↑↑↑前回までのお話。

「…もしかしてギョンス?…エリさんも…お久しぶりです」

……えーーーー!!!

…まさか…こんなところで菜々緒に遭遇とは…。(汗汗汗)
しかも人の旦那のことを堂々と《ギョンス》呼ばわり…。。。

どう反応したらいいのか困り、横を見ると。
完全にフリーズしているわたしの頼りない旦那様。

んもーーーーー!!!

「……こんなところで会うなんて奇遇ね、菜々緒。元気してた?」

仕方ない。
こうなったら、開き直って、堂々と元先輩として対応するしかない。

「元気なわけないじゃないですかー(笑)」

……そう来るのね…さすが手強いわ…(汗汗汗)

「なんちゃって。大丈夫ですから、全然。男の一人や二人で落ち込むほど、私、柔じゃないので」

……うわぁ…さすが菜々緒…。
そう言いつつ、凄んだ目で睨んでくるのね…。

てか…菜々緒…1人???
「菜々緒ちゃん…お待たせ…はい、これ餃子ドッグ……えっと…この人たちは……」

…なわけ、ないか。

菜々緒の元へ小走りで駆け寄ってきたのは…

どこか既視感のある若者で。

あ……
髪型は違くても…なんとなく…

「そっくりですよね?ギョンスに。あぁ、でも、彼、まだ学生だから。誰かさんと違って、人生これからなんで(笑)」

私の耳元で、嫌味半分に囁いた菜々緒。

ガチなホラーかよ!!!!!!
「あぁ…菜々緒ちゃんの知り合いなんだ…。はじめまして。ガンウです」

……幸せそうで…何より……。

でも…ギョンス以上に…温度を感じない男の子だなぁ…。
この手のポーカーフェイスは、仕方ないのかしら…。

でもギョンスは…最初からニコニコしてたからなぁ……。

「ガンウ、この人は、私の会社の社長と……その奥さん」
「へぇ…社長さんご夫婦と仲良しだなんて、さすが菜々緒ちゃんだね」
「やめてよ、ガンウったら♡」

イチャイチャ…イチャイチャ…イチャイチャ(どう見ても一方的に菜々緒が絡みついてるだけだけど)いちいち見せつけやがって…
しかも!お揃いのミッキーカチューシャと、わたしが今朝ギョンスに着せようとして拒否られたのと同じミッキーマウスのカップルトレーナーまで着やがってーー!!!キーーーッ!!!(悔)
肝心のギョンスはずっとバツの悪そうな顔をして、わたしから微妙な距離を取ってるし。

…でも…このガンウって子を見てると…。

レンタル彼氏として菜々緒と付き合っていたギョンスが、もしかしたらこんな感じだったんじゃないかって、リアルに想像が出来て。

なんだか無性にモヤモヤしてきちゃう自分。

「ギョンス、手」
「……」
「手!」
…ふるふる。

わたしから差し出した手に対して、無表情のまま顔を横に振ったギョンス。

……は?まさかの手繋ぎ拒否ですか?

カッチーーーン!!!

「……もういい」

感情を押し殺しながら行き場を失った手をポケットに突っ込む。

「夫婦喧嘩は犬も喰わぬですよ?先輩(笑)」

ニヤリと笑いながら火に油を注ぐ菜々緒。
そんな菜々緒の横で、何の感情も持っていなさそうな若者。

…なんだろうか、この居心地の悪さは。

「ごめん…やっぱり、わたし、乗るのやめとく」

列から離れようとしたわたしの手首を掴み、引き留めたギョンス。
「…菜々緒さん…申し訳ありませんが、エリが…僕の妻が体調が悪くなってしまったようなので、僕たちここで失礼しますね。どうぞ、ガンウさんと末長くお幸せに」

菜々緒に向けて、深々と頭を下げたギョンス。

なんで…こんな子に…そこまでする必要があるの?

「…向こうで少し休もうか」
わたしの腰に手をまわして、ゆっくりと歩き出すギョンス。

予想していなかった、ギョンスの紳士ぶった対応に少し困惑しながらも、せっかくなら、最初から堂々としてくれてたらよかったのに…なんて思っちゃうわたし。

「……ギョンスの…バカ」

「…ごめん…どうしたらいいか考えてたんだ。だって…菜々緒さんは、仮にもうちの社員だし」

「それはそうだけどさ…」

ギョンスが困ると必ずフリーズしちゃうところ。

いつもは可愛いけど、さっきはさすがにイライラしちゃった。

「まさか…こんなところで会うなんて…ホラーだよな…」

ギョンスもわたしと同じように思ってたんだね?

