この前、森田って子に告白された。
なんとなく街中を歩いているときに、いい噂を聞かない軽音サークルの顔見知りを数人見つけて。
その中心にひときわ小さな背中。
どっからどう見てもサークル側の人間じゃないことは理解できる。
偶然見つけただけといえ、このまま知らん顔して立ち去るのは気が引けたから。
特に何も考えずその手を引いた。
後悔している。
その手を引いたこと。
軽い気持ちで連絡先を交換してしまったこと。
初めて告白されてからというもの、何回も断りを入れているのにも関わらず滅気ずにアタックを繰り返してくる。
こんな子は初めてだった。
もう誰かを好きになることなんて恐くて止めてしまった自分に。
彼女みたいな健気な子に好かれる資格はないはずなのに。
「ゆいぽん凄いねー」
「…何が」
「だってこの間新入生が入ったばっかりだってのに、もうおっかけができてるじゃん」
「そんな良いものじゃないって」
「ひかるちゃんっていうんだっけ?凄い可愛い子じゃん。一回くらいデートしてから考えてみればいいのに」
「おぜはそうやって見た目だけで判断しすぎなんだよ」
「会ってみないと見た目以外の部分が分からないから言ってんじゃん」
「…そうだけど」
「それとも、まだ好きなの?」
「……」
おぜとは幼馴染。
幼馴染でもなければ、こんな引っ込み思案で根暗な自分を気にかけてくれる友達なんて一人もいなかっただろうに。
今ではこうやって数少ない私の話し相手だ。
お節介が過ぎるところもあるけど…
「ゆいぽんは、これからもずっと誰とも付き合わない気なの?」
「ずっとじゃない。いつかは…」
「いつかっていつ?」
「いつかはいつか」
そのいつかがやってくるかどうかは分からないけど。
少なくとも今は全く興味が湧いてこない。
「もう十分だと思うよ」
「何が?」
「だから…前のことは忘れて、もう新しい恋に切り替えてもいい頃だと思う」
「おぜに何がわかるっていうの…」
「幼馴染だからだいたいのことはわかるし」
「……」
「まあ、お節介かもだけどちゃんと返事くらいはしないと駄目だよ。あの子がかわいそうだからね」
「…うん」
「それじゃ」
それだけ言っておぜは講義を切り上げて帰っていった。
新しい恋か…
やっぱり、どこか前の思い出が忘れられないんだよね。
恋も音楽も。
未だに私の胸の中心に居座り続けている。
◇
あれからかれこれ3度くらいは由依さんにアプローチかけたっていうのに、全部ハズレ。
あれだけ運命がどうとか気張っていたのが遠い昔のよう。
もうこれ諦めたほうがいいのかな?
さすがの私も凹まずにいられないや。
「ひかるー元気だしなって」
「だって…もう3回もデートに誘ってるのに…」
「まだチャンスあるって」
「…そう?」
里奈は優しいからいつでも私の味方だ。
大学受験の合格発表のとき、不安で仕方がなくて訳の分からない言葉を口走っている私を落ち着かせてくれたみたいに。
いつも隣りで励ましてくれる。
ベンチに座ってお昼に買ったパンを取り出すと、里奈がそこにおまけで一つクリームパンを置いてくれた。
やっぱ持つべきものは友だ。
袋を破ろうと、両手で開こうとしたとき
太陽がなにかに遮られて影ができた。
「ごめん…隣座るよ」
「っ!!」
「…あっ!」
振り向けばそこには由依さん。
紛れもなく、私の一目惚れの人。
ありえない…
もちろん偶然ここに来たってわけじゃなさそうだけど。
私になんの用があって…
「あ、ひかる。私先行ってるから!」
「ちょっ、里奈…」
里奈は席を譲るように立ち上がっては、手振り身振り忙しくしながら走ってどこかへ行ってしまった。
「今ちょっと話いい?」
「…はい」
「食べな?」
「あ、えっと、いただきます」
何故か、由依さんは購買の袋の中からサンドイッチを2切れ取り出して一つを私に差し出した。
今さっき里奈にも貰ったばかりだけど、まあいいか。
由依さんが取り出したのを確認してから、私も袋から取り出す。
ほぼ同時に口に運ぶ。
「……」
「……」
柔らかいパン生地を頬張る音だけが微かに続く。
口を動かしながら、隣りが気になって仕方がない。
横顔も綺麗…
私が最後の生地を飲み込んだところを見計らって、由依さんは話しを切り出した。
「あのさ…」
「…っはい!!」
「そんなに気張らないでよ」
「あ、すみません」
「2週間…ごめんね」
「え?」
「2週間もまともに返事返さなくてごめん」
「あ、いえ。逆に由依さんの迷惑になってなければ…私はそれで」
ちらっと横目で見ると、由依さんは私の手の上に同じものを重ねてきた。
不意の行動に、一瞬全身が跳ねた。
ビクって
なにこれ…どうなってんの
「それで、まだ好き?」
「好き、って」
「だからまだ私のこと好き?」
「あぁ…えっと」
「……」
「好きです!もちろんじゃないですか」
「…そっか」
質問の意味は分からないけど、自分の気持ちに蓋をする必要はないよね。
由依さんの温かい手を力強く握り返す。
もう一度、気持ちが上手く伝わるようにと。
すると今度は由依さんがほんの少しだけビクッと動く。
「この前遊園地行こうって誘ってくれたよね?今度そこ一緒に行ってみよっか」
「え、は?」
「行かない?」
由依さんと遊園地?
え、これって私が行くって言ったら一緒に言ってもらえるやつ?
ヤバい…
心臓が跳ねまくって手からそれが伝わってバレないか心配。
「行きたいです!」
「ふふ、じゃあ行こっか」
あ、初めて笑ったところ見れた。
可愛い…
それでもLINEのトップ画ほどの弾けるようなものとは違うけど。
それだけで私の心は嬉しくって弾けそう。
「ん…なに?」
「あ、すみません。笑顔も素敵だなって…」
「何言ってんの」
また笑った。
これもしかして脈ありだったりして…
それから軽く日程の打ち合わせだけして由依さんはベンチを立ち去っていった。
なんか夢でも見ているような。
ふわふわした気持ちを整理できないでいると、隣に里奈が戻ってきた。
「やったね!ひかる」
「うん!!…って何あんたは盗み見てたのか」
「いいじゃん、いいじゃん」
なんでこのタイミングで由依さんの方から歩み寄ってきてくれたのかはひたすら謎だけど。
もうなんでもいいや。
デートはデートだ。
私たちは人目も気にすることを忘れて青空の下、歓喜のハイタッチを繰り返した。
続く。