「コペルニクス的転回」という言葉をご存じだろうか。「パラダイム・シフト」とも言い換えられるこの言葉は18世紀に活躍した哲学者カントにより哲学用語として「発明」され、「考え方を根本的に変化させることで物事の新たな局面を切り開くこと」といった意味があるという。コペルニクスは15世紀から16世紀にかけて活躍したポーランド出身の天文学者であり、晩年に記した著書「天球の回転について」のなかで唱えた地動説がそれまでの天文学の発想を大きく覆すものであったことからこの言葉に名が冠されている。

 出自こそ哲学用語でありながら現在ではビジネス用語としても稀にではあるが用いられる事実が、この「根本的な考え方の転換」が現代でも大いなる意味を持っていることの証左として読者諸氏にも伝わるはずだ。進捗が煮詰まったときにこそ、「前提」や「周知の事実」に疑いの目を向けることの重要性は今も昔も大きく変わらないということだろう。

 過去を紐解いてみても、源平合戦の最中で発生した一の谷の戦いにて源義経が披露した「鵯越の逆落とし」、コンスタンティノープル攻略戦でオスマン帝国の指導者メフメト2世が繰り出した「艦隊の山越え」など、歴史の随所にはこうした「コペルニクス的転回」の実例ともいえるアイデアが登場し、年表を彩っていることが分かる。

 無論、こうした発想は単に思いつくだけではなく、実際に実行に移すだけの行動力、なによりこうした一見突飛にも思える行動を容認するだけの胆力が必要になる。ゆえに、現代でこうした独創的な発想を現実のものとしたいのならば関係する多くの人々、そして万が一のときに責任を取るリーダーの理解と協力が必要になることは言うまでもない。

 

 

 さて、巨大かつ歴史ある組織の全貌に比すれば非常に些細で、またとても微細な変化ではあるが、先に挙げたような「コペルニクス的転回」は直近のボート部においてもいくつか起きている。過渡期にある部において、あまたあるそうした変化のうちの一つにしてユニークな部類にあたるものが「PVの制作」である。今年度のPVについては制作工程の殆どを僕が担当者として請け負っていたこともあるので、このブログでも宣伝がてら言及させて頂こうと思う。

 そもそもあまりアップテンポではない洋楽を用い、スタイリッシュさに重きを置いた昨年度のPVからして、それまでの新大ボート部の、否、PVとしての形式そのものにすら風穴を開ける革新的な気質のものであった。僕のPV制作作業は「前年度の課題の洗い出し」と言えば聞こえはいいが、そういう革新的な試みにケチをつけ、自分なりの革新性を持ったPVとなるように方向性を定めるところから始まった。

 とはいえ、少なくとも「プロモーション」ビデオという観点において、近年稀にみる12人(のちに13人へ)という大量の新入生の獲得に成功した2024年度のPVの功績を完全に無視するわけにもいかない。なにしろ前年度は今年度試みた方向とは別のアプローチでの「コペルニクス的転回」を見事に成功させているのである。実際に部内へ方針を説明するために作成したプレゼンテーションビデオへの反応は、逆風とはいかずとも芳しいものばかりではなく、ある種成功者の跡を継ぐことの難しさについて身をもって実感したものであった。

 そんなPVであるが、動画を並べる際にはなによりも映像の「流れ」が心に入りやすいような構成を心掛けた。常々説明に用いていた言葉は「感情的訴求効果」と「知識的訴求効果」。前年度の課題についてこの2点から何度も振り返りを行うとともに、また今年度の制作方針の説明を行った。

 勿論組織であるから、意見が完璧に一つになることなどあり得ない。内部でも、演出や使用する素材、果てはコンセプトそのものまで、多くの疑問や反対意見が出たことは言うまでもない。しかしそれも、伝えたい「ボート部の魅力」という像がお互いにあってこそ。自由に作らせてくれ、という気持ちが完全になくなった訳はないが、そうしたぶつかり合いがあるという事実は好意的に受け止めるべきであると、納得しつつ制作を進めていた。長すぎて分かりづらいとまで言わしめた分量の説明を編成する細やかさとある程度の批判を聞き流す横暴さをうまく(都合よく?)組み合わせて中途半端な能書きを垂れたのはあるが、部員のみんながなんだかんだで信頼を置いてくれたのか、大部分を僕のやりたいようにやらせてくれたことは本当にありがたかった。

 

 

 PV制作のため重ねたミーティングは二桁回以上。フィードバックのため作成した資料は5つ、説明用に制作した動画は3つ。撮影し集約した素材は3桁を優に超える。そうした時間と映像と、構想から足掛け5か月に及ぶ制作の果てに生まれたPVなのだ。語りつくせない苦労も、エピソードも、辛さもたくさんある。それでも、作り終えた瞬間に一人の部屋で零れんばかりに溢れ出した達成感が、片鱗だけでも伝わるのなら嬉しいことこの上ない。

 

 

 

「芸術は爆発だ」

 そんなインパクトの強い言葉とともに、旧大阪万博のシンボルである「太陽の塔」の設計でも有名な岡本太郎は、実は前述のフレーズの他にも芸術・創作にあたる際の細やかな心掛けから生き方に至るまで複数の言及があることで知られている。あまたある言葉を紹介し続けても蛇足にしかならないので、PV制作者としての矜持と信念、そして執念をもっとも端的に表現していた彼の至言をここに引用させていただき、PVのリンクと僭越ながら並べおくことで、この文章の結びとしたい。

 

「自分の価値観を持って生きるってことは、嫌われても当たり前なんだ。」

PVリンク:新潟大学ボート部PV【2025ver.】

 

                  文責:マネージャー・漕手・広報一年 谷村