図書館で数冊、本を借りる。
その中に、清張氏にとってはとても珍しいSF的小説がある。
松本清張著『神と野獣の日』角川文庫 ¥476円
この作品は昭和38年に発表された。
今から60年前の作品。
半世紀前の作品だと侮ることなかれ。
読み進めるとグイグイと引き込まれていく。
あっという間に読み終えてしまった。
半世紀前の作品なに、全く色褪せていない。
その理由は、60年後の今現在様子を予言しているような場面が随所にみられるから。
テーマ設定は、同盟国のZ国から核ミサイル5発が誤射される。
照準はズバリ、首都の東京都心。
しかも、到着予定時刻は今から43分後。
総理大臣等の主要閣僚は、米軍のヘリコプターで東京をを脱出し大阪へ。
残された国民(東京都民)はパニック状態に落ちる。
その様子は書籍に事細かく書かれているので、ここでは割愛させていただく。
以下に、今も色あせないと思う4つを取り上げる。
① 『防衛省』と設定されている。
⇒50年前は防衛庁だった。あくまでも、内閣府の1つであり、権限が少なかった。
今から17年前に防衛庁から防衛省に格上げされた。
清張氏は60年前から、こうなることが分かっていたということかもしれない。
② 同盟国のZ国から誤射された核ミサイル
⇒今現在、北朝鮮によるミサイル発射が日本海側に向けて頻繁に発射されている。
しかも、同国は核開発に熱心とも言われている。
この作品では『同盟国による誤射』という設定。
その点を除けば、今の日本が直面している問題と一致している。
③ 学校での道徳教育の重要性を説いている。
⇒戦後、道徳教育については、かなりのアレルギーがあった。
その道徳教育の強化を図ったのは時の総理大臣、安倍晋三氏。
・愛国心
・教科への格上げ
・その評価方法
まさに、作品の総理大臣は、道徳教育を推し進めようと文部大臣に話している場面が登場する。
④ 総理は、次の臨時国会では野党のいかなる反対を押し切ってでも国防予算を大幅に増やすことを決心した。科学技術者も大量に教育する必要がある。国家予算の半分をさいても惜しくはない。
⇒時の内閣も国防予算を大幅に増強するために、NTT法を改正し、予算確保に動いている。
また、科学技術の振興も現在の喫緊の課題。すぐに結果として結びつかない面もあるが、資源が乏しい日本にとって、科学技術の振興は命と言ってもよいのではないだろうか。その予算が削られているという。
作品に出てくる架空の総理大臣は、『国家予算の半分をさいても惜しくはない』と述べている。あながち、的外れではないと思えて仕方がない。
以上に挙げたことは、今の日本にとって直面している課題もあるし、既に成立したものもある。
それを昭和38年という時代に書かれたと思うと感慨深い。
松本清張はSF小説を書かないし、科学技術分野については苦手だと思っていた。
それを覆してくれた意味でも大変意味のある作品。
だから、今でも彼の作品はTVドラマ等で取り上げられるのだと勝手に納得する。