もちろん妄想。
記憶というか記録の供養。
見返したりすると、
自分自身が過去に何を思っていたのか
わからない時があります。
だからブログはできるだけ事細かにつづってるわけですが。
…
「水底の記憶」
河川敷を歩いているとゴミやら落し物が気になって仕方がない。
一つ二つと拾いながら、そもそも
この強迫観念がどこから来るのかを考えていた。
失くしたものを取り戻したいということだろうか、
ここはせめてそのものの弔いに
この場所を美化したいということだろうか…。
机に置きっぱなしで開きっぱなしの
スケッチブックがあった。
上からの光がキラキラと照らす
透き通った水の中を魚が泳いでいる。
こんな所なら僕も泳いでみたいものた。
感想を漏らしたところ
はにかむありがとうという声が聞こえた。驚いて振り向く。
「実はね…あたしも△大の美術受けるんだよ」
Nちゃんは大人しく人形のような子だった。
白い歯は、まったく酸蝕されておらず、
歯医者ですすめられたセラミックの歯みたいだ。
薄く笑ったNちゃんの思い出は、
海の底に沈んでしまったのだとわかった。
話しかけてみると、恐る恐る
ぼくの考えに合いそうな言葉を探して、
いつも頼りなさそうに話していた。
別に気にしなくていいんだよ
と言うと余計すまなそうな顔をするのだ。
些細なことで困ってしまう人に、
個人的な興味や価値がなければ近づきたくないものだが、
僕は関心を寄せていた。
といっても恋心ではない。
気弱で美人なら、遠くで見ていたくなってしまうものである。
まあ僕の見た目から言うと、
「見守る」だなんてものではないのだが。
前期入試に自信がなく沈むEちゃんを励まそうと
後期もあるからチャンスは2回だよ
と言ったところ、
「…出願期間をわすれてて出せなかった」
とまるでアホのような言葉に僕は唖然とした。
Nちゃんの家にお金の余裕がなかった訳ではない。
ただ忘れてしまったのだ。
同じ絵の予備校に通ってる間は、
事務的ながら多少メールのやりとりはしていたし、
Nちゃんのお母さんから、
予備校が遅くなったら届けてやってほしいと
少し信用されていたのか任されてもいた。
が、だからと言って何かある訳でもなく、
僕はそのまま遠方の美大に受かったので、
近くの専門学校に決めたNちゃんとは
全く接点がなくなってしまって
勿論連絡なんか取りあうわけがなかった。
多少裕福で、見た目からお嬢さまみたいな人とは元々住む場所が違うのだ。
近寄りがたさを感じていた。
ただでさえ女の子と話せないのだから尚更だ。
帰省中、Nちゃんに呼び出されて、
じいちゃんばあちゃんの
憩いの場となった喫茶店に行った。
とても血気盛んな若者が好みそうにない
陰気で暗い店内でみるNちゃんは、
記憶の中のEちゃんとまた少し違った。
前からそう言った若者らしさはなかったが、
ゆるくウェーブのかかった髪が頬を隠し、
目は虚ろで、捨てられた人形みたいだった
「久しぶりだね、高校卒業したのが2月だから…」
と数えてから、涙袋を指でなぞった。
急にどうしたのかと尋ねれば、
「お母さんから聞いたんだ、Iくんが帰ってくるって…」
「その、ちょっと…付き合ってるひとのことで相談したくて」
とのことだった。
……でも友達とか、女の子の方がいいんじゃない、と返していた。
嫌だったのだ。
いくらNちゃんと関わりがなくても、
そういうNちゃんの生活の話は聞きたくはなかった。
「私…Iくんの他に友達いないから」
確かに誰もNちゃんの周りにはいなかった。
だが親しくない僕を友達のカテゴリーにいれるだろうか…?
