父の臨終に立ち会えなかった。
 
 
いくらか母の様子が落ち着いてきたある日、その瞬間のことを聞いた。
 
30分ほど、火であぶられた虫けらのように、のたうちまわって、苦しんで
 
絶叫して
 
口から泡のような液体を垂らして死んだ。
 
 
何か最後に言葉を残さなかったのか?
しつこく母に食い下がると、教えてくれた。
 
「ありがとう」でも「幸せだった」でも「頑張れ」でも「さようなら」でもない。
 
最期の言葉は
「殺してくれ」だった。
 
癌末期の激しい疼痛に、もう耐えられなかったのでしょう。
 
 
もしも、早いうちから残された時間を知っていたら、
マトモな精神状態でいられるうちに余命宣告をされていたら、
違う言葉を残してくれたんじゃないか?
 
もう永久にあなたの言葉が聞けない。
手紙を残して欲しかった。
これからの人生、あなた無しで何十年も生きていくんだ。
そんな私に何か言葉を残してくれたっていいじゃないか。
 
 
けれども
 
もしも癌がわかった時点で余命宣告をされていたら…
「もう『死』がそこまで来ている」
「この先にあるのは『死』だけだ」って言い放たれていたら
 
きっと、その瞬間から、もうあなたの笑顔は見れなかった。
 
 
陽射しが温かく風が心地良いある日、一緒に公園へ行って鯉に餌をあげた。
あなたは笑っていた。
あれで良かったのかも知れない。
 
生涯答えは出ない。