私の人生?

祖父母が借金を残して早くに他界したため、
幼少期から家庭内では金銭のことで疲弊しきった両親の顔があった。

ただ、笑って欲しかった。
私の好きな笑顔に、傷を刻まないで。

…思春期になり、
私の家庭はみな高卒であること、
職業の選択肢の狭さがそれに起因することを感じとる。
 
そう考えることが結果的に最愛の父を間接的に殺すことになるとは、
勉強に集中していた高校時代は考えもせずに。

 
…重い。
何もかもが。
 
対して父の部屋は異様だった。
密度という概念が存在しない、いくら物にあふれても。
その部屋に入る度に私は、浸透圧のしくみか何かのように生きる意欲を削がれていった。

死んだ部屋。

ハンガーにかかった生前の彼の衣類は、触れずとも私を包みこんで…

今も私を揺さぶる、「包む」もの。

私を「捕らえた」、
いずれ自らも辿るであろう悶絶、恐怖、死の予感。

幼いある日
私は、母が仕事に行くのを酷く嫌がった。
それでも母は行ってしまった。
直後私は
母の布団にもぐりこみ「お母さんのにおい」に包まれ安堵し眠りに落ちた。
 
…居場所。
「生まれる」というのは、世界に投げ出されることではない。
誰だって必ず最初は「母の子宮」を居場所として提示され、
孤独とは無縁だったはずだ。
 
すがりつく。
決して触れずに。
幼少期ならば私の精神に不思議な作用をもたらしたであろう「お父さんのにおい」を放つあの衣類。
 
視界に入る度、
フラッシュバックのように
「子供が可愛くて仕方がない」といった安らかで幸福に満ちた顔と、
癌に侵され断末魔の叫び声をあげた彼の表情の区別がつかなくなるように私は
 
いつの間にか涙は何時間か流れ続けていた。
 
 
兄弟は似ないもの。
 
私だけが期待されて育てられた。
そうして私は長年兄からの虐待を受けることになる。
 
セックスレスにしても兄と無関係ではない。
それが…愛情表現?…嘘。
セックスは、私を殺そうとして少年法に守られた兄が女に毎日やっていたこと。
壁を隔てた隣室で。
音や声は鮮明で、顔がない。
私はそれに、兄が私を殴りつけて心底楽しそうにしていた表情をあてがった。
 
…それ以来の私が性的に不能になったのは言うまでもない。
 
 
dead-end...
 
方向がない。
 
助けたかった。
けれどあなたは
私を大学に行かせるために病院代を過度に節約し、その間に癌は進行し
 
私が間接的に殺した。
 
「いや、死なせはしない」
彼がまだ生きているときは、私がこの手で助けようと…
 
しかし彼は死んだ。
 
私の胸中は苦しみ無気力で充満し…生きるメリットは見当たらない。
 
 

また
 
清廉潔白な白い部屋に閉じ込められれば人は三日で発狂するという。
 
それを他人の精神世界になぞらえて…
確かにそうだろう。
ただ…
 
私はかえって
「真っ黒な斑点」を凝視するうち、
部屋の白さとの不調和に発狂してしまうだろう。