しかも…あの時と同じ服とか…何考えてるんだ彼女は……」 

ブツブツと尻すぼんでいくギョンスの言葉をわたしの地獄耳がしっかりと拾い。

「ねぇ…もしかして、菜々緒とここに来たことあった?しかも…あのお揃トレーナーで…菜々緒とカップルコーデしたりしてた?(笑)」
「……………ごめん」

「えーーーーーーーっ!!!( ・᷅ὢ・᷄ )」
「…レンタル彼氏なら…依頼者には逆らえないでしょ…」
「ギョンスマジ最低!!!」

なんだろ…この超悔しい感じ!!!!!

わたしにしてくれないことを、菜々緒には全てしてきたギョンス。
わたしの知らないギョンスを知っている菜々緒。。。

そんな生々しい過去の、変えられないことが。
今さらこうして掘り起こされただけで、目の前にいるギョンスに、無性に腹が立ってくる。

「…どうしてそんなことで怒るの?エリ」

…は?そんなこと?
そんなこと???って言いました?今。

「ギョンスはさ…レンタル彼氏としては最高だったかもしれないけど……結婚相手としては…不向きだったかもね(笑)」

……ヤバイ。
こんなこと言ったら絶対ダメなのに!!!
エリ!!!!止まりなさい!!!止まれ止まれ止まれ!!!

「…………それって…どういう意味?」

「今日だってさ?そもそも約束通りにギョンスがちゃんと朝起きてくれて、ちゃんと時間を守って行動してくれさえすれば、もしかしたら菜々緒に会うこともなかったかもしれないじゃん」

ダメだって、わたし!
こんなところで、こんな夢の国で、ギョンスに喧嘩なんかふっかけたらダメだってば!

「しかも、せっかく用意してたお揃いのトレーナーも拒否されるしさ!ギョンスはいつもそうなんだよ?"だって仕方ないじゃん""僕は嫌だから""それが現実なんだから"って、わたしに対しては自分を曲げずに納得させるばかりで、全く夢を見させてくれないんだよ?一緒に夢の国にいたって、結局はこうなるんだから最悪だよ!!!」

あーあ…全部出ちゃった…。。。

…ギョンスのせいじゃないのに。
たまたま菜々緒に遭遇しちゃった不運をギョンスにぶつけたところで何の解決にもならないのに。

今、どうして、わたしはここまでギョンスに怒りをぶつけてしまうんだろうか?

そうか…。
よくある"夢の国ではカップルが喧嘩しやすいジンクス"って…こういうことなのかな……。

「…………言いたいことは、それで全部?」

…なによ。
なんか言い返してよ…。

感情をなくした顔のギョンスが。
「……今日はもう…無理そうだね。帰ろう」

そう一言だけ呟いて、歩き出す。

…ちょっ待てよ!!!

キムタクになりかけて。

やだ!!!
そういうことじゃないの!!!
待って!行かないでよ!!!!!!!

…そんな風に、今、わたしがここから叫び散らして呼び止めたところで、ギョンスは絶対に止まらないし、振り返らない。

こうと決めたら譲らない。

それが、わたしが知ってるドギョンスという男で。

わたしの旦那様だから。。。


でも…今日は私も絶対に譲れないんだもん!!!

意固地になって、ギョンスとは逆の方向に歩き出してみたけど。

せっかく夢の国で……わたしったら何やってんだか…。

数分経ってから、少しだけ冷静になって

今さら振り返ってみても。
もちろん、ギョンスはもうどこにもいなくて。

スマホを見ても、着信すらない。

……そっか。
わたし…ギョンスのこと…
そんなに怒らせちゃったんだね…。

でもさ…ずっと楽しみにしてたんだよ?
ギョンスと一日中、一緒にいられること…
恋人みたいに…くっついて幸せを感じること…
今日という日を…ずっとずっと…楽しみにしてたんだもん……

今…すごく悲しいよ…

今まで喧嘩らしいことしてこなかったから…
夢の国で…笑顔が溢れるこの中で
わたしだけがこんな不幸のどん底の気分になってる。

ソアリン…ギョンスと一緒に乗りたかったな……ゔ……うりゅりゅー……

ヤバい…涙が………やっぱりギョンスが一緒じゃなきゃ…ダメだ……!!!

