「ねー、桃子にとって今一番大事にしてるものって何?」
「えぇ…そんなこと聞く?」
「いいから、教えてよ」
「…えっとね」
「うんうん」
「よだとの時間が一番大切、かな」
ほら。
待ち侘びていた言葉。
大好きな桃子の口から実際に言われると、嬉しくって何度でも反復して求めちゃう。
「本当に?」
「ほんとにほんとだってば。…あぁもう恥ずかしい」
桃子って本当に純粋で素直で、どこから眺めてみてもお飾りなんてものが見当たらない。
言いたいこと全部伝えてくれるから、その口からならどんな言葉だって信じられる。
さっきからずっと恥ずかしい、って顔を隠して照れる桃子。
可愛い…
ずっと眺めていたい。
儚くて、そして脆い。
桃子に抱いているイメージはそんなだけど、ある意味それが輝かしくもある。
私も桃子との時間が一番大事。
いつまで経っても変わらない私だけの桃子でいてね。
そのとき、わたしたちは二人でお互いの気持ちを確かめ合ったはずだった。
少なくとも私はそう思っていた。
ある日の楽屋での事。
いつもみたいに控室で顔を伏せて寝ていた私は、なんだか急に胸騒ぎがして眠りから覚めた。
あれ、さっきまでここには桃子が座ってたはずなのに…
きょろきょろ辺りを見渡してみてもその姿は無くて、代わりに松村さんと生田さんがそばにいる。
「あ、与田ちゃんおはよー」
「相変わらず可愛い寝顔だったよ」
きっと寝起きが悪さの原因。
そのとき私はなぜだかもやもやしていて、失礼ながら先輩たちの相手をする気は全く起きなかった。
それゆえに私は二人を無視して立ち上がった。
突然やってくる不安。
それもそのはず、隣りにいたはずの桃子はそこにおらず、寝てる間に遠く遥か彼方にいた。
桃子は一つ年上で私から見るとお姉さんになるのだけど、乃木坂46というグループ内における家族構成があるとするならばきっと私より年下の妹みたいな存在であるに違いない。
泣き虫で、見た目以上に精神年齢も幼くて儚げな女の子。
桃子には私みたいな影で支え続ける存在がいなくちゃ駄目なんだ。
私が守ってあげなくちゃ。
どうみても身勝手でしかないその考えがしごくまともに心の中で大きくなって主導権を握っているもんだから、恋というのは恐い。
ただそれに気づくことはない。
大事な桃子への距離を詰めていくとその隣には蓮加がいて、その手にはカメラを起動しているであろうスマホが握られていた。
いわゆるブログに載っけるツーショットというやつだ。
何嬉しそうにカメラ目線決めちゃってんのよ。
ブログに載せるなら私とのやつにしてって、あれ本気で言ってたんだよ私は。
むかむかしている内心は置いてけぼりで、二人の笑顔はどんどん加速していってしまいにはきゃあきゃあ声を出し合ってしまった。
ムカつく。蓮加のくせに。
桃子も桃子だよ、私が寝てるからってすぐ別の子のところに移動しちゃうなんて浮気性もいいところだよ。
ああっもう!
こんなとき、私が手引っ張って蓮加から桃子を奪い去るくらいの度胸があれば。
そんな希望はさておき、私は目を瞑って元いた場所に戻っていくことにする。
ただ座ってむかむかする胸の内がおさまるまでじっーと。
そうしている内に桃子は何食わぬ顔で私のもとへと帰ってきた。
「あ、よだ起きたんだ」
「……む」
「え、なに。寝起きはそんなだったっけ?」
「知らない…」
「もしかして、桃子に対して何か怒ってる?」
「だから知らないって」
あー、スッキリしない。
何、桃子のあの顔…鳩が豆鉄砲を食ったような顔って言うの?
