約束のデート当日、時間より少し早く着いた。

 

里奈の入れ知恵で出来る限りいっぱいのおめかしもできたし。

 

後は由依さんを待つだけ。

 

 

待ち合わせは駅近くの噴水広場。

 

私を通り越していくのはいずれもカップルばかりで、すでにどきどきが止まらない。

 

でも人を待つのってこんなに楽しいんだって、生まれてはじめて実感した。

 

 

 

ホームから出てくる人並みを眺めていると、それらしき人物。

 

 

「えっ、ヤバ」

 

 

可愛い…

 

 

長い髪は後ろで束ねていて、やや大きめサイズの白ティーにデニムといったシンプルなコーデでスタイルの良さが際立っている。

 

思ってたよりもカジュアルなファッションでちょっと意外。

 

 

やっぱりカッコいい。

 

でも可愛い。

 

 

「おはよーございます!」

 

 

「元気だね」

 

 

「そりゃあもう、ですよ。じゃあ行きましょ」

 

 

約束通り由依さんが来てくれた。

 

それだけでもう私の興奮は最高潮に達していた。

 

 

 

 

 

 

 

由依さんにはもう何回も気持ちを伝えている。

 

だから何一つ臆すること無く積極的に自分を出していこう。

 

 

ほんの少しだっていい。

 

由依さんが私と一緒に遊園地デートに行ってくれるってことは、何かしら伝わるものがあったに違いないのだから。

 

全くの脈なしってわけじゃない。

 

 

いっぱいアプローチかけて、この機会に全部伝わってくれるといいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「由依さん、まずは定番のジェットコースターですよ」

 

 

「えー、いきなり行く?」

 

 

「はやくはやく。凄い行列できちゃいますから、それまでに乗らないと」

 

 

「ふふ、分かった。元気だね」

 

 

 

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「次は意外なのいっちゃいましょう」

 

 

「何、意外なのって」

 

 

「私こう見えてもゴーカートの運転めっちゃ得意なんですよ」

 

 

「え、なんで?」

 

 

「なんでだと思います?」

 

 

「んー?……あっ、なるほど()

 

 

「って、何ですかその馬鹿にした笑いは」

 

 

「ちっちゃいから、運転席がしっくりくるとか?」

 

 

「ああもうっ!そうですよ!当たりですよ()

 

 

「自分で聞いておきながら」

 

 

 

 

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「由依さんまだまだ絶叫系イケますよね?」

 

 

「当たり前でしょ?私を誰だと思ってるの」

 

 

「とっておきのやつありますから。…あとで恐くなっても知らないですよ?」

 

 

「とっておきって…?あれ?」

 

 

「じゃーん!空中ブランコです」

 

 

「へー、たしかに恐そう…」

 

 

「怖かったら私に助けを求めてくれてもいいですよ。…とか、あはっ!」

 

 

「うんたぶん。私のほうが得意だと思う」

 

 

 

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「ハァ。…疲れましたね」

 

 

「たぶん私より疲れてるでしょ?」

 

 

「いえ、全然です」

 

 

「なかなか意地っ張りというか、負けず嫌いなところあるんだね」

 

 

「次は何にします?」

 

 

「私決めていいの?じゃあお化け屋敷」

 

 

「次は何にします?」

 

 

「お化け屋敷」

 

 

「それ以外で」

 

 

「却下」

 

 

「えぇー……」

 

 

「さて、苦手なものも知ることできたし。行こっか?」

 

 

「ちょっ、まだ決めてないですってばー()

 

 

 

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「もう疲れました、休みましょ…」

 

 

「最初の元気はどこいったー()

 

 

「もっと楽なやつで手を打ちましょう!」

 

 

「手を打つって…。まあいいや、じゃあそろそろアレにしない?」

 

 

「楽なやつですよ?」

 

 

「疑わないでよ。ほらアレだって」

 

 

「アレって?」

 

 

 

 

 

 

 

ヤバい!楽しすぎる!

 

楽しすぎて時間の経過を全く気にしていなかったせいか、辺りがややオレンジ色に染まりつつあるのに違和感。

 

 

遊園地ってこんな楽しい場所だったんだ。

 

 

そんなわけ…

 

由依さんが隣りにいるからに決まっている。

 

 

 

やっぱり好きだな。

 

もっとこうしていたい。

 

 

今日一日隣を堪能しただけでも人生の中でトップレベルの贅沢なはずなのに、人間ってのは贅沢だ。

 

もっともっとずっと一緒にいたいって気持ちが止まらない。

 

 

そんなわけか、西日が照らすカゴに二人で乗り込んだときに無性に寂しく感じた。

 

 

これでもう終わりなの?

