付き合っているからってのもあるけど、贔屓目を抜きにしても表情豊かだなって度々思う。

 

 

凛々しくてカッコいい真剣な顔。

 

いたずらっ子が出たおちゃめで可愛い顔。

 

くしゃって崩して笑う無邪気な顔。

 

ちょっぴり不機嫌でぶすっとした顔。

 

 

そのどれもが好きで、ああ飛鳥ってやっぱり私にとっていろんなものを与えてくれる存在なんだって、日々再認識できる。

 

見ていて全然飽きがやってこないし、これからもどんな表情も見逃さずに眺めていこうって思う。

 

 

 

私からしてみるとどんな日常の出来事も幸せ要素いっぱいなんだって、伝えてあげたい。

こんなにも私に幸せを運んできてくれてるんだよって。

 

 

そんな感謝の気持ちをどうにかして飛鳥の喜びに還元してあげたいって、それがきっかけ。

 

 

 

考えうるだけの飛鳥が楽しめる材料をたくさん詰め込んで、私たちははるばる地方に旅立った。

 

 

「ってゆーかさ、なんでいつも急に決めんのあんたは」

 

 

「でも予定ちゃんと空いてたでしょ?」

 

 

「…そういう問題じゃないんだって」

 

 

「でもたまにはこういうのも必要じゃない?私たちには」

 

 

「それって…こういうお仕事してるからってこと?」

 

 

 

飛鳥は大きめのバッグを重たげ両手に引っ下げてとぼとぼ私の後ろを歩く。

 

 

それだけじゃない。

日頃の感謝の気持ちを披露する機会がほしかった。

 

毎日おうちでぐうたら横になってじゃれ合ってるだけじゃ伝わらないものもあるし。

 

 

何より喜ぶ姿を見てみたかった。

 

 

 

飛鳥がこうやって悪態を付くのはもう一種の挨拶みたいなもんだ。

何をしたって一言目には文句から始まる。

 

あーだ、こーだ

 

それでも少し強引なくらいに引っ張ってあげれば、すぐに借りてきた猫みたいにおとなしくなるのだからあんがい飛鳥ってチョロいなって。

的外れってほどでもない。

 

そんなことは言わないけど…

 

 

 

 

 

 

 

 

輝くような緑に囲まれた湖畔の和風旅館。

 

女将さんらしき人に案内されるままに部屋へとあがりこむと、窓の外に悠々と広がる湖が移動疲れの心を吹き飛ばしてくれた。

 

 

 

「飛鳥凄いよ!湖すごく綺麗…」

 

 

「へー、すごいね」

 

 

「それにお部屋に露天風呂付いてるのもすごくない?」

 

 

「未央奈最初から知ってたでしょ」

 

 

「…まぁね」

 

 

飛鳥って人ごみ苦手だから、旅行に出るならこういう田舎のゆっくりできる旅館のほうがいいかなって。

 

それに大浴場よりお部屋から入れる露天風呂のほうが二人でのんびり過ごせるし。

 

それも全部飛鳥のためになれば、っていうのはナイショなんだけど。

 

 

無表情に隠れてるけど、窓の外を眺める横顔に含まれたリラックスした雰囲気。

 

その表情がまた私の幸せゲージを満たしてくれる。

 

 

 

「ねえ、晩御飯まで少し時間あるけどどうする?」

 

 

「んー、疲れたからちょっと休憩しよっかな」

 

 

「横になる?」

 

 

縦積みにしてあった座布団を取ってきて敷いてあげると、ちょこんと私の意のままにお尻を預けてくれる。

ペットみたいで可愛い。

 

それなら、私は寝っ転がる飛鳥のお世話をすることにしよ。

 

 

本当は売店とか行ってぶらぶらお土産漁りとかしてみたいなって思ったけど、まあ飛鳥のことだから。

部屋でまったり過ごすだろうという予想はぴったり当たっちゃった。

 

 

「飛鳥足の爪ながくない?」

 

 

「ん…まあ忙しかったから」

 

 

「私切ってあげよっか?」

 

 

「ん、お願い」

 

 

こういう身の回りの余計なお世話って飛鳥の望むところじゃなかったりするけど、それは普段の私たちならではのこと。

 

 

