ニュースみててふと思った妄想話。
…
朝の9時を過ぎても居座ったニュース番組は
だらだらと同じ出来事を語ったり、
電話・ファックス・メールで
「夫婦円満の秘訣」を茶の間で
話し相手もなくだらだらしている視聴者から募っていた時、
あるたわいもない話が
活字になって紙面に載せられていることに気づいた。
旦那は最近は口にはできない心配事のせいでよく眠れていないらしく、
朝刊は郵便受けにささったときのように、
三つ折りで食卓にのせたまま、
今朝はやく会議のために家を後にした。
旦那に読むような余裕がなくてよかったと内心ほっとしながら、
鋏を灰色の紙面の端から滑らせていく。
読んでいたならきっと職場に向えるような状態じゃなくなる。
私は決まって朝食後、後片付けの一休みに
パラパラと新聞を読む。
番組で取り上げられるような話題は
2日や3日ではなかなか変わらない。
新聞に目を通して、取り上げられないのに納得してしまう
小さなニュースを拾って、
洗濯物が溜まっていれば洗濯、
そうでなければ掃除をしたら
お昼休みはウキウキウォッチング、
ぼんやり眺めている内に、
どんな女や男と寝ただの話がメインの昼ドラも見てしまう。
いっそ、この問題が浮気だったらどんなにましだろうかと思う。
切りはなしてみてみると小さい。
内容も一般的にはただ眉をひそめられて
終わってしまうようなくだらない出来事だ。
だが「私」には依然大きい。
記事をテーブルに置くと、「これから」という言葉が
津波のように私を飲み込んだ
衝動的に消してしまいたいと切り抜いてしまったが、
読めなかった朝刊は週末に読むから取っておいてくれ
と旦那はよく言っていた。
今朝も急いで靴を履きながら口にしていたのだから、
明日…土曜日に、彼はこの空間は
なんなのだと聞くに違いなかった。
苦しくてもこれの言い訳は必要だ。
その内たまったらまとめて回収に出そうと
箱に入れておいた先々週の新聞を探した。
同じくらいのサイズの特殊な写真が目当てだった。
客観的にみて切り取りたくなるようなものだ。
「1匹の猫からこんにゃにたくさん!
世界ギネス記録更新、101匹?!にゃんちゃん」
というふざけた記事が飛び込む。
実は、というか、もちろん100匹には遠く及ばない数なのだが、
写真いっぱいに子猫が映っている。
個人的には猫はあまり好きじゃないのだが、
それも今では本当にどうでもいいことだ。
聞かれたらこの写真で切り抜けよう。
記事は先ほど切り抜いた記事よりいくらか小さいが、
サイズは大差ないし、大きいより小さいほうが
これでもいくらか言い逃れしようがあるだろう。
うつむいて考えていると、暗い茶色の髪が視界の端に映り、
明るい日に透けるような薄茶のショートカットのことが
ふと脳裏をよぎる。
歪んだ表情で、細かく切り刻んでいく彼女の向こうにテレビがある。
黒い縁取りのされた枠の中に、
西洋風のはっきりした目鼻立ちに薄茶の髪の女がいた。
彼女は首を絞められて静かに死んでいくのに対して、
普段はこけしのように表情がない暗褐色系の髪の女の顔は
般若のように恐ろしく豹変して、
指に力を込めているせいか、力んで深い皺を刻んでいる。
あなたが…とつぶやく声はおぞましいほどに低い。
きつく締め上げる手は震え、相手の長いまつげも震えている。
全く女との類似性を感じられなかった。
代用品ですらないかもしれない。
こけしである女は、亭主の心の中から消されてしまう危機…、
いや元々いないのかもしれないという恐怖にさいなまれているのだ。
「盗っていったのね、あんたなんかあんたなんか死ねばいいのよ」
居間に泣き叫ぶような声が響く。
とてつもなく惨めだって分かっているのに、
何の解決も結局はないのに、
嫉妬がここまで狂わせてしまったわけだ。
殺されていく相手はだんまりだった。
それもそうだ、声を出せるわけない。
私だって「盗っていった」「死ねばいい」と言えるなら
まだよかったのにと思った。
誰にも分かっては貰えないだろう。
不倫じゃあるまいし。
西洋人形みたいな女の細く生白い首がガクンと落ちる。
すると旦那を盗られた女の般若の形相は消えて、
憑き物が落ちたかのように、急に怯え始めた。
「私、なんて…どうしたら…」
旦那の実家に訪れたときのことだった。
彼が「そのまま待っててくれよ」と
トイレに立ってしまうと、
落ち着かずに壁や机の上を眺めていた。
壁は日焼けしたところしてないところが模様のようになっていた。
不自然なほど何もなく、飽きてしまうと机の方に目をやった。
貸した専門書に気付き、手に取ってみるとその下には
若いというか少し幼い女性の写真が何枚もあった。
頬はバラ色でどの写真でも睫毛がはっきりしていた。
水着姿で旦那に寄り添っている。
真っ白な部分にはこの少し色褪せた写真がかけられていた、そう分かった。
今度どこ行くかデートの電話をしている時も
「彼女」に囲まれていたのだ。
鏡には憎悪で醜く顔が歪む黒っぽい髪の女の姿があった。
仏間に飾られていた七五三のドレス姿もまるでフランス人形みたいだった。
成長の経過は途中で、黒い縁取で終っていた。
「お前…なにをしてるんだ、気は確かなのか?!
どうして直接俺に言わないんだ…」
テレビの中の旦那役が詰め寄るのを耳にして回顧から引き戻される。
私も言われるだろうか。
小さく判別できないほどに切り刻んでしまうと庭に埋めた。
くたびれて魂が抜けた旦那が新聞を読んでいる。
私に彼女のことがバレていることくらい、彼だって分かっているだろう。
でも言わないのだ。新聞の穴が気になるようだった。
「それ、子猫の記事が気になって切っちゃったの、ごめんなさい」
ふと、新聞は裏も印刷されていることを思い出した。
これは絶対に見せられない。気がどうかしていた。
「猫か…確か嫌いじゃなかった…?」
「子猫は平気よ」
覚えていることに内心驚いた。
あまりそういう個人のこのみに興味があるとは思っていなかった。
旦那は別に猫が好きという訳でもないのだが。
「そうか」
もう言及する気は無いらしくパラパラと新聞をめくっているのを、
カウンター越しにみていた。
何も起きそうにないとわかると、お皿洗いを続けていく。
土曜のニュースはのんびりくだらないニュースを拾っている。
「さて間抜けな女性が引き起こした騒動で…」
蛇口から小さな瀑布のような音があがり、所々聞こえてきた。
「アメリカ」「目出し帽で防寒」「強盗」「地元の有名人」とかだ。
ラジオのように聞き、泡を洗い流していくのと一緒に下水道へと流す。
旦那もチラチラと見て、失笑していた。
心配事であまり眠れていないからか、
正直笑っているという感じではなく、
笑いの効果音に合わせて笑っているという感じが否めない。
「お次は「びっくり、人?命救助」です。」
「日本海で人が浮いているとのことで救助要請を受けて向かうと」
「なんと人形が浮いていたのです」
「髪は明るい茶色でな、若いお姉ちゃんが溺れてんのかと思ったの」
「引き上げてみると、大変精巧な人間そっくりの…と呼ばれるものでした」
「どういう経緯で浮いていたんでしょうねー」
「処分に困ったからじゃないですか、全く人騒がせな持ち主ですよ」