カッパ・河原・カメラで書けと言われてできた妄想。

カッパ→UMAだろとだいぶ前に書いたんです。


実在するものでなおかつ引っかかったら

迷惑かかりそうなものは適当にもじっております。




『UMA・UFOはまるまる嘘っぱち!?~証言者たちの真と偽りとは?~』

 教室に面した生徒玄関から見上げると、
全員を送り出して満足げに手を振る担任が見えた。
そもそもは、先日の昼休みに教室で

小型台風が猛威を振るったためだ。
背の順では万年1番前のガキ大将、
玉井は友人達と仁義の世界に浸り、抗争ごっこを開始した。
そしてロッカーやドアを完膚なきまでに破壊しつくしたため、
昼休みはクラス全員外で過ごすこととなったのだ。
3分も歩くと河原のベンチに着いて、いつものように隙を潰す。
身の回りの特定の何かに興味がなかった。

一人でできる!の定番と言えば、
絵を描くか読書、写真撮影と言ったところだろう。
一番は読書だ。ただ、ぼんやりと文字を目で追う。
ああなるほどなと思ったとしても、

その感動は自分には届いていなかった。
あくまでそういう考えもあるのかと
自分とかかわりない外の世界を探索しているようなものだった。
そういう具合で、何かこれはと思えるものもなく、
色々なジャンルに手を出しているのだが、
最近はオカルトものを読んでいる。


一人っ子の自分には実兄のように取っ組み合いの喧嘩が
出来るほどに親しかった従兄がいた。
大学生になると従兄はなにかと

そういう怪しげなものにはまっていった。

「今までの過去世でみずからは

 八百万+αの神々、宗教的指導者であった」
というチキイン神、俗世の自分なんかが見たら、
口がうまくて歌うのが大好きで…とにかく目立ちたがりの
ニートのおじさんなのだが…、
その神を従兄が信奉し始めたのがきっかけである。
神道系のはずなのに、、まず過去世とは…、
突っ込みが追い付かないではないか。


従兄がすっかり信じたというそのほかのこと、
たとえば未確認生物の本を読んでも、
やはりUMAの類を話す人を内心バカにしていた。
まず証拠写真は「カメラがなかった」とか
「その時は思いあたらなかった」
という理由で一枚もなく話だけのも多い。
話も正直妄想か、「私は不思議な体験をした」アピールだとしか思えない。
そして写真があっても、ほとんどがトリックを使ったものなのだ。


ネッシーは小動物のしっぽだし、
コティングリー姉妹が見た妖精はイラストの切り抜きだ。
マンテル大尉が追ったというUFOだって、

結局はなんなのか証拠はない。
ああ、やっぱり世の中のことは嘘っぱちだ。
自分はこんなのに騙されたりなんかしないぞと口の中でつぶやいた。


「どの本が面白いの?」
「お、お、面白くないよ、どれも…。
 いまは面白いこと探して読んでいるんだ」
吃音が出ると恥ずかしさで息が詰まりそうになる。
面白いのは自分の声のひっくり返り具合じゃないだろうか。
「まだ面白いのがないんだ。じゃあさ、相撲しようよ!」

衝立代わりの本にまだ目を落としていた。
誰も来ないからここに来たのにと
焦るとひらりと紙が手から滑った。
相撲って…と思って、少し視線を動かせば
しおりの先には何かいるのが分かった。

「カ、カカカ…」
「ッパだよ」
思わず本も落とした。有り得ない。
『UMA・UFOはまるまる嘘っぱち!?~証言者たちの真と偽りとは?~』
というタイトルが見える。
「なにも悪いことしないから大丈夫!」
「や、そ、そんな、そんなこと言うのに限って、

 な…何か悪いやつだろ…」
よいしょと掛け声をあげて川岸から上がると、
空いているスペースに腰を置いた。
背丈は小学生くらいだろうか。
「別にぼくは…、チキイン神を信じろだとか、
 壷買えっていってみたり、クリスチャン・アッセンの
 イルカの絵買わせたりしないよ、やだなあ」


ほら、やっ、やっぱり、
か、かか、関わりたくないやつじゃないか、と思った。
どうして心の中でまで突っかからなきゃいけないのか、
混乱しているからである。
胡散臭い、どうせカッパな訳がない。
元々、キャッチしやすそうに見えるのか、
学校外では日頃から声をかけられることが多かった。
最近は、大道芸士から「チキイン神の力は無限なり」
という紙を貰ったばかりだ。
ここまでやるものかと正直思った。しかもなぜにピエロなのだ。


うすうす感じていたが神道とまるで関係ない。
諸宗教を混ぜて混ぜて

混ぜまくるものだから訳が分からなくなっている。
宗教のファミリーレストランみたいな感じだ。
こんなに無節操なのだから、
これももしかしたらカッパに扮した
勧誘員だったりするかもしれない。
そう思って皺や毛穴を探しているが、肌はイルカみたいにツルツルだ。

