「あの、紹介するわね。私のお友達の綾香さんと龍斗君、こっちは会社の上司の伊藤さんに佐山さんと英語のプロの契約社員の山脇さん、今日はこんなところまでお疲れ様でした」

クレヨンがそう言うとおバカ小僧は僕らをじろっと見回して「おい、綾香、こんなおばさんの説教を聞かせるために俺をこんなところまで連れてきたのか。こんな時代遅れのおばさんの説教なんか聞いても何の得もないだろう。アホらしい、俺は帰るからな。」と悪態をついて部屋を出ようとした。本格美人はちょっと慌てたように「ちょっと待ってよ。せっかく忙しいことを皆さんに来てもらったのにそんな失礼な言い方はないでしょう。謝りなさいよ」とおバカ小僧を制止しようとしていた。

「帰りたきゃ勝手に帰りな。お前みたいな脳天打ち上げ花火に何を言っても始まらないだろうし、別にこっちからも言いたくもない。大体、女にぶら下がって食い散らかして何が事業だ。そんな奴に何ができる。本気でやろうというなら自分の力でやってみろと言いたいが、そんな度胸もないんだろう。そんな腰抜け小僧は目障りだ。ただこっちの姉さんにはお前みたいな打ち上げ花火に資金を与えるくらいならカラスにでもやった方がまだましだからやめておけと言っておくからとっとと帰りな」

顔だけでも拒絶反応を起こしているのに余計なことを言うのでムカついて切れた僕はおバカ小僧にそう言ってやった。そうしたら「なんだと。もう一度言ってみろ」と僕の方に向かってきて襟を掴もうとしたのでその腕を取って後ろ手に固めてやった。

「このばばあ、痛えな。離せよ。ただじゃおかねえぞ」

おバカ小僧は強がったが、関節を取っているのでどうにもならないだろう。

「小僧ちゃん、ばばあでもいいけどばばあをなめるんじゃないよ。」

僕はそう言うとちょっと関節を締めてやった。戦闘系おばさんをなめるんじゃない。おバカ小僧は悲鳴を上げたので力を緩めてやった。そうしたら本格美人が飛んできて「すみません、放してやってください。いくらでもおわびしますから。」と哀願するので放してやった。おバカ小僧は「なんなんだよ、こいつらは。本当にムカつくな。もう帰るぞ。お前、残りたいなら好きにしろ」と言うなり部屋を飛び出して行った。

あまりにもムカつく態度に切れてしまったが切れると男の本能剥き出しになるようだ。そう言えば盗撮兄さんの時もそうだった。ただ、相手が女と見て油断しているから奇襲戦法が通用するのであって基本的に男女は体力に差があるので正面切っての戦いはやはり不利だが。そんなわけで話し合いも何も一瞬で崩壊してしまって後には僕たちと本格美人が残った。もっとも本格美人をあのおバカ小僧から切り離せばいいのだろうからおバカ小僧などいなくてもいいのだけど。

「ああ、ムカつく。あんな小僧、生理的に受けつけないわ。何が事業をやりたいよ。事業はガキのお遊びじゃないんだから。自分では一銭もないくせに女の財布を当て込んで何が事業よ、ばかばかしい。」

僕が本気で怒っているのでみんな静まり返っていたが、本格美人が口を開いて僕に平謝りに謝った。

「本当にご迷惑をおかけして、しかも大変失礼なことまでして申し訳ありませんでした。どのようにもお詫びしますから許してやってください。」

畳に両手をつけて頭を下げようとする本格美人を「あなたが悪いわけじゃないでしょう」と制して席に着かせた。

しばらく沈黙状態が続いて誰も口を開かなかった。そこに夕飯の料理が運ばれてきた。部屋も豪華だが料理もまた豪華でこんなもの生まれてこの方食ったことがないような料理だった。恐るべし、クレヨン、こいつ、こんなのが当たり前の生活をしているのか。

「お飲み物はいかがしますか」

仲居さんがそう言うのでそれぞれが好きなものを頼んだが、取り敢えずビールの習慣は根強くやっぱり最初はビールだった。

「さあ、せっかくの豪華な夕食なんで食べましょう。あ、その前に乾杯か」

僕がそう言うとクレヨンがビールの栓を開けて注いで回った。クレヨンは女土方に注いでもらって「じゃあ、せっかくの機会なので楽しく乾杯と言うことで、・・カンパーイ」とか威勢のいい声を上げて乾杯をした。じゃあ取り敢えず先付をと思ったが、この先付けだけでも1万円くらいしそうだと思うと貧乏人は箸が止まってしまうが、クレヨンは遠慮会釈もなくバクバク食いまくっていた。

「これって先付でしょう。出るものまともにみんな食べたらいくらになるんだろう。ンで、絶対に太るな」

知的美人が先付をつまみながら声を上げた。僕はビールを一口飲むとグラスを置いて本格派美人に声をかけた。

「ねえ、あなた、あの男のために金を都合してやるの。あんなのにいくら突っ込んでも無駄よ。事業なんかまともにできるような玉じゃないわ。無駄だから止めたら。取り返しがつかないことになるわよ。もう半分なっているのかもしれないけど、・・。」

僕がそう言うとまた部屋の雰囲気が凍りついた。

「大体、あんただったら男なんか選り取り見取りの選び放題でしょう。何でよりによってあんなのとくっついたのよ。」

『お前が500万で手に入るなら俺が金を出してもいいけどなあ』

 

 

もうちょっとでそう言いそうになって『やばい』と思って口をつぐんだ。

 
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