「やっぱり迷惑、だよね…」
僕に話して、と言うまで何とも言えない嫌な気持ちが
広がっていくのを感じていた。
家に居辛いNちゃんがフラフラと街に出て、
あてもなくゲーセンに入って出会ったらしい。
あんまり詳しく聞くと吐きそうだったので覚えていないが、
俺の所においでという男のナンパが上手くゆき、
そのまま転がり落ちていったらしかった。
顔は知らないが、口説き文句といい
誰でも出来そうなことしかしてないじゃないか。
つまりはやったもん勝ちなのだろうか。
急にNちゃんが安っぽく映った。
胸の膨らみ、脚を組んだワンピースから
覗く内股の白さに目をとられていた。
「逃げられないんだろうな…」
ベルが鳴るとNちゃんの肩が跳ね上がり、脚の間に手を挟んでいた。
「うん、Iくんと喫茶店なの、
遅くなりそうならまた電話するね…」
「お母さんだった」
暗闇の中でNちゃんの指が小さく踊るのに気付いた。
ベルで条件反射するなんてパブロフの犬みたいだ。
勝手な想像とはいえ、綺麗なNちゃん像が
ぐちゃぐちゃになっていくのを認めたくなかった。
Nちゃんが人だと思いたくなかった。
随分都合のいい話だ。Nちゃんは人じゃないか。
どうして僕に話すのかは分からなかったが、
どうも自らドブに捨ててしまったことに
自己嫌悪しているようだった。
いや確かに後悔しているのだ。
そもそもなぜそんな男といるのか分からず聞きそうになった。
携帯解約して別れるじゃだめなの…かな?
「…ダメだとおもう、バックアップあるから」
「バカだったんだな、あたし…」
「ごめん…。」
目の下に青いクマがあった。
アドバイス出来なくてごめんと謝れば、
Nちゃんは首を振っていいんだよと返した。
「あたしじゃ解決できないの、分かってるんだ。
だから少し聞いて欲しかったんだけど」
これも間違いだったかなと呟いていた。
「なんだか楽しそうだな」
外の通りに臨海の遊園地帰りの子供がかけていく。
「小さい子はいいなあ、無邪気にしたいことして
遊び疲れて寝ちゃうんだもん…」
今日はやけに饒舌だった。
遊園地に行きたいかと尋ねると、Nちゃんは静かに頷いた。
「楽しかった、ありがとう」
ありがとうも何も、ただ遊んでいただけだが。
どことなく苦い微笑みをみていた。
遊園地内では随分子供らしく活き活きと歩き回っていたのだが、
今はすっかり大人みたいだった。
「でも…ありがとう、今日のこと、大事にするよ」
「Iくん、これ」
昔みたスケッチブックだった。
「…あげる。前に褒めてくれたの、すごく嬉しいから…受けとって欲しい。」
携帯にその日の写真やメールを
とりあえず保存してはいたが、二度と見返すことはなかった。
昨年のちょうど今頃、氾濫しかけていた
N川の立ち入り禁止期間は、
水量が減っても少し長く続くことになる。
僕にはNちゃんが会ってからまもなく
投身してしまうだなんて思いもよらなかった。
しかし僕はせまった台風について伝えるテレビで
浜川奈美のテロップをみただけだから、
嘘だろと一度思ったが、お通夜で泣いている
羽美おばさんをみた時には本当だと分かった。
「入江君…」とだけ言ったきり、何も言えなくなったのを見ていた。
フラフラといつの間にか雨が振る中で
家から出て行ってしまったのだと聞いた。
Nちゃんをちゃんと家に帰してやれなかった。
スケッチブックはおばさんにあげたほうがいいのかもしれない。
でもこれだけは持っていたかった。
よすがにというか、これくらいの面倒は
僕自身の気持ちへの弔い、
彼女への弔いに見てやらねばという気があった。
そう、スケッチブックには入江洋君にとあるのだから。
最近橋のあたりで携帯を落としてしまった。
魚が跳ねたか、誰か石でも投げ込んだのだろうと思っていたが、
あれは僕の携帯が投身した音らしかった。
気付いたのは家でくつろごうとした時だ。
いまにも氾濫しそうで、立ち入り禁止となったN川を
テレビで見ていて、もう「取り戻せないな」と分かった。
救うことが出来ずにただ見ていた。
連絡先からなにもかもがなくなってしまった。
僕の中のNちゃんのデータをNちゃんが呼んだのだろうか。
