がん研有明病院漢方サポート科部長・index
医学博士の星野惠津夫氏の本「漢方によるがん治療の奇跡」の中に、がんとの戦いを有利に展開するために役立つ、知恵と工夫が記載されていましたので、要約してご紹介いたします。

がんだけではなく、日頃の養生にもヒントがいっぱいです。

(1)  飲食物について
①からだを冷やすものを避け、温めるものを摂る
がんは冷えを背景として発症し、増殖します。
ほとんどのがん患者に「冷え」や低体温がみとめられます。
免疫力を増強し、治療効果を高めるためにも冷えの改善は重要です。

からだを温めるために第一に重要なことは飲食物の性質を知る、すなわち「食養」の考え方が有用です。

 

②蛋白質を多く摂り、炭水化物や脂質は少なめにする
食事は、はじめに蛋白質をしっかり摂り、炭水化物や脂肪は最後に少なめに摂ります。

蛋白質は、大豆や大豆製品を主体とし、動物蛋白としては、青魚、白身の魚、貝類、鶏肉、鶏卵、チーズを中心として摂り、赤身の魚、獣肉(牛、豚、羊)は控える。

油は、オメガ3系のエゴマ油や、亜麻仁油の新鮮なものを摂る。

 

③野菜は温野菜とし、果物は原則として避ける

 

④有機農産物を選んで摂ろう

 

⑤ミネラル(亜鉛・鉄・マグネシウム)の重要性
亜鉛は、細胞分裂、免疫増強、創傷治療、味覚回復などに重要です。
大きな手術後のがん患者や、抗がん剤の投与を受けている患者の多くは、亜鉛が不足しています。

亜鉛は牡蠣や海藻、レバー、卵黄、チーズなどに多く含まれていますが、欠乏症を食物から補充するのは時間がかかり、また市販の亜鉛サプリメントでは不十分。

鉄欠乏症は、がん患者の多くにみられ、特に胃がんや膵がんの術後にしばしばみられます。

食物では肉類やレバー、うなぎ、ほうれん草などに多く含まれるが、食事中の鉄は十分吸収できず、鉄剤の補充が必要となります。

マグネシウムは体内で350以上の酵素の中で働くため、日本人は不足気味だが、がん患者ではさらに不足しています。

 

⑥ビタミンの上手は摂り方
ビタミンには、水溶性と脂溶性のビタミンがあります。

プレゼンテーション1

特にがん患者は、水溶性ビタミンが不足しやすい。
また、胃がんによる胃全摘術後や、膵がんの手術後には、ぼぼ全例で脂肪吸収障害が起き、脂溶性ビタミンの吸収が悪くなります。

総合ビタミン剤を補充すると同時に、食事は高蛋白・低脂肪食として、大量の消化酵素製剤を服用します。

 

 

(2)  運動で筋肉量を増やす
①有酸素運動に加えて無酸素運動を
ウォーキングなどの有酸素運動は、気分転換にもなり、体力作りにはいいのですが、がん患者では筋肉量を増やすための無酸素運動も必要となります。
筋肉量が増えると、免疫反応の主役であるリンパ球も増えるからです。

 

②腕も動かし、足を高く上げて歩く
筋肉量は身体の栄養状態と免疫力の指標となります。
筋肉量を増やすためには、普通の散歩ではなく、意識して足を高く上げて歩き、また歩きながら上半身もよく動かすことが重要。

ただし無理して運動をしすぎないこと、運動した後は完全にリラックスする「休息の時間」を設けることが大切です。

 

 

(3)  意識して行う「呼吸法」の効用
①「気」の巡りがよくなる
「呼吸法」を行う目的は、意識してリズミカルに深い呼吸を繰り返すことにより炭酸ガスを吐き出して酸素を取り入れる「ガス交換」を効率的に行うこと、呼吸筋を鍛えて筋肉量を増やすこと、自律神経系と精神状態を安定させることにあります。

 

②臍下丹田に意識を集中する
呼吸には、胸部の横隔膜や肋間筋だけでなく、頸部・背部・腹部などにある多数の筋肉が使われるから、毎日一定時間意識して呼吸法を行うと、これらの筋肉が鍛えられ、筋肉量が増加します。

 

 

(4) 自宅でできる温熱療法
がんの温熱療法(ハイパーサーミア)とはがん細胞が熱に弱い性質を利用した治療法です。
がん細胞は、42.5℃以上になると、死滅し始めると言われていますが、正常細胞はこの温度では障害されたいため、組織を43℃程度まで加温して、がんのみを死滅させようとする治療法です。
これには大規模な装置が必要なので、ここでは自宅でできる温熱によるがん治療のサポートを紹介。

①からだを温めて免疫力をアップ
からだを温めて血行がよくなると、免疫力がアップします。
漢方薬、食事、運動は重要ですが、40℃程度のぬるめの風呂に胸のあたりまでつかって、20~30分ゆっくり温める簡易温熱療法をお勧めします。

 

②使い捨てカイロで温める
冷えの強い患者や下肢のしびれがある患者には、大きな使い捨てカイロを重要な経穴(ツボ)が集中している部分に貼ることをお勧めします。

部位は、腰部中央と腹部中央です。
腰部には、腎・脾・胃などの重要な臓腑にエネルギーを注入するためのツボが集まっています。
また上腹部~臍部を中心として各臓器の「気」が集まるツボが集まっています。
これらのツボをカイロで温めることによって、効果的にからだ全体を温めることができます。

 

 

(5) 宗教の力も利用する
①医師は手当し、神が病気を治す
16世紀のフランスの外科医で、近代外化学の祖とされるアンブロワーズ・バレが述べたように、「医師は手当し、神が病気を治す」のです。

たとえば開いた傷がふさがるためには、血液凝固や組織修復のための複雑な過程をうまく働かせる「自然治癒力」が不可欠です。
また細菌やウイルスの感染に対して抗生物質は有効ですが、そのためには体内の精緻な免疫システムが働くことが必須であり、抗生物質のみで感染症を治癒させることはできません。

ではそのようなシステムを創り、人間をはじめとするさまざまな生命体がこの世で生きられるようにしたものは何かと考えると、それは「神や仏」のような存在であると考えざるをえないのです。

 

②自然治癒力を引き出す祈りの力
祈りは、がん治療において、極めて効果的な補完療法です。
がんは必ずしも手術や薬などの物の力だけで治るわけではありません。
患者が本来持っている自然治癒力を、祈りによって引き出せれば、がんとの戦いが有利に展開できるのです。
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がん専門病院として東西両医学を結集しての統合医療を具体的な症例を用いて可能な限り丁寧にまとめている本で、西洋医学の中での漢方薬の用い方は、症例も多く出されてあり、勉強になりました。

ここで紹介した知恵と工夫は、いずれも(食事、運動、呼吸、温熱、祈り、そして漢方)はすべて人間に自ら備わっている力「自然治癒力」を高めるための方法です。

受身ではなく積極的に求め、そして行動へと一歩踏み出す時、すでに「自然治癒力」のスイッチが入っていると思います。

あとは、その力の充実を図りつつ、病気と向き合っていく。

そういった総合的な医療施設が、日本全国に創設されることを願っています。

(石井)