久しぶりに、『ロゴスドン』Webの特集を更新しましたので、当ブログでも紹介します。
『ロゴスドン 第78号』特集・続編その66
「東京大学超人気講義録」で知られ、日本テレビ「世界一受けたい授業」にも出演されたアルツハイマー病研究の第一人者・石浦章一先生にインタビュー!
『ロゴスドン 第71号』の発行は、2007年(平成19年)9月1日でした。この号の特集を「遺伝」にしたのは、前号の特集インタビューにおける精神病理学者・木村敏先生の「心というのは生命だ」というお話を受けて、まったく逆の考え方をされておられた石浦章一先生にご登場頂きたいと思ったからです。石浦先生は当時、東京大学大学院の教授をされていましたが、大変多忙な先生でしたので、移動途中の高田馬場駅近くの喫茶店でインタビューをさせて頂きました。
まず最初に、「遺伝子のオン・オフを上手にする、ポスト・ゲノム」という小見出しを付けたお話を頂きました。その後は、「喜びの実験は難しい」「遺伝子が分かると、人間のタイプが分かる」「自閉症はキャラクターであり、特別な能力を持っている」「遺伝子診断で、ボケない生活方法が明らかに!」という小見出しを付けたお話が続き、その流れで「遺伝的な能力をはっきりさせて教育すべきである」という小見出しを付けた次のようなインタビューが展開しました。
(宮本)巷では、血液型と性格の関係がよく話題になりますし、何度かブームもあったと思われますが、血液型と遺伝子の関係というのはどうなっているのでしょうか。
(石浦)一切関係ないです。それはもう、何度も何度も研究がされて、関係ないとはっきり分かっているんですけれども、面白いから、テレビに出たりしているんでしょうね。血液型って、話がうまく、どう転んでもあまり悪い話にならないようになっている。血液型と食べ物の話っていうのは、どんな話をしてもみんな信用するわけです。だから、なんか体にいい食べ物なんていうのは、十年おきに大きなブームが来たりするわけです。血液型もその類で、全く意味のない話なんです。
(宮本)前号の特集で木村敏先生が、「心というのは生命だ」とおっしゃいましたけれども、石浦先生は、『脳内物質が心をつくる』(羊土社)という本を書いておられるだけに、まったく逆の考え方をされているのでしょうね。
(石浦)そうです。だいたい哲学が問題があると思うのは、自分のただの思い込みイコール哲学なんです。哲学者というのは、自分の思っていることをただ言っているだけで、科学的なことが何もなく言っているわけです。うちの大学の哲学の先生もそうで、新聞に投書する人と全く同じことを言っているわけです。そんなことでは、人間の心は分からないと思いますね。そこが一番大きな問題で、人間の心のいろいろな動きとか、そういうものは、たぶん物質によって決まっているんです。だから、遺伝子とか、その物質の流れが分かれば、ほとんど解明できると思っています。「人間の心は分からない」というのは、その人が分からないだけであって、僕は分かると思うんです。将来、脳の血液の動きとか、その人の持っている素因とか物質の流れを見れば、「ああ、この人は今、喜んでいるんだな」とか、「何を考えているのかな」ということが、たぶん分かるんではないかなと思います。
ところが、一番分からないのは、今、何かしている脳の動きは分かるけれど、それが今まであなたが何十年も生きてきた積み重ねと、どう関係があるのかということについては、なかなか分からない。その人の経験というものが、脳の動きにどう反映するかということについては、なかなか分からない。それが両方分からないと、その人の心の動きは分からない。でも、何かがあると、例えば、これを触って硬いということは分かるんだけれど、その感覚は人によって違うんです。私が硬いと思っているのと、あなたが硬いと思っている度合いっていうのは、比較のしようがないわけです。