「声かけられていたのを見ていたし、チラシ、ゴミ箱に捨てたじゃないか」
はあ、と自分は生返事をした。疑いの表情を浮かべてみている。
「あの、さ…、君の正体は一体なに…かな?」
激昂した自称カッパは、肩をガシッと掴んで揺さぶる。
「カッパだってば!」
相手の冷たかった手が生暖かくなってきている。
「ごっ、ごめん…」
「体調悪くなったから帰る」
「え、えっと、今日は急だったから
 びっくりして…ごめん…。今度、一緒に相撲取ろうよ」
あれだけ言っておきながら、険悪な空気は恐ろしくて
相手の表情を伺えなかった。


「ほんと!じゃ、またね」
ハッとして顔を上げた時にはカッパの姿は見えず、
ただ波紋が川の水面に広がったところが目に映った。
秋なのにちょっと嫌な汗を掻いている。
こんなに話せただなんて、不審ではあるけれど
やっぱり面白いことだったからかもしれない。
もっと色々聞いておけばよかった。
結局カッパなのか?と考えたその時、
ふと四角い銀色の機器が頭にぽわわんと浮かんだ。
思わず叫んでしまった。なんということだろうか。


「カ、カメラアアアアア」
後ろで何か引きつる気配を感じて身構えたところで、
近くの小学校のチャイムが河原に響いた。
これが鳴ったら、中学校に走って戻らねばならない。
思わずまた雄叫びを上げた。
もう一度何かの気配を感じて、恐る恐る振り返ってみると、
首にタオルを掛けたランニング中の
おじさんの姿があるではないか。
妙なところを見られたという動悸が激しくなる。

「や、やあ…和明くん」
カッパを見たかと聞こうと水面を指差す。
「か」という音がせり上がってきたところで、
こんにちはと短く返し、お隣のおじさんの前から姿を消した。
これ以上変人には思われたくない。






 それから、毎日昼休みになると教室を飛び出していくので
「たまには外で友達と遊ぶようにしましょう」
と1年生の頃から欠かさず書いていた先生はご満悦である。
腿にも筋肉がついて引き締まってきたな、と
木の幹のように逞しい腕で小突きながら声を掛けてくれる。
30代前半の男性なのだが、顔文字にすると><という風に
くしゃくしゃにして満面の笑みを浮かべるのだ。
先生の趣味は筋トレであるし、
おそらく誉めてくれているのだろうが
申し訳ない気持ちになった。

「カッパのために走っている」と知ったら、
やっぱりお前ってやつはとこぼすに違いない。
河原でしゃがんでカメラを構える。
この体勢を維持するのがなかなか疲れるが、
徐々に鍛えられたらしく今はなにも感じない。
「今度っていつだろう」
思わずそう呟いた時、視線に気づいた。


どうやら今日は午前授業だったらしい。
最初に来た2人、その後ろを歩く
子供達がこちらを眺めている。
目つきから「完全にどこかいってしまった」
と思われていることが手に取るように分かる。
そんな目で「私は見た!」と語る人を見ていたのに、
今や自分があっちにいるみたいだ。

一体UFOを追ったというマンテル大尉は、
従兄はどこへ行ったのだろうか。

妄想の果てだったのかもしれない。


だけど本当じゃなくとも犯罪をしたわけでもない限り、
本人が楽しめればそれはそれでいいんじゃないか。


もう連絡が取れないから、従兄のことはどうなっているのか
実のところはわからないし、理解できない部分も多いが
理想の生活を求めて遠くに行ってしまったのだなと思った。

気にはなるがそれで害があったわけではないために、
家でも特に話題に上がらなかった。
「名前を呼んではいけないあの人」扱いになりつつある。
魔法の物語に出てくる悪の権化、ボォルデモート卿じゃないのに
この状況とは流石に悲しいが。


一方、自分はというとカッパと初めて会って
一ヶ月近く経った今も、相変わらず
河原のベンチに腰掛けて待っていた。
ふと、カメラを持っていないことに気づいた。
手を構える時の形にして見つめていると、
何か予感めいたものを感じた。



「カメラがない時に限って出てくるんですよ」と
男性会社員のOさん(55)は語っていた。
山菜採りが趣味だという老人のKさん(73)なんかも
「タイミングが悪いんですよ、本当に」と答えていた。
皆、童心に返ったかのように遭遇について話していた。
話の内容はくさいなと思うが、わくわくした
あふれんばかりの感情が文字でも感じられるのは確かだ。



川縁で手を振るカッパはにこにこして、
鍛えていたのかなんて言っている。
100%カッパだとはまだ信じていないけれど、嘘とも思えない。
「じゃあやろっか」
相撲なんてやったことないし、取っ組み合いだなんて
久々だから面白そうだなと思う。
笑いをこらえて、にこにこというよりも
にやにやしながらつま先で線を引いていく。