あ、ひとつでいいです。

バリバリの広告マンとして働いていた謙さん。50歳を前にしたある日から物忘れがひどくなっていく。初めは疲れや精神的なものかと思っていたが、病院の若い医師の診断は「若年性アルツハイマー」。記憶の喪失はどんどん進行し、仕事もできないほどに。でも彼をしっかり支えてくれる妻の存在があった…あらすじはこんな感じだ。

劇場は平日の昼間で「割引デー」でもないのに一杯。ほとんどがやはり「夫婦50割引」の適用者たちだった。彼らにとって決して他人事ではない現実的な問題、どちらかがそうなった時にもう片方は対応できるのか?2人の間に妙な緊張感があるような気がしたといったら、考えすぎだろうか?

記憶喪失モノというと最近は「私の中の消しゴム」「博士の愛した数式」なんかがあるが、3本の中で見ていて一番切なくなったのはこの作品だ。「私の…」は韓流の難病泣かせモノ具合がキツすぎたし、「博士の…」は記憶よりも数式の美しさとか、記憶が消えることをすでに達観した博士の涼やかな表情が印象に残った。でもこれでは、いいオッさんが絶望してオイオイ泣いたり、錯乱してわめいたり、病気の恐怖がとても現実的なものとして襲ってくる。自分にはまだ先のことかもしれないが、医者役のミッチーのセリフ「人間なんて、初めの十数年だけで、あとはひたすら衰えていくもんなんです」はとても胸に染みた。

原作もいい。役者の演技もいい。ただ監督は変えたほうがよかったんじゃないか?
今ノリに乗ってる監督なのは知ってるけど、不必要にカメラをぐるぐる回したり、揺らしたり、意味ないCG入れ込んだり。テレビ屋出身だから「分かりやすく」「派手に」ってしちゃう癖は分かるけど、そんなことしなくたってこれ見るような年代は、それとない表情や仕草で不安とか心の揺れなんか読み取ってくれるわい!「最先端の俺の作品なんだぜぇ」オーラは他行ってやってくれ。

そんなこと考えてはいたけど雨の帰り道、一応嫁さんにケーキを買って帰った。