また、例えば、これは何色ですかって言うと、僕はえんじ色に見えるんだけれど、あなたは赤に見えているかもしれない。それはどこで決まるかというと、たぶん遺伝子で決まっているんです。それが分かったのは、色の視覚の遺伝子が分かったからです。あなたが持っている遺伝子と僕が持っている遺伝子産物の、あるアミノ酸 A がPに変わったっていう違いで、その色を感知する波長が違うっていうことが分かったんです。ということは、あなたが見ているこの色と私の見ているこの色は違うんです。はっきりと波長が違う。遺伝子が違えば、吸収波長が違う。色の認知の仕方っていうのは、人によって違うということが分かった。となると、例えば、何かを危ないと思う危険の認知の仕方とか、そういうのもたぶん人によって違うんです。アスベストを死ぬほど怖いっていう人と、全く怖くないという人が世の中にたぶんいると思うんです。それはもちろん経験によっても違うけれども、経験だけではなくて、崖っぷちで下を見て、怖いと思う度合いは、たぶん人によって違うんです。
それが何で決まっているかっていうと、遺伝子で決まっているんです。だから、遺伝子で決まるものもあるんです。もちろん経験によって決まるものもある。だけど、認知の仕方っていうのは、その両方で決まるわけで、自分 の思っているようなことが、相手も同じように思うかどうかは分からないんです。自分の考えを人に押し付けても分からないということが、だんだん遺伝子の研究から明らかになってきたんです。
哲学というものを、もう一度見直さないといけない時代が来ているんです。ものの見方というのは、人によって 違う。それは絶対に確かです。色や硬さですら違うんだから。あなたが僕の顔をどう見ているかっていうと、四角に見ているか、長方形に見ているか、人によってたぶん違うんですよ。それを考えて、これはこうしなければいけないとか、そういう言い方はたぶんできないと思う。教育なんかもね。子どもにも、例えば、足し算をするときに、 12 + 13 というのを、1と1を先に加える子どもと、2と3から加える子どもが、たぶんいるんです。普通、 12 + 13 は、2と3から足し算しなさいと小学校で教えるけれども、どう見ても1と1から加えていくやつがいて、そっちのほうが早く計算ができる場合もあるわけです。
同じものを見ても、見方とか教育法というのは違うはずで、そういう教育法の違い、いわゆる自分の持っている遺伝的な能力をどうはっきり分かって教育しなければいけないかっていうことが、これからの教育の非常に大事なことです。ただ先生が「こいつは数学が得意だから」「こいつは国語が得意だから」って、ただ見ているんではなくて、 もうちょっと脳を見て教育した方がいい。例えば、文章を読んだときに、パッとその文章が分かる子どもと、数字を見たときに、パッと数学が分かる子どもというのは、たぶん脳で分かるんです。若いときに、それが分かったら、そういう得意なところを伸ばすような教育をしなければいけない。それをずっと敷延すると、たぶん遺伝子を調べ て、その人の性格みたいなことが分かったら、こいつはビシビシとたたいて教えた方がいいとか、この子は怒ったら駄目で、うまく褒めて育てるとか、そういうことが分かると思います。教育学も、そういうふうな脳の遺伝子で調べるというやり方がもう当然のように、これから行われると思います。
(宮本)そういう教育になれば、無駄な教育もなくなって、脱落する人も少なくなるでしょうし、教育が非常に健全化してきますね。
(石浦)無駄な教育ってないんだけれども、無駄なやり方はなくなる。ただ、脱落する人が少なくなると、みんな平均的な力しか持っていないことになる。社会っていうのは、広がったほうがいいのかもしれないね。
その後は、「神を信じると、純粋な科学的思考ができない」「精神とは、遺伝子素質が六割で、経験学習が四割である」「人を殺すのはなぜ悪いのか、ということも脳が規定している」という小見出しをつけた非常に興味深いお話が展開していきました。
この特集インタビューの全文は、『学問の英知に学ぶ 第六巻』(ロゴスドン編集部編/ヌース出版発行)の「六十三章 脳と心の遺伝哲学」に収載してありますので、ぜひ全文を通してお読み頂き、遺伝子による生命の謎について考えて頂ければと思います。