4月に首相官邸の屋上で放射性物質を載せた小型無人機「ドローン」が見つかった事件を受け、ドローンなど無人航空機の飛行を規制する改正航空法が10日に施行されてから国土交通省に相談を含めた飛行許可申請が581件寄せられ、207件の許可が出されていたことが27日、同省への取材で分かった。改正法には「どこまで効果があるか不安」という声は根強いが、利用者側からも「無秩序な状態が改善される」と歓迎する声が上がっている。
飛行許可申請が581件
同法の施行で、飛行禁止空域や定められた方法以外で飛行させる場合、国土交通省や空港事務所に申請し、許可や承認を得ることが必要になった。
国交省によると、17日までに相談を含め581件の申請があり、207件の許可を出した。ほとんどが空撮目的で、業者だけでなく個人の申請も多いという。年末年始を控え申請数は増加傾向といい、担当者は「こんなに来るとは」と、利用者からの問い合わせの多さに驚いている。
そんななか、同法施行初日の10日には、高松市の人家の密集地域にある駐車場にドローンが落下。香川県警は同法違反の疑いで、卒業アルバムのためにドローンで高校の全景を撮影しようとしていた写真店経営の男性(50)=同市=の立件を視野に捜査を進めている。
捜査関係者によると、撮影中にドローンを見失ったという男性は反省した様子で、取り調べにも素直に応じている。同法違反の初ケースとなるため慎重に裏付けを進めているという。
また警視庁は、ドローンを悪用したテロや犯罪に対応するため、特注の網を取り付けた大型ドローンで飛行中の不審なドローンを捕獲する部隊を全国で初めて編成。本格的な対策に乗り出した。
大阪府庁も騒然
首相官邸での事件を受け警備を強化した大阪府庁では5月、庁舎周辺を飛ぶドローンが見つかり一時、騒然となった。
庁舎近隣のマンション工事の関係者が、現場を空撮するために飛ばしたと判明したが、当時は庁舎上空の無人航空機を規制する法律や条例はなく、府は工事関係者に「庁舎周辺で飛ばす際は事前に届け出をしてほしい」と要望することしかできなかったという。同法の施行で、大阪市内は全域が「人口集中地区」として規制の対象になった。
改正法では飛行禁止空域のほか、基本的な飛行ルールとして、(1)日中、目視の範囲内で飛行(2)人や建物などから30メートルの距離を保つ(3)物を投下しない(4)祭礼や縁日、展示会など人が集まる場所で飛ばさない(5)爆発物は輸送しない-ことを定めている。
事件が起きた4月以降、来園者や近隣住民への迷惑行為を禁じた公園条例などを根拠に公園などでのドローンの飛行を原則禁止とする自治体や、独自に規制する施設が相次いでいた。
関西では、京都三大祭の葵祭、祇園祭、時代祭のほか、「びわ湖大花火大会」(大津市)などでも主催者などがドローンの飛行を独自に禁止。
文化財の多い奈良県では興福寺や東大寺、春日大社も境内でのドローン飛行を禁止している。県教委文化財保存課は「改正法の施行で現場での運行ルールが明確になり、分かりやすくなる」と話す。
利用者からも「歓迎」
9月にドローンが大天守に衝突、窓枠などが傷つく被害を受けた世界遺産・姫路城の管理事務所は「改正法の効果がすぐに現れるかは不安。しばらくは状況を慎重に見守りたい」。
10月、広島県尾道市内の山陽新幹線の線路脇でドローンが見つかったJR西日本の広報部は「改正法の施行で安全面の向上に一定の期待はできる」と話した。
一方、使用者側からも歓迎の声があがる。今年9月に設立された一般社団法人「ドローン撮影クリエイターズ協会」(京都市)の坂口博紀代表理事(44)は「今まで必要のない場面での飛行や経験の浅い人が飛ばすなど、無秩序な状態が続いていた」と指摘。「待ちに待った法改正。今後は法にのっとり、秩序だった業者が撮影を行うことになるので、事故も減るだろう」と歓迎している。
