「あー…やっぱり降ってきたよ」
朝寝ぼけ目で流し見たニュース番組の天気予報だと60%くらいだったから、あわよくば傘無くても大丈夫かななんて思ってたのが運の尽き。
天にあざ笑われるかのように帰るタイミングで降り出した雨。
その勢いはこれからが本番ですよと言わんばかりに雨脚をどんどん増していた。
私の横を折りたたみ傘を取り出して通り過ぎる人の群れ。
みんな傘持ってきてるよね…
しょうがない。
カバンを盾にして帰るか。
幸いにして自分の背丈は人と比べてもだいぶ小さいほうだ。
こんなとき、あまりにも些細でしょうもないことだけど初めて小さく生んでくれたことを両親に感謝した。
雨に打たれる覚悟を決めて今か今かと飛び出そうとしていたところ、玄関から歩いてくる見知った顔。
3年生の小林由依さん。
密かに好意を寄せている先輩。
その人が目の前で大きめの傘をばさっと爽快に開いたもんだから、そこに入りたいな…なんて。
そんなことは人見知りでびびりの自分には到底言えるはずもない。
それよりもこの雨脚の中を思い切って駆け抜けていくほうがよっぽど安い覚悟で買えるのだから。
意を決してカバンを頭の上に振り上げたところ、それより高い位置に伸ばされた手。
驚いて顔を覗き込んでみると、さっき横を通り過ぎたと思っていた憧れの先輩がひょっこりと顔を出した。
「あ、えっと」
「濡れちゃうといけないからね」
「いいんですか…?」
「どうせ傘持ってないんでしょ」
いいよいいよ気にしないで、って天使みたいにはにかんだ笑顔。
まじか…雨最高じゃん
思いもしなかった棚ぼた展開に、さっきまでうんざりしていた気持ちが嘘のように一瞬で晴れた。
「森田ひかるちゃん、だよね。駅まで私と一緒でいい?」
「え!私のこと知ってくれてるんですか…」
「ふふ…知ってるって。そんな驚くようなこと?」
「あ、いえ。ありがとうございます」
小林さんは左手で傘を差して右手でちょいちょいって手招きする。
遠慮がちに、いつもよりもっと肩を狭めてその位置に潜り込んだ。
「そんなに小さくなる?笑」
「あぁ、ごめんなさい。小林さんが濡れるといけないと思って…」
「いいの。こういうのは先輩の見せ所なんだから、良い格好させてよ」
小林さんと目が合う。
初めてこんな近くで顔を見ることが出来て感激…
それとともに何を喋ったらいいのか分からない静寂。
あ、この前あの教科の先生が階段でコケるところ見ましたよー。
めっちゃ面白くて思わず目の前で吹き出しちゃいました。
とか、私は好きだけど小林さんがもしそういうの笑って聞くタイプじゃなかったとしたら。
余計気まずくなるだけだし嫌われたらどうしよう。
そもそもちゃんと喋ったのも今日が初めてだし、そんな親しい関係でもないから他に話題が出てこない。
「…あの聞いてもいいですか?」
「んー、いいよー何」
「どうして私を拾ってくれたんですか?」
「どうしてって」
だって私なんか小林さんの友達でもないし、それこそ眼中にもない存在のはずなのに…
2年生のみんなの間でも小林さんの人気はそこそこ高い。
カッコよくてそれでいて凄く綺麗だし。
同級生の仲良い子が告白したって噂ももう何度も耳にした。
そんな高嶺の花に相傘してもらえるなんて嬉しいことこの上ないけど、それだけに納得できる理由が欲しい。
なんでなんだろう。
「だって、森田ちゃんずっと私のこと見てるんだもん」
「えぇ!」
「傘開いたときじっーと見てたから気になってしょうがなかった」
「嘘っ…」
見てたの気づいてたんだ。
カバンを持つのに手を使ってるから無理だけど、顔を覆ってしまいたい。
恥ずかしい…なんでもっと自然にできなかったんだろう。チラって横目だけ使えばよかったのに…
「あと、普段の視線も」
「ひゃぁー」
もうダメ
飛び出そう。
今日は用事思い出しましたって。
急いで帰らないといけないので、ごめんなさいやっぱり走って帰りますって言おう。
「逃げるの駄目」
「えぇっ!」
バシって小林さんの手に掴まれる。
え、カバンと傘で両手塞がってるはずなのになんて器用なことするんだよ、この人。
って思ったら頭に降りかかる雨粒。
「いいから最後まで聞いてよ」
「はい、聞きます」
真剣な表情も凛々しくてカッコいいですね。
…じゃなくて、どういう状況だよこれ。
なんで小林さん傘放っぽりだして私を捕まえてるの?
「私が拾ってあげたかったから」
「?」
「前々から可愛いなって思ってて、そしたら森田ちゃんのほうから視線が凄くて…」
「ってことは」
「好き、ってやつ」
「へぇー…」
好き、ってやつ?
ナニソレ、意味分かんない。
ていうか好きって、私がじゃなくて、え?小林さんが私のこと好き?って言った今・・・
「ええぇ…!」
「ほら、また逃げようとしない」
「だって…」
「いいから、傘拾うから歩きながら話そう」
「はい…」
小林さんはゆっくり落ち着いた動作で開いたままの傘を拾い上げる。
それをまた私の頭上に掲げてにこって微笑んで「ほら行こ」って。
私の気持ちを知ってるくせに。
それで小林さんも私のこと好きって。
こっちがこれだけ慌てて窮地に追い込まれたかのような心境になってるのにそれを軽くいなすかのように…
これだけ綺麗でカッコよくて、何してても仕草さえも華やかなのに、傘を離した一瞬だけ雨に打たれて。
しっとりと濡れた髪がおでこにくっついて、その姿さえ告白も華やかでカッコよく見えるのだから。
雨までも味方につけるこの人が心底羨ましい。
さっきまでとは違って私の右手によって握られた傘。
しれっと、そこに添えられた左手がまたズルいなって思えた。
雨も晴れもよう
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無名さんからのリクエストで
「ゆいぽんとるんちゃんの学パロ」 というお題でした。
若干短めになりました。
ゆいぽんがズルい女になってしまいましたね(笑)
どちらかと言うと欅では年少側の存在だったゆいぽんが今ではすっかりお姉さんポジションですから…
時が経つのは早いですね。
リクエストありがとうございました。