慌ててLINEを鳴らしても、一向に出てくれない夫に。

ますます世界の終わりを感じていた時に。

「あの…」

ポンポンと肩を軽く叩かれて、見上げると

「あ…やっぱり…さっきの社長さんの奥さんですよね」

…え…あぁ……さっきの菜々緒の連れか。
「…あれ…旦那さん…は?」

何…この子…ポーカーフェイスのままめっちゃ馴れ馴れしく話しかけてこないで。

「もしかして…喧嘩…ですか」
「夫婦のことに口を突っ込まないでください」
「あー…当たっちゃったみたいですね」

だから、放っておいてってば!!!

それにしても…こうして改めて見ると
ギョンスにめちゃくちゃ似てるなぁ…。

ついつい見惚れたわたしに
「実は…僕も…さっき彼女と喧嘩して、はぐれちゃって。もしよかったら…少しだけ一緒に居させてもらえませんか」


…ドキッ!!!

夫に似た若い男のふんわりとした笑顔に胸がときめいてしまうなんて。

まさかの浮気心が発動しちゃうなんて。。。

ポーカーフェイスの子が突然笑うとか!!!
ズル過ぎない!?!?

ダメだダメだダメだ!!!

「ごめんなさい、わたし、もう帰るんで」
いそいそと歩を進めるわたしについてくる若者。

「…あ…じゃあ一緒に…エントランスまで行きます。彼女…怒って先に帰っちゃったみたいだし」

この子…どうしてこんなに平然としてるんだろう。

「ガンウさん…でしたよね。菜々緒と喧嘩したのによく平気でいられますね?」
「…あぁ…確かに…言われてみたらそうですよね…」

全てが緩いなー…この子。
感情が全く読み取れない。
ギョンスとは全く異なる空気感。

顔は似てても、やっぱり別者ね。

仕方なく、エントランスに向けて一緒に歩いていると。
「僕…さっきわかっちゃったんですよね…彼女の本心が」
「……え?」

何を言うかとガンウさんの顔を見たら…

「僕…あなたの旦那さんの代わりだったみたいです(笑)」

なぜ………それを…笑顔でわたしに伝えるの?

固まったまま何も言えずにいると。
「"なぜ、それを笑顔でわたしに伝えるの?"今、そう思いましたよね?そうですよね…ごめんなさい、つい。」

やだ…この子…人の心が読めるの???
「…僕、エンパスなんです」

……エンパス???

「簡単に言うと、他人の感情を自分の感情のように感じられてしまうってことです。だから今…エリさんの気持ちも痛いほどわかる…。旦那さんと喧嘩して…どうしようもなく落ち込んでいますよね…かわいそうです」
「あなたに!!!…関係ない人に!かわいそうだとか言って欲しくなんてないし、勝手に人の心の中を覗かないでください!!!わたし、帰りますんで」

なんなのこの子!!!
超怖い!

そそくさと逃げようとしたわたしに、グン!!!と強い衝撃が加わり、制止がかかる。

手首を強く引っ張られて、相手を睨みつけると。
「あのっ…これだけ、一緒に乗ってくれませんか?彼女と乗るはずだったソアリンのスタンバイパス、ちょうど時間になったから…」

……ソアリン。

一度乗ってみたかった…ソアリン。

ずっとずっと楽しみだった…ソアリン。

本当はギョンスと一緒に乗りたかった……ソアリン。。。

…でも

「……じゃあ…これだけ」

自分の欲求に負けてしまった。

ギョンスよりも…ソアリンに乗りたいという自分を優先したわたしに
「ありがとうございます。エリさん」

……きゅん❤︎

ここ一番のあどけない笑顔で右手を差し出してきた歳下の男性に胸がときめいてしまったのは。

きっとこの子がギョンスそっくりに笑うからなんだ…と、自分に言い訳をしながら。。。


ゆっくりと、その手を握り返して、ソアリンに吸い込まれたのだった。







 





続く。