今の飛鳥はなんだって許してくれる仏さんモードだから、私の密かな願いは叶うばかりだ。

 

ぱちぱち、ぱちぱち

 

 

小気味良い音が断続的に部屋に響く。

リラックスしすぎて寝てしまわないように、話しかける口も止めないように。

 

 

「寝ないでよ」

 

 

「寝てないって…」

 

 

「それでね…」

 

 

ひたすら私がしゃべってそれに飛鳥が相槌を打つだけの退屈なやりとり。

それだけなのに、これだけぽかぽか温かい充実した気持ちになるっていうのだから。

 

 

結局、手の届くところに飛鳥がいれば私はそれで満足なんだなって。

 

私も負けず劣らずチョロいじゃないか。

 

 

 

時間が経つのはあっという間のことで、まったりゆっくり飛鳥との時間を過ごしているうちにお部屋の中央に次々と豪華な料理が運ばれてきた。

 

 

大きな土鍋に、鮮やかな野菜とお肉の盛り合わせ。

 

鮮度が売りの海鮮料理は氷漬けの状態で。

 

 

あっという間に机の隙間を埋めていくその光景が目に入っただけでお腹が空いてくる。

 

 

どうやら、それは私だけじゃなかったみたい。

 

のんべんだらりと横になっていた駄目人間が急に正気を取り戻して子供みたいに目を輝かせて起き上がるのだから。

 

 

私の幸せゲージはぐぐんと一気に駆け上がった。

 

 

「食べよっか?」

 

 

「うん」

 

 

 

 

 

グツグツとお鍋がいい香りを放ちながら彩りを増していく。

 

 

すき焼き。

飛鳥の大好きな牛のお肉にネギ、白菜、焼き豆腐、糸こんにゃく、しらたき、しいたけ、春菊。

 

それぞれが席を取り合っての黄金比率で隙間を埋めている。

 

 

それだけで終わらない。

透明ボウルの積み木の頂上にお刺身、お外で天ぷら、お吸い物。

 

 

どれもこれも和風テイストで誰もが好みそうなお料理ばかりだけど、単にそれだってわけじゃない。

 

全部飛鳥が好きだって知って事前にリサーチしたもので構成されていた。

 

 

飛鳥の箸は目にも留まらぬスピードで右往左往に散らばった。

 

 

「飛鳥、おいしい?」

 

 

「めっちゃ美味しい」

 

 

「だよね、…来てよかったでしょ?」

 

 

「…ん」

 

 

口いっぱいに含んでしまったせいか、返事は小さな頭を大きく縦に振る形となって返ってきた。

 

ぱっちり目開いて子供みたいにむじゃきな表情。

 

 

すぐに私から手元にある器に視線を奪われてしまったけど、一瞬だけでもその顔が見れて嬉しい。

 

 

普段、刺激の少ない生活の中ではなかなかお目にかかることのない。

年齢相応かそれ以上に幼い飛鳥本来の顔。

 

その幸せそうな顔が私の元気の源だったりする。

 

 

これじゃ…私が飛鳥に依存している人間みたいだなって、そんな考えはみるみるうちに減っていく鍋の具材を前にして一旦消し去ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「ん゛あぁー」

 

 

「飛鳥おじさんみたい…」

 

 

「うるさいわ」

 

 

「でも、やっぱり景色良くて最高だね」

 

 

夕食を済ませたあと、気になって仕方がなかった露天風呂に二人で浸かる。

 

お外は凍えるくらい寒いけど、肩まで沈めた瞬間にさらっとしたお湯が全身を巡って、なんだか一瞬にして身体がほぐされたような気になる。

 

ぽこぽことお湯が吹き上がる音が心地いい。

 

 

いの一番に壁際まで詰めていって、その場で背もたれによたれかかった飛鳥。

 

夜空を見上げたままタオルに顔をすっぽり隠された姿が可愛い。

 

 

 

二人して別方向を眺めて、岩から湧き出るさざなみの音だけになる。

 

この距離感なら飛鳥話しやすいかなって思った私はいざ問いかけてみることにする。

 

 

「ねえ、」

 

 

「んー?」

 

 

やっぱり、そのまま体勢を崩すことなく答える飛鳥。

 

 

「飛鳥はさ、…お仕事で悩みとか抱えることってある?」

 

