A寝台1人用個室の元祖「ルーメット」 | はやこま すていしょん!

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更新頻度は遅めですが、日々の出来事や趣味的なことを書いていこうかなと思っています。若干鉄分は濃い目の予定(笑

青函トンネルが開通した1988年3月13日、上野~札幌間を結ぶブルートレイン「北斗星」の運転が始まりました。この「北斗星」の特色は「ロイヤル(1人用デラックスA寝台個室)」「ツインDX(2人用A寝台個室」「デュエット(2人用B寝台個室)」「ソロ(1人用B寝台個室)」と、各種個室寝台を用意したことです。その後開放B寝台に仕切り扉を設けた4人用簡易個室「Bコンパート」も登場。現在の北斗星は完全に個室主体となっています。
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(「北斗星」オハネフ25 15・尾久~赤羽・2010年7月3日)
中でも「北斗星」運転開始と共に登場したデラックスA寝台「ロイヤル」はベッド、机やソファだけではなくシャワートイレまで備えており、「北斗星」を豪華寝台特急として印象づけました。
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(函館・2010年5月6日)
「ロイヤル」に影響を受けたJR西日本は「トワイライトエクスプレス」で2人用デラックスA寝台個室「スイート」を登場させ、JR東日本も「夢空間」で「デラックススリーパー」を生み出し、さらにE26系「カシオペア」では「カシオペアスイート」を頂点とするオールA寝台2人用個室で構成。豪華寝台特急時代を演出しました。

一方でビジネス主体の寝台特急にも個室化を推進する動きが見られました。これは昨今のプライバシー保護の観点という意味合いも強いもので、JR西日本が1998年に開発した285系「サンライズエクスプレス」も格安なノビノビ座席以外は個室で構成。ビジネス主体の列車なので、最上級クラスはA寝台1人用個室「シングルデラックス」となっています。
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(2009年4月4日)
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(2009年4月4日)
「シングルデラックス」はトイレやシャワーは付きませんが洗面台やテーブルは備えられ、充分以上の居住空間が提供されています。

この「シングルデラックス」のパイオニアは1976年に製造されたオロネ25で、九州ブルートレインを中心に使用されました。晩年は14系に改造されオロネ15形3000番代となっています。
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(オロネ15 3004・門司・2009年2月18日)
個室内には枕木方向にベッド兼ソファが設置される構造でした。
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(2008年10月23日)
個室の寸法は長さ1,945mm、幅1,150mm。
寝台兼用座面の幅は700mmで実はB寝台と同じ幅でしたが、座席として使用する際は肘掛けを倒すと背もたれが連動して傾斜し、座り心地が良くなるようになっていました。
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(2008年10月23日)
また、テーブルは洗面台のフタを兼ねていました。
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(2008年10月23日)
個室もそれほど広くありませんし、285系の「シングルデラックス」と比べると簡易構造に見えますが、それでも当時は1万円という寝台料金がプレミアム感を高めていました。
なお24系の「シングルデラックス」は後年改造車が多数登場しています。現在は元祖「シングルデラックス」は消滅しましたが、改造車は「あけぼの」で健在です。

そんな「シングルデラックス」の元祖オロネ25が登場した背景は現在とはかなり異なります。Newブルートレインこと14系以来、ブルートレインのA寝台車は開放式プルマン寝台となっていましたが、24系25形でB寝台が2段化されたことにより、特に頭上空間の面から居住性の差が少なくなったため、モノクラス化が進行。しかし24系25形100番代を九州ブルートレインへの投入するに当たって2段式B寝台との差別化を図るため投入されたのがA寝台個室だったのです。

そんなA寝台個室の元祖は初代ブルートレインである20系に用意された2等寝台(後の1等寝台→A寝台)1人用個室「ルーメット」です。「ルーメット」は2等寝台2人用個室との合造車ナロネ20と開放式プルマン寝台合造車ナロネ22に設定されましたが、ナロネ20は1976年に廃車、ナロネ22も1978年に廃車されています。そのうちナロネ22 153が北海道の旧根室本線新内駅に設置された旧狩勝線資料館で保存されています。
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(ナロネ22 153・旧狩勝線資料館・2009年6月14日)
当初はここでSLホテルえぞらいちょう号として営業していましたが、ほどなくして営業廃止。その後は放置されていましたが、NPO法人「旧狩勝線を楽しむ会」の運動に保存が決定しました。

A寝台1人用個室の元祖とも言える「ルーメット」は通路を挟んでレール方向に配置されていました。個室の寸法は長さ1,900mm、幅1,046mm。「サンライズシングル」の1,960mm×960mmと大差ありません。
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(2009年6月14日)
ただし、日中はこのようなゆったりとしたソファシートとなっている点が大きく違います。
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(2009年6月14日)
テーブルは窓下に格納される構造。
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(2009年6月14日)
座席側にはボーイを呼ぶためのベルボタンが付いていました。今では考えられない装備ですね。

洗面台は格納式ですが、構造は床屋さんの洗髪台みたいです。
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(2009年6月14日)
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(2009年6月14日)
ホーローなのが時代を感じさせますね。

座席の向かいには鏡と荷棚があります。
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(2009年6月14日)
このほか通路上にも荷物置き場が設置されていました。

座席を寝台に転換するギミックは驚きです。なんと背もたれがある壁面ごと前に倒すと壁面の裏に備えられた寝台が出てくるというものです。
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(2009年6月14日)
20系のA寝台個室は座面と寝台を別立てしていたわけですね。今の寝台車とはその考え方が根本的に違うのが分かります。

寝台をセットすると常夜灯も出てくる仕組みになっていました。
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(2009年6月14日)
寝台の幅735mmと今では決して広くはありませんが、当時のB寝台(3等寝台→2等寝台)が520mmだったことを考えれば充分以上でしょう。
20系の個室は生涯を通して九州ブルートレインにのみ使用され、その他では開放式プルマン寝台車が投入されました。その後継となるオロネ25はブルートレインブームの象徴的存在となりましたが、20系「ルーメット」と比べると合理的でもの寂しく感じてしまうのが不思議ですね。
そんな「ルーメット」が豪華個室時代のパイオニア「北斗星」が目指す北海道で生き延びているのも奇妙な縁を感じますね。