この日は副業の公休日。
珍しく本業(不動産賃貸業)の仕事の予定が入っていない。
そこで、ネットで色々と検索すると、あるサイトに目が留まる。
それは、静岡地方裁判所の裁判日程。
ちょうどこの日に裁判員裁判の公判が行われる。
事件名は『殺人』。
以前、傷害過失致死の公判を傍聴する。
今回の『殺人』は、あまりにもインパクトがある。
早速、この日の午前中はこの公判を傍聴しようと決める。
午前10時の開廷に合わせ、裁判所に9時30分に到着する。
1年前にも来たことがあるが、法廷がどこにあるか忘れてしまう。
『刑事部』という看板を目指して歩き進める。
私の前にも私服を着た男性が向かっているので、私と同じ傍聴人と思った。
すると、ある部屋の前で、前の人が係官に『チケット』のようなものを渡す。
私:「裁判を傍聴に来ました。(前の人のような)チケットを持っていません。」
係員:「先ほどの方は裁判官です。こちらは法廷ではありません。戻ってもらい、守衛に聞いてください。」
私:「失礼しました。」
前を歩いていたおじさんが裁判官だったとはビックリ。
再び、玄関前まで戻り、守衛さんに場所を教えてもらう。
9時50分に傍聴席の扉が開かれ傍聴席に着席する。
その直後、刑務官4人に連れられて手錠をはめられた被告人が入ってくる。
両手に黒色の手錠がはめられた姿を見て、現実を目の当たりにする。
10時ぴったりに裁判官3人と裁判員8人が入廷する。
全員が起立し、一礼する。
以降、具体的な内容は差し控えさせていただく。(以下の内容は報道で発表済み)
被告人と被害者は薬物依存症のため、同じ病院に入院していた者同士。
2人は退院後、連絡を取り合って、被告人の家で過ごしていた。
そんなある日、被告人は『幻覚・幻聴・過去の被害妄想』を見たことをきっかけで、被害者を包丁で脅し、その後、金属バットで顔面を中心に殴打し死亡させる。
午前中の前半は、弁護士と裁判官による証人尋問だった。
そのやり取りを聞いていての感想は以下の通り。
・(弁護士、裁判官の)質問に対して的を得たものではなく、違う話を始める。
・身振り手振りの熱弁をふるう。
・自分がしゃべったことを『~とおっしゃる』と間違った尊敬語を連発する。
・話に窮すると『(取り調べの)録画撮影を見てほしい』『弁護人に手紙を書いたので見てほしい』と逃げる。
素人の私が見ても、普通じゃないと感じる。
弁護側としては、これらのやりとりから『刑事責任が問えない』と主張する理由の1つと、うがった見方をしてしまう。
やはり、途中で私が思ったことを裁判官が代弁してくれる。
裁判官:「自分がしゃべったことを『おっしゃる』という言い方は違います。」
裁判官:「質問されたことだけに答えてください。」
10分の休憩後、検察による今まで行った警察、検察による『供述調書』が読み上げられた。
これが、実に生々しい。
普段、2人が密売人から買った覚せい剤の使用の様子や殺害の様子などが延々と語られた。
それが、約1時間続く。
検察官は額から流れ落ちる汗をハンカチで拭きながら読み上げる。
ここまでで、午前中の裁判が終わる。
帰宅するため3階の法廷から1階の玄関に下りる。
すると、私の前に先ほどの裁判官や裁判員もその階段を使って下りる。
ここで彼らに話しかかけてはいけない。
<裁判員裁判を傍聴される方へ>
裁判員等に接触することは、法律で禁止されています。
別に話すことはないが、目の前を『法服(ほうふく)』を着た裁判官を見ると、妙に緊張する。
ここから公判を傍聴した感想を2つ述べる。
まず1つ目は当たり前のことだが、覚せい剤等の薬物は本当に恐ろしいということ。
今回の件に関して判断能力の有無があるかどうかは別として、実際に被告人が主張する『幻覚・幻聴・妄想』はあるのだろう。
殺害前も被告人、被害者共に密売人から覚せい剤を購入し、使用していたということだから危険極まりない。
もう1つ感じたことは、被告人は話し出すと熱弁をふるい、話が止まらない。
しかも、話の内容は的を得ていない。
事件から3年以上経過しているので、薬物は体から抜けていると思う。
私自身、障害者施設でも働いている経験から、この被告人も何だか近いものを感じる。
言い方は大変失礼だが、薬物による判断能力以外にも、そもそも認知する力、知能的な力はどうなのだろうかと気になる。
自らの刑務所での体験談をつづった元衆議院議員、山本譲司著『獄窓記』の話がよく分かる。
刑務所に収容されている人の多くは、何らかの障害(発達障害、知的障害、精神障害等)を抱えているとのこと。
今回の被告人を擁護するわけでは決してないないが、彼にとってこの世はもの凄く住みずらいのだろうと想像する。
なお、1審の判決は今月末に言い渡される。
最後に、被害に遭われた@@さんのご冥福をお祈り申し上げる。(合掌)