雑賀壱の手記

雑賀壱の手記

紀行文とか批評とか。

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本日御岳山に一緒に行くはずだった友人が重度の花粉症により急遽いけなくなり、途方に暮れる朝6時。早起きもしてしまったし、ワンデーコンタクトも入れてしまったし、事前に買っておいた昼食の蒸しパンも賞味期限が今日までだし、なにより……。

 

本日は晴天なり。

 

無線では天候にかかわらず使用するこの言葉ですが、外を見れば昨日までの曇天が嘘のような雲一つない青空。

 

これはもう、行くしかない。

 

というわけで、初の単独登山決行です!

 

 

目的地は御岳山。友人との計画では大岳山を往復する予定でしたが、初の単独登山ということで初心者ルートに変更して、御岳山から日の出山を目指すことにします。

 

ホリデー快速に乗って御嶽駅に降り立ち、バスでケーブル下まで向かいます。

御嶽駅を出れば、目の前にでかでかと「バスのりば」と看板があるので安心です。休日は臨時バスが出ているのか、目の前でバスは行ってしまったはずなのに、次のバスがすぐに来ました。ここが地方とは違うんだよな……。電車ない問題とか発生しないもんな……。

 

バスを降り、滝本駅へ向かうため坂を上ります。ケーブル下から御岳山山頂まで歩くルートもありますが、今回はケーブルカーを使ってチート登山。ただ、正直言って今回の登山で一番辛かった登りがここでした。チートしようと思った輩をあざ笑うかのような坂……きつい……。

まあ、ケーブルカーが好きで乗りたかっただけなんですけどね。あの斜面を駆け上がる様はたまりません!

滝本駅で本当はトイレに行きたかったけど、すでにケーブルカーの列ができているし、流れるように並んでしまったし、実のところトイレはどこだかわからないし、御岳山駅にもトイレはあるだろうということで、そのまま流れに乗ってケーブルカーに乗車。こういう時、一人だと大変だと実感。単独でなければ、並んでいてもらって探しに行けるもの。まあ、さすがに我慢の限界が来てたら探しに行きますけど。大人なんで。

 

ケーブルカー乗車はたったの6分! あっという間に山頂です。400メートルの地上からすでに800メートル超えの山の上。やべーな、マジでチートだぜ。途中、スカイツリーの高さですというアナウンスがあったけど、日々高いなあと思って見上げているものが自然の前では案外低いという事実に気づかされたり。東京の山も侮れません。

 

それにしても、御岳登山鉄道然り、ここでは御岳は「みたけ」と読むわけだけれど、東海地方出身としてはどうしても「おんたけ」と読みたくなってしまう。何が正しいというわけじゃないんだろうけど、私の中では御岳はおんたけなんだよ。御岳百草丸なの。地元が東海圏の人がなぜかみんな家に常備している御岳百草丸。うちだけかと思ったら、そうでもなかったって言う地方出身者あるあるです。よく効くよ。

 

そうこうしながら(何もしてないけど。椅子に座ったら、前に長身の人が立ってしまたっため景色も横の窓からしか見えなかったけど)御岳山駅に到着。というわけで、無事トイレに行けました。よかった。

 

登山入り口から民家、商店街を抜けて武蔵御嶽神社へ。本来なら山頂に商店街があってにぎわいに不思議な印象を受ける予定だったんですが、時間が早すぎてどこも開いていなかったので静かなものでした。武蔵御嶽神社はおいぬさまを祀っていることもあり、犬同伴の参拝も多いと聞いていたのに、時間が早すぎて一匹しかいませんでした。

神社は綺麗な石造りの階段だったので快適に登れます。ただ、どこが山頂かはわかりませんでした。神社が山頂らしいんですが、神社しかありませんでした。綺麗で見晴らしの良い神社です。どこが山頂かはわかりませんでしたが。

 

では、気を取り直して日の出山に向かいましょう。

登山を開始して30分ほど経ったわけですが、一人だとツッコミを自分だけで回収しなければならないという苦難があることがわかりました。自分のペースで進めるし、いろいろ見たり考えたりできるのは楽しいけれど、一長一短があるっていうことでしょうね。

 

日の出山まではほぼ平坦です。楽勝です。

人もあまり多くないし、会うのはトレランの人ばかりです。彼らは向かいからやってきます。つまり、日の出山から登ってきているのです。幼稚園児たちの団体にも会いました。彼らも向かいからやってきました。そう、登ってきているのです! 幼稚園児たちですら登っている道を、チートで登った私が下ります。とても楽しいです。

 

最後に階段を登れば、日の出山山頂 902メートルにたどり着きました。

展望最高! 山々も見えれば、街も見える。空には雲一つありません。天気予報では寒の戻りと言っていたけれど、そんなことはなくなかなか結構暖かい。

いつもは写真を撮ったりしないんですが、私が嘘ではなくちゃんと山の上まで来たことを証明するために、そして病気で伏せた友人のためにも写真を撮りました。実は、光が強すぎてスマホの画面何にも見えてなかったんですけど。とりあえずカシャッて音がしたので、そのままその場を去りました。