男との間に何があったのか、
汚い海につながる汚いN川にした理由、
スケッチブックを「僕」にくれた理由、
そもそもなぜ呼び出したのか、
「僕」に救って欲しかったのではないか…、
あのころから何年も時間が流れたがために
いまとなってはなにもかもがおぼろげで分からない。
とにかく色々と書き溜めていた携帯は落としてしまった。
携帯小説の主人公らしく不幸に見舞われた
サブカルメンヘラもあの頃の僕も含め、すべては水底なのだと思った。
記憶というか記録の供養。
見返したりすると、
自分自身が過去に何を思っていたのか
わからない時があります。
だからブログはできるだけ事細かにつづってるわけですが。
…
「水底の記憶」
河川敷を歩いているとゴミやら落し物が気になって仕方がない。
一つ二つと拾いながら、そもそも
この強迫観念がどこから来るのかを考えていた。
失くしたものを取り戻したいということだろうか、
ここはせめてそのものの弔いに
この場所を美化したいということだろうか…。
机に置きっぱなしで開きっぱなしの
スケッチブックがあった。
上からの光がキラキラと照らす
透き通った水の中を魚が泳いでいる。
こんな所なら僕も泳いでみたいものた。
感想を漏らしたところ
はにかむありがとうという声が聞こえた。驚いて振り向く。
「実はね…あたしも△大の美術受けるんだよ」
Nちゃんは大人しく人形のような子だった。
白い歯は、まったく酸蝕されておらず、
歯医者ですすめられたセラミックの歯みたいだ。
薄く笑ったNちゃんの思い出は、
海の底に沈んでしまったのだとわかった。
話しかけてみると、恐る恐る
ぼくの考えに合いそうな言葉を探して、
いつも頼りなさそうに話していた。
別に気にしなくていいんだよ
と言うと余計すまなそうな顔をするのだ。
些細なことで困ってしまう人に、
個人的な興味や価値がなければ近づきたくないものだが、
僕は関心を寄せていた。
といっても恋心ではない。
気弱で美人なら、遠くで見ていたくなってしまうものである。
まあ僕の見た目から言うと、
「見守る」だなんてものではないのだが。
前期入試に自信がなく沈むEちゃんを励まそうと
後期もあるからチャンスは2回だよ
と言ったところ、
「…出願期間をわすれてて出せなかった」
とまるでアホのような言葉に僕は唖然とした。
Nちゃんの家にお金の余裕がなかった訳ではない。
ただ忘れてしまったのだ。
同じ絵の予備校に通ってる間は、
事務的ながら多少メールのやりとりはしていたし、
Nちゃんのお母さんから、
予備校が遅くなったら届けてやってほしいと
少し信用されていたのか任されてもいた。
が、だからと言って何かある訳でもなく、
僕はそのまま遠方の美大に受かったので、
近くの専門学校に決めたNちゃんとは
全く接点がなくなってしまって
勿論連絡なんか取りあうわけがなかった。
多少裕福で、見た目からお嬢さまみたいな人とは元々住む場所が違うのだ。
近寄りがたさを感じていた。
ただでさえ女の子と話せないのだから尚更だ。
帰省中、Nちゃんに呼び出されて、
じいちゃんばあちゃんの
憩いの場となった喫茶店に行った。
とても血気盛んな若者が好みそうにない
陰気で暗い店内でみるNちゃんは、
記憶の中のEちゃんとまた少し違った。
前からそう言った若者らしさはなかったが、
ゆるくウェーブのかかった髪が頬を隠し、
目は虚ろで、捨てられた人形みたいだった
「久しぶりだね、高校卒業したのが2月だから…」
と数えてから、涙袋を指でなぞった。
急にどうしたのかと尋ねれば、
「お母さんから聞いたんだ、Iくんが帰ってくるって…」
「その、ちょっと…付き合ってるひとのことで相談したくて」
とのことだった。
……でも友達とか、女の子の方がいいんじゃない、と返していた。
嫌だったのだ。
いくらNちゃんと関わりがなくても、
そういうNちゃんの生活の話は聞きたくはなかった。
「私…Iくんの他に友達いないから」
確かに誰もNちゃんの周りにはいなかった。
だが親しくない僕を友達のカテゴリーにいれるだろうか…?