私の態度がおかしいとみるやすんなり退散していっちゃって。
全然違う。
そんな壊れ物を扱うかのような恐る恐るな態度が欲しいんじゃないのに。
ただ…そばにいてくれるだけでいいのに。
分かってるよ。
悪いのは全部わたしのほうだって。
どっからどう見てもただ自撮り一緒に撮っただけの蓮加に嫉妬してしまう私のほうが異常だって。
誰でもいいからハッキリそう言ってくれれば楽になるのに。
みんな離れていって私の周りには広いスペースができた。
そこに
飛鳥さんがのっそりと歩いてきた。
あぁ…
桃子の考えそうな安い手だ。
結局自分では考えても理解が追いつかないから、一旦引いて理解できそうな飛鳥さんを派遣して様子を伺おうという考え。
よっこらせって隣の椅子を引く飛鳥さんを軽く睨みつける。
目が合うと、飛鳥さんは目を細めて笑った。
「あんたは反抗期かっての。ぞのっちがどうしたらいいかわかんないから助けてってさ」
「いいですよ別に。助けてあげなくて」
「だから反抗期はもういいって」
「…う」
「いいから話してみなさい…これでも一応先輩なんだから」
あーあ、せこい。
こんな言い方されたら自分が悪かったですって言うしかなくなっちゃう。
私の言い分はいたってシンプルだ。
ここまで溜め込んだものがただ起きたら桃子が蓮加のもとに行ってた、ってだけの嫉妬だって知って飛鳥さんは予想通りの反応を見せた。
「それって嫉妬ってやつ?」
「…そうなんですかね」
「それしかないでしょ」
「早い話が蓮加と仲良くしてた桃子を見て拗ねてしまった、と」
飛鳥さんはバカにするでもなく、かといって深刻に捉えるでもなくただあっさりと私の心情だけを解説してみせる。
嫉妬って。
頭で想像するぶんにはあまりにも簡単で、幼稚で単純な恋する人間の持つ心理作用。
実際にこうして体験してみると、どうしようもなく隔たった大きな壁に感じる。
未央奈さんと付き合っている飛鳥さんならそれの対処法なんて分かるってことなんだろうか。
「飛鳥さんは嫉妬とか、するんですか?」
「まあ…意識しててもしちゃうときはしちゃうよね…私もどうすればいいかなんて全然わかんないや」
飛鳥さんはぽけーとした顔にのんきな態度で答える。
ホント、何しに来たんだろうこの人…
「でも、よだっちょがどうするべきかは分かるよ」
「へ?」
「蓮加と仲良くされて嫉妬してしまいました、ごめんなさい…ってぞのっちに言えばいい」
「えー…そんな」
「あの子って究極にシンプルな生き物だから。よだっちょが気難しいこと考えてちゃ駄目でしょ」
ほら行って来いって、肩を押されて見上げた先には不安そうにした桃子の立ち姿があった。
その両隣に美月と蓮加がいて、どうやら私とのことを気にかけてもらっていたらしい。
ほんと、私ってばつまんない意地張ってどれだけ人に迷惑かけてんだろ…
やっと気づいた。
「桃子ー。ごめん、私が悪かった」
「よだが悪い?何も悪くないよ、きっと悪いのは桃子の方だよ…」
「そんなこと無くて…」
「きっと桃子がよだの気に障ること言って、それで桃子が気づいてないだけだよ…でも、なんで怒ってるのか桃子自分じゃ分かんないから教えて欲しいなって」
「えっと…」
飛鳥さんの言うとおりだ。私がもっと素直に気持ちを伝えないと、桃子の勘違いは変な方向に行ってしまって風邪引いてしまう。
シンプルでいい。
「桃子が蓮加と自撮り撮ってるところ見て嫉妬、…しちゃいました。ごめんなさいそれだけです」
「はっ?」
「だから全部私が悪いの、桃子は悪くない」
「そうだったんだ…」
「ごめんなさい」
「ううん、…そっか嫉妬か。あ!そうだ」
「ん?」
桃子は何かに閃いたかのように私との距離を詰めてきた。
「今度から嫉妬しちゃったら、そのときに教えて”今嫉妬中ですって”」
「えぇ…それは何かヤダな」
「それなら桃子もよだが嫉妬してるからってちゃんと分かってあげて、他の子とは距離とるからね?」
いや、それじゃあ私ただの甘えん坊の幼稚園児みたいじゃないか。
お母さんに甘えたいときに抱っこをせがむみたいで…
まあ、いっか。
私の不器用さと桃子の純粋さをかけ合わせてみれば、あんがいその考えもまともなんじゃないかって。
自分が思ってるよりも桃子のほうがよっぽどお姉さんなのかもしれない。
「じゃあ今嫉妬してるから甘えさせてよ」
「いいよ。…あ、でも今ここ楽屋だからまた後でね。みんな、ほら飛鳥さんだってあんなに見てるし」
「えー」
桃子は後ろにいる飛鳥さんを指差して、私を諭すようににこっと笑ってみせた。
ほら
やっぱり私より大人じゃないか。
幼く見えても
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destruction-reviewさんからのリクエストで
「よだももリアパロで蓮加に嫉妬するよだっちょ」
というお題でした。
未央奈と付き合ってる設定の飛鳥がアドバイスして仲直り、とまで細かいシーンまでリクエストしていただきました。
与田桃のお二人は初登場CPでしたが、こうして飛鳥とくっつけて書いてみるとあれ不思議。
なんか自然に絡ませることができました。
…うん。
全く自信ないですが、好きなお二人だったので書けて良かったです。
リクエストありがとうございました。