 

「なに、いきなり」

 

 

「ちょっと聞いてみようと思っただけ」

 

 

「……」

 

 

「無い?」

 

 

「あるよ」

 

 

「どんなとき?」

 

 

「今も」

 

 

「今って…」

 

 

「未央奈だって知ってるでしょ」

 

 

「え、それは…」

 

 

「やっぱりピンででっかい仕事採用されたときはいつだって悩む、かな?…当たり前だけど」

 

 

「…そっか、飛鳥でもそんなこと」

 

 

「だからあるって。あんたは私をどういうふうに思ってるわけ」

 

 

私にとっての飛鳥って、

 

 

普段はあまり口数は多くはないけど、やるときとなるとびしっとスイッチが入って。

 

誰にも弱いところを見せなくて、かといって他人の弱さにはちゃんと寄り添える器量があって。

 

頭固い人間なのかと思いきや、ふざけるときは思わず引いちゃうほど崩してふざけてみせて、それがおちゃめで可愛くて。

 

 

 

それで…

 

なんでもできる人間なんだって、結局はまたそこに戻ってくる。

 

 

ずっと一緒にいたってそれは変わることなんてなくて、いやむしろますますその考えは増すばかりだって。

 

要するに

 

 

「完璧人間」

 

 

「なわけ、…それはイメージだけじゃん」

 

 

「だよね」

 

 

実は、飛鳥がいつもより変だなって感じたのはここ最近のこと。

 

大きな仕事が決まっていつも以上に忙しそうだから、単に疲れが溜まってるだけなのかなって最初は思ってた。

 

 

なんか、なんとなくだけど。

 

いつもより辛そうに見えたから。

 

 

見えたから…

 

私に協力できることってなんだろうって、一生懸命考えてみたけどほとんど何も見つからなかった。

 

毎日一緒に暮らしているのにそれが答えってあまりにも情けない話だけど、誠心誠意向かいあって聞いてみようって。

 

 

「それにしてもいい旅館だったね」

 

 

「未央奈…ありがとね」

 

 

「え?」

 

 

「私が悩んでるって知ってて、連れてきてくれたんでしょ?」

 

 

「そんなことないって」

 

 

「ばればれ、なんだよ」

 

 

「あ、そう?」

 

 

「ありがとう。ホントにすごい助かった」

 

 

飛鳥はタオルを取って素顔で向き合ってくれる。

 

真剣なんだろうけど、ほっぺがふやけてほんのり赤らんでるのが可愛くて、思わずふざけ合いたい衝動に駆られる。

 

 

「あすかってばー、相変わらずかわいいんだからっ」

 

 

「っもう、裸のままくっつくなって!」

 

 

「いいじゃん、嬉しいでしょ」

 

 

「暑苦しいんだってば」

 

 

「ねえ!温泉出たら二人で着付けやってみようよ。さっき見たけど浴衣めっちゃかわいいし」

 

 

「…いいよ」

 

 

わーい、やったーって私が子供みたい騒いでみせると、遅れて飛鳥も同じように水面をばたつかせる。

 

けらけら笑い合っていつもの私たちの温度に戻ってくる。

 

 

 

そうだよね…

 

私も、飛鳥も。

 

 

困ったら、お互い普段の居場所に戻ってくればいい。

 

 

 

どっちかがそこで待っててくれるなら、いつだって、どんなときだっていつもの私たちに戻ることができるんだから。

 

どんな表情も愛する恋人のものだと思えばなんとやら。

 

 

世界の片隅で誰もが知らない齋藤飛鳥を独り占めしたい。

 

 

 

 

……

 

 

って、やっぱり依存しているのは私のほうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

他愛の

 

 

 

 

 

 

 

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久しぶりのあしゅみおなでした(*´∀)

 

 

いつか描いてみようと思っていた二人の旅行ネタです。

 

 

珍しく飛鳥が思い悩んでいる様子を感じ取った未央奈がどういう形で励ましてあげるのだろう。

 

そんな疑問を妄想にすり替えて出来上がったのがこれです。

 

 

飛鳥って大人っぽさと子供っぽさ、どちらもたくさん持ってますよね?

 

 

何をしたってギャップが生まれちゃうんですから。

 

すごいです。

 

 

 

 

 

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