JR四国の特急形電車は8000系と8600系の2形式があります。
8000系は1992(平成4)年に試作車を製造。翌1993(平成5)年から量産車が投入されました。
(「しおかぜ」8005・讃岐塩屋〜多度津・2017年1月13日)
8000系には L編成とS編成があり、それぞれ6編成が松山運転所に配置されています。
L編成は松山方に連結される5両編成で、岡山〜松山間の「しおかぜ」を中心に運用しています。1号車はグリーン・普通合造車で流線型の前頭部となっています。5号車はS編成と連結するため貫通構造となっています。
S編成は高松方に連結される3両編成で、高松〜松山間の「いしづち」を中心に運用しています。こちらは全車普通車となっています。
(「いしづち」8505・高松・2017年1月13日)
S編成の6号車は貫通構造で、8号車は流線型の先頭部を持っています。L編成とS編成を連結すると両端が流線型の先頭車となります。
8000系は2004(平成16)年からリニューアルされ、グリーン車と普通車指定席の座席を変更しました。またカラーリングも一新され、グリーン車のドアを赤、普通車指定席のドアをオレンジ、普通車自由席のドアを青という配色となりました。
8600系は2000系気動車を使用していた「しおかぜ」「いしづち」を置き換えるために2014(平成26)年に登場しました。
(「いしづち」8601・讃岐塩屋〜多度津・2017年1月13日)
全車貫通構造の先頭車となり、全車普通席の2両編成8本と1号車がグリーン・普通合造車となった3両編成2本が製造されました。
2両編成が「いしづち」に使用される場合は7号車が欠番となった6、8号車と表示されています。
「しおかぜ」では3両編成と2両編成を連結した5両編成が充当されています。
(「しおかぜ」8702・讃岐塩屋〜多度津・2017年1月13日)
前面の黒くて丸いデザインは蒸気機関車をモチーフにしたものだそうですが、なんともユーモラスですね。
そんな8000系と8600系ですが、両形式に大きな違いがあります。
それは8000系に制御付コロ式自然振子装置を搭載しているのに対して、8600系には車体傾斜装置を搭載していると言うことです。
8000系の制御付コロ式自然振子装置は、超過遠心力によって車体を最大5度まで傾斜させる装置です。
(「しおかぜ」8003・詫間〜みの・2017年1月13日)
台車の構造は複雑で、台車枠上に円筒形のコロを搭載し、その上に円弧状の振子梁を載せています。振子梁は空気バネを介して車体を支持していて、車体と共に傾斜する仕組みとなっていて、重い床下機器が遠心力で曲線の外側に投げ出される力を利用して車体を曲線の内側に傾けるものです。これが自然振子装置のキモです。
ただし、すべてを自然動作に任せると振子遅れや揺れ戻しが発生して、乗り心地が悪化でスピードアップにも制限がかかるため、台車枠と振子梁を空気シリンダで連結し、曲線進入前に予め車体を傾斜させておく(予見)ほか、曲線通過中や曲線通過後も車体を安定させる制御をしています。これが制御付コロ式自然振子装置の構成と動作になります。
8000系には予讃線の線路マップがインストールされていて、ATS地上子で絶対位置補正をしながら車体の傾きを制御しています。
一方8600系の車体傾斜装置は曲線外側の空気バネを膨らませて車体を持ちあげることで最大2度まで傾斜させることができます。
(しおかぜ」8702・詫間〜みの・2017年1月13日)
車体傾斜装置では特殊な台車が必要ないというメリットがあります。曲線区間を通過しているときはジャイロセンサによって車体の傾斜を制御するほか、8000系と同様に予讃線の線路マップをインストールしているので、マップ式を使って曲線の手前から予め車体を傾斜させておくことができます。
さて、8600系の車体傾斜角度は2度で、8000系の5度から比べるととても小さいのですが、8000系と8600系の曲線通過速度は同じで半径600m以上で本則+30km/h、半径400m以上で本則+25km/h、半径400m以下で本則+20km/hとなっていて、所要時間もほとんど変わりません。
この曲線通過速度ですが、乗客が感じる超過遠心力が0.08G以下ならば、本則よりも高くすることができます。ただし線路にかかる横圧の問題や600m以内に停止させることができる制動力が求められるので、闇雲にスピードアップをすることはできませんが。
以前いろいろ調べてみたのですが、車体傾斜角度が2度でも乗客が感じる超過遠心力は0.08G以下に収まります。それどころかJR東日本が開発中のE353系の車体傾斜角度1.5度でも計算上も0.08G以下に収まるようです。
もっとも8600系もE353系もマップ式を併用して、予め車体を傾斜させることができるから振子式並の速度を実現できますが、JR北海道キハ201系、キハ261系の様にジャイロ式だけだと、曲線進入後に車体が傾斜するので振子式と同じ速度で曲線区間を通過することができないようです。
在来線のスピードアップ策としてJR各社で採用された制御付自然振子装置ですが、イニシャルコスト、ランニングコストが高くて費用対効果が低いとして、縮小傾向にあります。
そして車体傾斜装置へシフトしたり、非振子式に置き換えられたりしています。
JR四国では車体傾斜装置を採用して振子式と同等の所要時間を実現しました。さらに気動車でも車体傾斜装置を搭載した2600系の製造が進められているようで、今後老朽化した2000系を置き換えていくと思われます。