量は大きく変わります。この状態や目的に応じて、最適な栄養素の量を摂取すること。これが至適量と呼ばれる量です。

 

一般的な栄養補給の場合、健康な人であればビタミンCの摂取量は一日あたり100mg〜200mg程度で十分と言われていますよね。しかし、この摂取量は壊血病などビタミンC不足による病気を防ぐ最低限の摂取量であって、既に病気になってしまった人の場合や、状態の改善を目的とした場合では十分な補給量とは言えません。

 

体内での栄養素の消費量は常に変化しており、病気や怪我をしたときや、ストレスがかかったときなどにその消費量は一気に増加します。この消費量よりも摂取量が少ないと栄養状態が悪化し、逆に消費量よりも十分な栄養素の摂取を行えば、病気の早期回復や予防が期待出来ます。分子栄養学では、生体内の乱れた分子を整えるために、至適量の栄養を摂取することが非常に重要です。

 

加えて、このドーズレスポンスによる至適量の栄養補給は、基本的に年単位での継続が基本となります。栄養素を一週間や一ヶ月程度の短期間補給しただけではあまり血中濃度が上がらず(日々利用、排泄されるため)、年単位で至適量を補給し続けて初めて効果が期待出来ます。一日や一週間、一ヶ月程度続けただけでは栄養素の摂取量が十分と言えず、ほとんど効果は得られません。

 

このため、分子栄養学を実践する際は、至適量の栄養補給を年単位で行う必要性があることを、十分に理解しておきましょう。

 

食事療法と栄養療法の違い。食事だけで至適量の栄養補給を行う事はほぼ不可能です!

分子栄養学とよく比較される対象として、厚生労働省の定める栄養摂取基準(日本人の食事摂取基準)や一般的な栄養学があります。

 

分子栄養学では通常の食事で得られる栄養素の量よりも遙かに多い栄養素の量をサプリメントで長期摂取することから、厚生労働省の定める栄養摂取基準を大きく上回り、過剰摂取になるのでは?といった声を頂く事があります。

 

また、分子栄養学は食事療法と混同されることも多く、栄養素はサプリメント以外にも食事から摂取する事も出来るため、栄養素の含有量が多い食品を多く食べるなどすれば、食事だけで至適量の栄養素が摂れるのではないか?といった意見を多く受けます。

 

分子栄養学は、この厚生労働省の定める栄養摂取基準や一般的な栄養学、食事療法などと比較されることが多いのですが、分子栄養学とこれらは全くの別物です。

 

まず、これら3つと分子栄養学とでは、その目的と考え方が異なります。厚生労働省の定める栄養の摂取基準は、疾病などがない健康な人が欠乏症にならないために最低限必要となる栄養の摂取基準を定めたものです。この摂取基準は、病態を抱える方向けに定められたものではありません。

 

一般の栄養学は、この厚生労働省の定める基準に則ったものになります。つまり、一般の栄養学は欠乏症を予防することが最大の目的です。

 

次に、食事療法についてです。食事療法では、主に食事をコントロールする事で病気の予防や健康を維持する手法です。

 

食事療法では、糖尿病など特定の病気に対して、食事をコントロールする事で病気の予防や健康を維持することを目的としています。

 

対してオーソモレキュラー療法では、更に踏み込んで、食事だけでは補えない栄養素をサプリメント(分子整合栄養学実践専用サプリメント)で補給する療法です。これにより、栄養不良を改善させ、細胞の機能や身体の機能を高め、病気や不調を回復させることを目的としています。

 

オーソモレキュラー療法における栄養素の過不足の判断については、定期的な血液検査によってモニタリングしており、既に重度の貧血など栄養欠損を抱えている方が必要とされる栄養素の量=至適量を補給して頂くものですので、過剰摂取になる心配はありません。

 

 

食事療法
食事をコントロールする事で病気の予防や健康を維持する

栄養療法
食事だけでは補えない栄養素をサプリメント(分子整合栄養学実践専用サプリメント)で補給することにより栄養不良を改善させ、細胞の機能や身体の機能を高め、病気や不調を回復させる自然治癒の基礎的治療法

 

 

また、一般の栄養学や食事療法では、消化吸収能や病態の考慮、ドーズレスポンス、至適量などの考慮は全く行われませんが、分子栄養学ではこれらも含めたアプローチを行っています。

 

よって、厚生労働省の定める栄養摂取基準や一般的な栄養学、食事療法と分子栄養学とでは、一線を画しています。

 

例えば、先ほど解説したヘム鉄を多く含む食べ物としては「赤身肉」や「レバー」があります。赤身肉のヒレやランプ、モモの部位には、100gあたりおよそ2.5mg程度のヘム鉄が含まれています。

 

厚生労働省の定める栄養摂取基準では、一日あたりの鉄分摂取推奨量は30〜49歳の男性で7. 5mg、30〜49歳の月経のある女性で11.0mgです。

 

これを先ほどの赤身肉で換算してみると、男性で一日あたり300g、女性では440gが必要になります。しかし、この摂取量はあくまで健康な人が貧血にならないよう推奨されている摂取量ですので、既に貧血や隠れ貧血になってしまっている方や、過多月経など病態を抱えている方には当てはまりません。

 

貧血や婦人科疾患など病態を抱えている方は、更に多くの鉄分の摂取が必要です。仮にヘム鉄摂取目標を45mgとし、これを赤身肉など食事だけで摂ろうとすると、およそ一日に2kgもの量を食べる必要があります。一日に2kgもの肉を食べるなんてことは、とても現実的ではありません。

 

また、食べた食べ物がしっかりと消化・吸収出来るかどうかも問題です。人によっては胃や腸の働きや、胆汁の分泌量などに問題があり、食べたものをしっかりと消化吸収出来ない方もいます。このような方に消化吸収能を考慮せずに、肉などの消化に負担がかかるものを大量に食べさせることは、むしろ病態の悪化に繋がってしまう可能性も高いです。

 

加えて、食品から特定の栄養素を大量に摂取しようとした場合、必要ない栄養素の摂取量も多くなり、脂質の摂取量増加など逆に栄養バランスが崩れてしまう事も考えられます。

それに、食事療法によって特定の食べ物を排除し続けた場合、むしろ食事や栄養のバランスが崩れてしまうこともあり得ます。

 

対してサプリメントの場合では、消化と吸収を考慮した設計によって製造されているものもあり、適切にサプリメントを用いることで食事よりも安全に栄養素を補給することが出来ます。サプリメントなら、特定の栄養素をピンポイントで補給することが出来るため、必要ない栄養素を過剰に摂取してしまう心配もありません。

 

このように、食事療法と栄養療法では全く役割が異なります。食事だけで至適量の栄養補給を行う事は、むしろ健康を害してしまう危険性がありますので注意して下さい。

 

 

○一般の栄養学は、欠乏症や病気の予防を目的としたもの

オーソモレキュラー療法は、サプリメントで積極的に栄養補給し、病気や不調の回復をサポートしたり、身体の機能を高めたりするもの

 

 

 

 

 

※この記事は、下記記事から一部を抜粋・改編したものです。記事全文は下記記事をご覧下さい。元記事はこちら↓