山を下りてから写真確認したところ、なかなか綺麗に撮れていました。ありがとう、良いカメラ。

 

まだお昼には遠かったのですが、ここで食べずにいつ食べるんだっていうことで抹茶蒸しパンを食しました。とにかくもう、時間が早すぎたんですよね。でも、蒸しパンはおいしかったです。賞味期限が切れなくてよかった。青空に蒸しパンの緑が映えます。山の木々にだって負けていません。

…………。

なんだかちょっと寂しくなってきてしまいました。

 

ここまできたら、後は下山するだけです。

杉林からこぼれる光は眩くて、世界はこんなにも美しいんだな、と。都会にいると、ここまでのコントラストはなかなか味わえない。そして孤独も。東京という中で、自分しかいない空間というのはなんだか不思議なものです。

 

下りもそんなに急ではないせいでしょう、軽快に降りていく中でメロディーが浮かびます。歌は下手でもないけれど、そんなに上手いわけでもありません。視界の先に人がいないことを確認して、私は歌を歌い始めます。

そして、すべて歌い終わった後、背後から突如現れるトレラン勢。

 

あー! あー! あああああーーーー!!!

 

前方は確認していましたし、後方も徒歩ならそんなにすぐに距離を詰めてくることはない。そう過信していた私を、あざ笑うかのように駆け抜けるトレイルランナー!!

もー、絶対聞かれてたよ! この人、一人で大声で歌ってるって思われたよ!

帽子を目深にかぶり、私は走り去るトレイルランナーの背をただ見つめることになりました。……速いね。ただ、その速さが今日ばかりはありがたかったです。いや、そのせいで衝撃の瞬間に立ち会わせてしまったわけだけれど。

 

恥はかき捨て――ということで、そのまま下山を続け、たどり着いた最終目的地はつるつる温泉。

 

ここでこうなるかー!

 

バスは1時間に1本。バスの到着まではあと40分あります。

こういうとき、一人だとやっぱりちょっと寂しいよね。仕方がないので、ベンチに座り、友人に山行報告をしたり、残っていた昼食を食べたりして時を待ちます。

 

そして、やってきたのが 機 関 車 型 バ ス !

トレーラー型という運転席と乗車席の離れた、情緒あふれるバスでした。注意書きに、このバスは通常より揺れます、と。うん、揺れるね。あと、細い山道に対してバスが大きすぎて不安になる。でも、そこはさすがの運転手さん、つるつる温泉から武蔵五日市駅まで私を無事に連れて行ってくれたのでした。

 

細い路地を何度か曲がって、目の前に見えた平屋建ては――……相賀駅。

「間に合った!!」

現在時刻は13時15分。各停の電車が来るのは19分。道の駅も、津波をオマージュにしたようなごんべい橋の壁画も、何もかも無視して駅まで来たかいがありました。これを逃したら、2時間は次の電車は来ないのです。バスはあっても時刻表はほぼ真っ白。タクシーだって見当たりません。

相賀駅だって、遠目から見たら駅だなんてわからない。改札も何もない無人駅にあるのはベンチと屋根だけ。ここでは一分一秒という時間が次の行動の勝敗を分けるのです。

しかし、伽藍洞のような駅の壁に掛けられた時刻表を見て、私たちは愕然としました。

 

運転日注意

 

2月。閑散期。しかも平日。

13時19分の電車は、今日ここに来ることはなかったのです。

 

この旅の予定を立てたのは11月過ぎの秋のこと。そのときに調べた路線情報では、確かにこの乗り換えは可能でした。しかし、それは繁忙期だから。数か月後の乗り換え情報は出なかったので、曜日だけで計画を立てた結果が――これだよ!!

本数の少ない交通機関を使った計画を立てるときは、必ず直前にもう一度時刻表を調べなおすこと! これ大事!!

 

というわけで、我々には神から与えられた2時間ができてしまったのでした。

2時間……何しよう……。休憩するところもなければ、他に行く場所もない。てか、寒い。待合室、ふきっさらしだし。暖房もないし。人気がないのがなんかもう怖い。

「いっそ、尾鷲まで戻る?」

歩き続けた方がここで凍えているよりまだましなのではないか……そう考えた我々は、元来た道を戻ることにしようと思ったけれど、この距離7キロ。峠を超えて、疲れた足。2時間で7キロ。ここで失敗すると……つむぞ??

 

最悪のシナリオを思い浮かべた時点で、目の前には道の駅海山。これはもう、行くしかない!

