『Fの静かな生活』
これは後味の悪いフィクションですね~。
やだあああ~。



「どうしたんだ、もっと志を高く持て」
先生はFを焚きつけようとしてしくじり続けた末に、
「自尊心や自己評価が低すぎるぞ」
とFの底にあるものをやっとつついた。
自尊心や自己評価が低すぎるために、
何も認められず、何にもなれないでいた。
どこかへと向かう気はなく勧められたらそこでもいい。
自分で決められなくなっている
Fにとってはだいたいのことがよかった。

今度は「普通に」ということが大切なのだから、
Fは側にいる平均的な人たちが走っているのをみれば、
とりあえずそれに合わせて走る。
もしそれが少し速かったら、表情を一つ変えずに
機械的に合わせて少し速く走るだけなのだ。
ついて行ければ後のことはどうでもいい。

安心の群れを追っている。


急に放り投げ出されてしまうと突然困ってしまう。。
好きな人とペア、好きなコース、好きな時にいける塾…。
みんなと一緒ではいられない場所。

高い志が今もFに必要なのだろうかとF自身悩んだ。
ぼんやりして過ごすほかないのだから、
もはや関係ないだろう。


習熟度別で分けられる数学の授業では、
ABCクラスの中でのB、
英語の授業でもB、卒業前の3年時の12月からほぼど真ん中でいる。
Fはその時期にもなって勢いよく落ちたのだ。

誰もFをからかいもしないし、話しかけようともしなかった。
だって誰もFを知らない。
今やここの先生のだれもFのことをよくわからないだろう。


ぼんやりとベッドで横になって、
無味乾燥な日々を味わっていた。
妙なかけ声に合わせて、走っていく学生達の足音が聞こえる。
部活にはもう行かなくてもいいし、
気が向けばいってもよい。
しっかりとみたわけではないのだが、
どうもFと近い年頃だろうとは声の感じから推測できた。
夕暮れ時、授業が終わってからの練習で疲れているように感じられた。
起き上がって目を開けることはできない、とても眠たいのだ。

いつもの時間がきたんだと思った。
寝そべって何も考えない時間、
戻るところに戻ったという気がした。

学校でのことは社会に出てみれば大したことない事、
ほかのことに目を向けさせてやりたいと外で話す声が聞こえた。
そういえる人はもうラクになってしまった人だ。
わかってないんだな。

ベッドそばにおかれているはずの野球帽に意識が行った。
あの日も被っていた気がする。

帽子を目深にかぶって、
縦長に引き延ばされただけの小学生風の子達の中にFはいる。
10代前半だからか、やはり声が高い。
背は伸び、体格的に出来ることが増えるだけに、
生意気な小学生よりたちが悪い。

顧問の先生は、Fが「真面目で人一倍頑張り屋だ」
「いい目標だな」「勉強での成績も良いし、順調だな」
とストレートにほめてくれた。
Fは少し誇らしくさえあった。

なんだかんだで成功した人が言うように
みんなそれぞれいいところがあるもので、
Fのいいところというのは、運動や勉強での素質ではなく、
「お手本になれるほど伸ばす努力ができること」と思っていた。

それよりはささいなことだが、
Fを見かけるたびに、顧問の先生は調子を尋ねてくれる。
それは特別扱いでもなく、全員にしていることなのだが、
名前を呼ばれるとちゃんとFに気づいてくれてるのだと思い、
見てもらえている安心感もあった。

めざましい活躍を重ねていき、
Fが肩に力を入れて球を打つと青空にホームランが決まった。
同級生や上級生も構えて打つ。
鈍い音がするのは当たり前である。飛ぶ訳がない。


祖父を早くに亡くしたFからすると、
優しいおじいちゃんという校内での愛されキャラな先生を
実の祖父のように慕わずにはいられなかった。
本当の顧問というとそうではない。
元々担当していた教員が病気のために一時離職を余儀なくされたのだ。
うわさでは生徒と接する精神的な疲労のせいだというが、
Fは入学以来この先生をみたことがないので、
おじいちゃん先生を顧問と呼んでいる。

妻の介護と年のために対象の除外されても良さそうなのだが…。
ほとんど顔を出せないものの、副顧問として受け持っていた。
手の空いた先生が代わりに見に来ることもあった。

今思うとこのシステムにはよくない点が多々あったのでは
と考えたりもするが、…それもFにとっては終わってしまったことだ。
少なくともおじいちゃん先生のことは恨んでいない、
ただ残念なだけである。

正直部活はあんまり楽しくなかった。
意義がわからなかったし、周りの人の中にいるのもいやだった。

学校の伝統として強制的に部活に入ることは決められており、
もし抜けても、どこかに行かねばならず
同じ学年の野球部員は上の学年のご機嫌を伺って、
Fのことをよそでものけ者にし、
結局校内での居場所は見つけられずじまいであった。

「別にがんばったからと言って
 同じ集団のメンバーは歓迎してくれない。
 ただ疎むだけなのだ」
そういう考えはばからしい。

3年の春までなんとか野球部に居続けていた。
上の学年は全く関与できなくなるし、
部活は夏まで、それが終われば
みな受験にシフトするだろうとアテにしていたのだ。
それは甘かった。
自分が思っていたよりもはるかに
ほかの部員達はうまくやっていった。

顧問の先生も後々それを知って、
目を丸くし、縁に溜められた涙をこぼしながら、
よくもここまで…信じられない、
としきりにつぶやく程だった。

練習後も打って打って、いよいよ最後にはグランドを飛んだのだ。

なんだみんなが言うほどたいしたこと無いな、
飛ぶとかいうもんじゃない
ただ落ちるだけじゃないか、とFは心の中でつぶやいた。


雑踏の音とにぎやかに騒ぐ声が、今朝もFを呼んでいる。
いつもと変わらずに、
登校する同じ学校の生徒達に紛れ、何食わぬ顔で歩いていく。
Fのベッド脇にはずいぶんと古く破けた野球帽が残されている。

誰にも褒められず疎まれず、
集団から外されることもない
忘れられていく存在であること、
これがFの最後の慰み、静かな生活だ。




タイトルだけテキトーに決めたらどうなるかしてみた
けど、こんな生活は嫌だーーー。