桃の花が咲く頃、私は生まれて初めてライブに行った。

身内にはファン・ファン予備軍もいなかったので、
私は一人歓楽街で迷子になりながら向かったのだ。
一本脇に逸れると、「あなたの五感を濡らす」といった看板、
私とは人種が違うみたいな
キャバ嬢のポスターが私を取り囲んでいた。
さすがに戻りたい。
一番気味が悪いのは、昼下がりという時間帯のために、
けばけばしい色遣いの広告や店の外観だけが賑やかで、
人っ子ひとりいないところにいることだった。

あと、気がつくと「無料案内所」の前にいた。
コンビニよりも多い。

ぐちゃぐちゃの黒い雪の上に
少し潰れたタバコの空箱があった。

きょろきょろしていると、おばあさんが見えた。
自転車を押す若者、OLの姿が見える。
向こうは大通りだった。
勿論駆けていったが、立ちはだかるビルには
肌色の広告が掲げられていた。
そうだここは歓楽街だった。

しばらく進んでいくと、風俗店から
寺、寺、寺の宗教激戦地区に突入し、
「水子供養」の文字が「あなたの五感を濡らす」並のダメージを私に与えた。
しかも鳩に餌をばらまくおばさんに鳩をけしかけられ、
文字通り鳩が私の周りを飛び交っていった。

恐ろしい街だよ。

うろうろと地図を頼りにさ迷っていたら、
格好でわかったよ、とピンクブラウンのメッシュを入れた
綺麗なお姉さんがライブハウスまで案内してくれた。

物販に行ったあと、何もすることがなくなってしまった。
場所が場所だけに、隙を潰せるスポットはもうなかった。
近くのコンビニに散々物色したし。

すると、セーラー姿の人に年齢とひとりかどうかを尋ねられた。
一応書いておくと、私はセーラーではない。
「実は、一緒にみようねって言ってた友達が来れなくなっちゃって」
という。
年はいくつも上だった。
「その友達が…妊娠しちゃったんだ」

笑顔が一番近いのだが、でもそれでは語弊があるような
なんとも言えない複雑な表情を浮かべていた。


またそのアーティストのライブがあったが、別の駅が最寄りだった。
ナビはパーキングを指し、私は迷子になった。
たぶん周辺だろうと、脇道に入ると「休憩2H」というのが遠くにみえた。
猛烈に嫌な予感がして戻って別の道をいったら、
前と同じ寺、同じ水子供養の看板があった。
今回はファンを服装で見つけてストーキングしたわけだが、
いますぐにでもそのアーティストには売れて欲しい。