中に入ると、そこは地元の特産品とかおみやげとか売ってる、こじんまりしているけどいい道の駅でした。とりあえず暖かい。最高。

もう一度計画を再確認しようと、友人はコーヒーを、私は珈琲パフェを頼んで作戦会議。大丈夫、尾鷲からワイドビューに乗ればまだ間に合う。

 

13時の電車に乗るつもりだったから、行きのワイドビュー内で軽く昼食をとってしまったけれど、最初から15時に乗ることにしていれば、この道の駅で地元名産の昼食をとるのもありかなと思いました。むしろ、その方が休憩にもなるし、時間的にもちょうどいい。

 

少し余裕をもって、今度はごんべい橋の壁画や物語もじっくり見ながら、再び相賀駅に向かいます。

再度訪れた駅には、地元の人と思しき人がベンチに座っていて、新宮へ向かう電車は向かいの乗り場だよと教えてくれます。時間差で同じ場所を訪れると答えを聞けるとか、なにこのRPG。

 

相賀から各停、尾鷲でワイドビュー南紀に乗り換えていよいよ新宮に向かいます。

本当に今更だけど、尾鷲で乗り換えするんだったら、尾鷲に重い荷物を置いておけばよかった……。そうすれば、苔むした石畳に足を取られることも少なかったでしょうに。

 

新宮駅でバスのフリーパスを引き換えて、本日の宿泊先、川湯温泉に向かいます。

今朝は日の出より前に出てきたというのに、あたりはだんだん黄昏時の深淵に染まっていきます。川は不思議なくらいに深い緑。

着いたころには、あたりはすっかり真っ暗でした。「山水館 川湯みどりや」さんが、今回お泊りする宿です。

 

尾鷲駅を降りて、いよいよ熊野古道の一つ、伊勢路へ向かいます。

 

熊野古道には紀伊路、中辺路、小辺路、大辺路、伊勢路とある中、熊野速玉大社から伊勢神宮を結ぶ道が伊勢路です。

新幹線なんてない時代に関東から旅に出た庶民たちが、せっかくここまで来たんだもの、お伊勢さんも見たい、熊野にも行きたい。ついでにぐるっと京都もめぐりたいと思うのは当然だと思うのです。そんな欲張りな様子に、関西の人からはカントウベエと方言にかけて揶揄されたりしたようですが。

近くにいる人に、遠くにいる人の気持ちはわからないものです。そしてそれは、逆もしかりかもしれません。

 

尾鷲駅に置いてあった伊勢路パンフレットを手に、馬越峠を目指して大通りを進むこと数分。左に熊野古道という、あまりにも小さなついたてが。いや、さっきからちゃんと案内見てるし、目星の建物も見つかってないし、さすがにそれはないんじゃないの……とは思ったものの、とりあえず看板に従うことに。

 

それ、正解でした!!

熊野古道を安全に楽しく巡るためのお約束、それは看板には疑問を持っても必ず従う――それに尽きます。

 

きっとこんな細い道じゃないよ~なんて歩いていたところ、ひとブロック歩いたところで目的の建物を発見。最初から道、間違えてたんですね。案内にあった正規の道は大通りではなく、かなり細い道。ちらっとのぞいたところ、観光用の道だったみたいですけど。

パンフレットの道は、地元用だけあってかなり正確です。道を曲がるまでのブロック数まで完璧。だからこそ、最初に間違えると収拾がつかない。それを助けてくれるのが小さな看板です。

絶対従っとけ! たまに文字見えないくなってる時もあるけど!!

 

さて、いよいよ坂道が見え始めます……って、最初から急! 山道というか、ただの田舎の道路なのに! これ、ここら辺の人にとっては日常なんだろうけど、都会から来た人間にとっては結構きつい。

真冬だというのに、早々に服を脱いで長袖とレインウェアのみという夏仕様に戻しました。それでもその日の尾鷲は真冬の気候だったとのこと。10度超えてたけどね。

 

しばらく舗装された道路を進むと、いよいよ山道に入ります。

伊勢路のハイライトといわれる馬越峠だけあって、続く石畳はいかにも古道といった感じ。緩やかな坂なんてなくて、いきなり岩場。石造りの階段は足の踏み場がめちゃくちゃ狭いし、苔が滑る滑る。

熊野古道ってこんな感じなの? 平安装束とか着て、しゃなりしゃなり歩ける感じじゃないの??

結論としては、とりあえず今回まわった中ではここが一番きつかった!

トレッキングシューズは必須。できたら荷物は軽い方がいい。スカートなんて論外で、全身登山仕様がおススメ。なんといっても多雨地域だし。

平日の昼間だったせいか、人はほとんどいなくてトレッキングとしては天候もいいし、最高でした。まあ、思ってたよりきつかっただけで……。初日にして膝ガクガクですよ。ただの運動不足でもあるんだろうけど。登山じゃないと思って、なめてたのかもしれない。すいません。

すれ違ったスニーカーにコートの女子、大丈夫だったかなあ。

 

峠を越えれば、大通りに出られます。

相賀駅まではあとちょっと。電車の時刻も迫っていたので、道の駅にはよらずに一目散に駅へ向かいます。

そう、あらゆるものを無視して私たちは駅まで向かったのでした……。