 

 

そんなの絶対嫌だ。

 

 

 

 

 

由依さんと向い合せで座り込む。

 

じっと見つめていると目があって、由依さんはくすっと笑った。

 

 

「何?なんか目つきするどいよ」

 

 

言わなきゃ…

 

 

これで終わりにしたくないって…

 

 

もっとこれからも一緒にいましょう!って…

 

 

言えるはず。

 

 

「あの…やっぱり私もっと」

 

 

「あ、その話しはもう少し待って」

 

 

「えっ?」

 

 

「大丈夫、ちゃんと伝えるから」

 

 

真剣な表情。

 

今まで告白したときには無かった顔。

 

 

どちらかといえば、めんどくさそうというか。

 

なんか避けられていたような気がしたから。

 

 

特別に感じて、妙な緊張感が全身を覆った。

 

 

 

 

 

運命の時計がゆっくり時間をかけて回る。

 

 

なんか嫌だ。

 

って思っていても時間は止まることなんてしないで、辿り着いてしまう。

 

 

「あのさ」

 

 

きた

 

 

「ひかるちゃん、好きだよ私」

 

 

「…!」

 

 

「ちゃんと名前で呼んだのこれが初めてだよね?」

 

 

「…あ」

 

 

「ひかるちゃんは凄く可愛いし、今日一日一緒にいて凄く楽しかった。ありがとね」

 

 

「いえ、そんな」

 

 

心臓がばくばく。

 

このまま弾けちゃうんじゃないかってくらい。

 

 

「でもね…」

 

 

え?

 

 

「私にはもったいない」

 

 

は?勿体ないって…

 

 

誰が?

 

 

由依さんが私に?

 

 

「私はね、ずっと好きだった人がいて…その人のことをずっと追いかけてたから」

 

 

それって…たぶんあのLINEのトップ画に写っていた人だよね。

 

 

それが、

 

 

「正直言うとまだその人のこと、引きずってるんだ」

 

 

それってまだ好きだっていうこと?

 

 

まだ忘れられないってこと?

 

 

私よりもその人のことが好きだっていうこと?

 

 

 

溢れ出る疑問は口からは一切出てこない。

 

口から息が漏れて、濁音となって沈黙に溶ける。

 

 

 

「恥ずかしいけど…子供みたいにイジケて、大学サボったり、友達にキツく当たったりして……それでもっと自分のことが嫌いになっていった」

 

 

「……」

 

 

「あの人に好きでいてもらえない自分なんて、どうしようもない存在なんだって…今でも思ってる」

 

 

「……」

 

 

「だからね…こんな私は誰かに好きになってもらう資格なんてないんだ」

 

 

「……」

 

 

「ごめんね」

 

 

え、どういうこと?

 

 

全く分からない。

 

 

由依さんに資格がない?

 

 

そんなわけの分からない理由で、告白の返事ができないってこと?

 

 

いや、それ自体が返事か

 

 

 

さっきから視線が合わない。

 

 

嫌だよ

 

絶対嫌。

 

 

そんなの認めたくない。

 

 

私は一目散に由依さんの隣に駆け寄った。

 

 

「えっ?ひかるちゃん」

 

 

顔を上げた由依さんは穏やかな表情をしていて、それが無性に私を興奮させた。

 

 

「嫌です!」

 

 

「嫌って…」

 

 

「嫌なんです!そんな理由でフラれるなんてっ!」

 

 

「ごめん」

 

 

「謝らないでください…由依さんは黙って私と付き合ってください!」

 

 

「えぇ…」

 

 

「じゃないと」

 

 

 

もう、この空間で私の暴走を止めるものはなにもない。

 

行くところまで突っ走ってしまいそう。

 

 

由依さんの両脇に思いっきり手を回す。

 

 

力いっぱい。

 

 

「じゃないと、私このまま動きませんから!」

 

 

「ひかるちゃん…」

 

 

「いいんですか?…このままだと観覧車ぐるぐる回ってずっと降りられませんよ?一生ですよ、一生」

 

 

「…一生」

 

 

「下まで行っても、そのまままた上に上がって、下がって。ずっとその繰り返しですよ!?」

 

 

「それは嫌だ」

 

 

由依さんはまたくすっと笑って答えた。

 

 

いつの間にか、その姿が霞んできていて。

 

その先にある表情が分からなくなった。

 

 

 

「分かった」

 

 

「本当に分かったんですか!?」

 

 

「ひかるちゃんと付き合う」

 

 

「本当にっ!…って、ほんとうに?」

 

 

「うん。本当」

 

 

微かに揺れる水面から由依さんの笑顔が見えた。

 

 

なでなでって頭を撫でられて、溢れ出す。

 

 

本当に、本当に?

 

 

嬉しすぎてもう何が何やらわかんなくなって、そばにいる由依さんが優しく抱きしめてくれて。

 

 

ずっとこのままでいい、って。

 

観覧車がこのまま止まってくれればいいのにって、切実に願った。

 

 

「ずっと、このままですよ?いいですか?」

 

 

「うん、このままね」

 

 

 

私たちはピタリとくっついて動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

下まで行ってもずっと降りるつもりがなくて、観覧車がそのまままた一周したのは後で親友に聞いて分かった。

 

「っもう!私がもう一周分の料金立替てあげたんだから、感謝してよ。……良かったね、ひかる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く。