「やっぱり迷惑、だよね…」
僕に話して、と言うまで何とも言えない嫌な気持ちが
広がっていくのを感じていた。
家に居辛いNちゃんがフラフラと街に出て、
あてもなくゲーセンに入って出会ったらしい。
あんまり詳しく聞くと吐きそうだったので覚えていないが、
俺の所においでという男のナンパが上手くゆき、
そのまま転がり落ちていったらしかった。
顔は知らないが、口説き文句といい
誰でも出来そうなことしかしてないじゃないか。
つまりはやったもん勝ちなのだろうか。
急にNちゃんが安っぽく映った。
胸の膨らみ、脚を組んだワンピースから
覗く内股の白さに目をとられていた。
「逃げられないんだろうな…」
ベルが鳴るとNちゃんの肩が跳ね上がり、脚の間に手を挟んでいた。
「うん、Iくんと喫茶店なの、
遅くなりそうならまた電話するね…」
「お母さんだった」
暗闇の中でNちゃんの指が小さく踊るのに気付いた。
ベルで条件反射するなんてパブロフの犬みたいだ。
勝手な想像とはいえ、綺麗なNちゃん像が
ぐちゃぐちゃになっていくのを認めたくなかった。
Nちゃんが人だと思いたくなかった。
随分都合のいい話だ。Nちゃんは人じゃないか。
どうして僕に話すのかは分からなかったが、
どうも自らドブに捨ててしまったことに
自己嫌悪しているようだった。
いや確かに後悔しているのだ。
そもそもなぜそんな男といるのか分からず聞きそうになった。
携帯解約して別れるじゃだめなの…かな?
「…ダメだとおもう、バックアップあるから」
「バカだったんだな、あたし…」
「ごめん…。」
目の下に青いクマがあった。
アドバイス出来なくてごめんと謝れば、
Nちゃんは首を振っていいんだよと返した。
「あたしじゃ解決できないの、分かってるんだ。
だから少し聞いて欲しかったんだけど」
これも間違いだったかなと呟いていた。
「なんだか楽しそうだな」
外の通りに臨海の遊園地帰りの子供がかけていく。
「小さい子はいいなあ、無邪気にしたいことして
遊び疲れて寝ちゃうんだもん…」
今日はやけに饒舌だった。
遊園地に行きたいかと尋ねると、Nちゃんは静かに頷いた。
「楽しかった、ありがとう」
ありがとうも何も、ただ遊んでいただけだが。
どことなく苦い微笑みをみていた。
遊園地内では随分子供らしく活き活きと歩き回っていたのだが、
今はすっかり大人みたいだった。
「でも…ありがとう、今日のこと、大事にするよ」
「Iくん、これ」
昔みたスケッチブックだった。
「…あげる。前に褒めてくれたの、すごく嬉しいから…受けとって欲しい。」
携帯にその日の写真やメールを
とりあえず保存してはいたが、二度と見返すことはなかった。
昨年のちょうど今頃、氾濫しかけていた
N川の立ち入り禁止期間は、
水量が減っても少し長く続くことになる。
僕にはNちゃんが会ってからまもなく
投身してしまうだなんて思いもよらなかった。
しかし僕はせまった台風について伝えるテレビで
浜川奈美のテロップをみただけだから、
嘘だろと一度思ったが、お通夜で泣いている
羽美おばさんをみた時には本当だと分かった。
「入江君…」とだけ言ったきり、何も言えなくなったのを見ていた。
フラフラといつの間にか雨が振る中で
家から出て行ってしまったのだと聞いた。
Nちゃんをちゃんと家に帰してやれなかった。
スケッチブックはおばさんにあげたほうがいいのかもしれない。
でもこれだけは持っていたかった。
よすがにというか、これくらいの面倒は
僕自身の気持ちへの弔い、
彼女への弔いに見てやらねばという気があった。
そう、スケッチブックには入江洋君にとあるのだから。
最近橋のあたりで携帯を落としてしまった。
魚が跳ねたか、誰か石でも投げ込んだのだろうと思っていたが、
あれは僕の携帯が投身した音らしかった。
気付いたのは家でくつろごうとした時だ。
いまにも氾濫しそうで、立ち入り禁止となったN川を
テレビで見ていて、もう「取り戻せないな」と分かった。
救うことが出来ずにただ見ていた。
連絡先からなにもかもがなくなってしまった。
僕の中のNちゃんのデータをNちゃんが呼んだのだろうか。
男との間に何があったのか、
汚い海につながる汚いN川にした理由、
スケッチブックを「僕」にくれた理由、
そもそもなぜ呼び出したのか、
「僕」に救って欲しかったのではないか…、
あのころから何年も時間が流れたがために
いまとなってはなにもかもがおぼろげで分からない。
とにかく色々と書き溜めていた携帯は落としてしまった。
携帯小説の主人公らしく不幸に見舞われた
サブカルメンヘラもあの頃の僕も含め、すべては水底なのだと思った。