どうも僕の場合は女が受けるようにはその手の刺激を処理していないようだ。女の場合、物理的な感覚に加えて主観や感情と言った要素が大きいんだろう。

「あなただって百戦錬磨でしょう。その経験を総動員してこの人をメロメロにしてみたら。無駄だと思うけど、・・。」

僕に抱きつきながらクレヨンがちょっと挑発するような口調で知的美人にそう言った。まあ確かに女のようにその最中に自分の世界に没頭できずどこか冷静と言うか客観的と言うかその種の醒めた部分があることは間違いない。そしてそれは男女とか言うのではなくて僕の個人的なものなのかもしれない。

「ところでどうしたの。滅多にこっちに来ないのにわざわざ出張ってきて何か特別な事情でもあるの。」

まさかあの時の感じ方談義などと言うレベルの低い話で女土方たちがこっちに来たとは思えずに僕は女土方に聞いてみた。

「あのね、たまには四人でやってみるのもいいかなと思ってお誘いに。」

女土方があまりにもあっけらかんとした表情でそういうので僕は一瞬固まってしまった。そしてそうなると誰と誰がペアを組むんだろうなんて下品なことを考えてしまった。

「やだ、そんなにびっくりした顔をして。真に受けないでよ」

女土方は僕が本気だと思ったのか、自分が言ったことを冗談と断ってから続けた。

「実はね、わたし、あなたに伝えるのを忘れてしまったんだけど、社長が北海道の出張に一緒に行って欲しいって。週末に札幌で外国語教育教材のエキシビションがあるそうなんだけど室長がちょっと体調不良で行けそうもないのであなたにって。大丈夫でしょう」

それを聞いたときに理由はないが漠然とした不安が過ったが、仕事とあれば行かざるを得ないだろう。でも何だろう、この漠然とした不安は、・・。

「仕事と言うなら行くけど室長代理ならあなたじゃないの」

僕は一応女土方に振ってみた。

「私はダメよ。外国語はまるで分らないから。役に立たないわ」

女土方はあっさりと拒絶した。知的美人と思ったがこれも問題がありそうだった。いっそのことクレヨンはどうだろう。一言のもとに却下されるだろうなあ。

「社長と私の二人なの。うちが出展するわけじゃないんでしょう。だったら社長が一人で行けばいいのに。」

僕がそう言うと女土方はちょっと困った顔をした。

「そんなこと私の口からは言えないから嫌なら自分でそう言ってね。あなただったら誰と二人でも大丈夫でしょう。北海道はあなたのお里じゃない、お願いね。」

女土方はずいぶんと無責任なことを言って話を打ち切ってしまった。僕のお里はどこだか分からない。元祖佐山芳恵のお里は北海道の小樽だったが、・・。結局、社長と二人の出張を押し付けられてしまった。

翌日出社すると社長に呼ばれた。

「急で悪かったね。室長がインフルエンザで寝込んでしまったんで代わりに行ってもらいたい。特にうちは何かを出展するわけじゃないんだけどちょっと知り合いから頼まれたことがあって。教育法や教材は君の専門だろうからよろしく頼む。」

そう言われて何をするのか聞いてみたら社長の知り合いの出展者のアドバイザーとか言えば聞こえはいいが要するにお手伝いだった。資料をもらって目を通すと要するに今どきの「ワンコイン英会話」のようなものでうちでやった「英語をファッションするコース」みたいなものだった。しかし、こんなことをいくらやっても英語が話せるようにはならない。それで話せるようになるのは大げさなジェスチャーを交えて

“It’s been a long time to see you. How have you been? I am very happyto see you. Have you been fine? “


なんて程度で何時まで経っても英語なんか話せるようにはならない。本当に英語を身に着けるには単語と語法をしっかり身に着けてそうした英語をきちんと教育を受けた向こうの人間にチェックしてもらうべきだろう。

もっとも簡単なのは日本人のいないところに行って3年くらい暮らしてみるのが一番いいんだろうけど、まあその辺はいろいろ個人の事情もあるだろうし、やはり地道に単語力、語法力をつけてそのうえで英米の文化を吸収する以外にはないだろう。

ただ外国語が話せるというのは別に特殊な能力でも何でもない。そういう環境にあるか、それなり努力すればだれでもできることではある。ただ、この国で本格的に英語を話さなければいけない状態に直面している人間がどの程度いるだろうか。そういう人はそれなりに勉強するだろうから街の英会話など必要はないだろう。

そうすると会話を状況に応じてパッケージングして販売してある程度やってみてワンコインで向こうの人間に達成度を見てもらうなんてのも大いにありかもしれない。今時顔を合わせなくてもネット上でできるし、会話のパッケージもネット送信できるし、講師にしても何も日本にいる必要はない。

まあそんなわけで英語はファッションなんで何時まで経っても英会話は廃れないし、そこそこ需要もあるんだろう。考えてみればクレヨンだってそういう状況におかれたのでレベルはともかくそれなりに英語は話せるじゃないか。まあ語学なんてものは必要と環境と努力ではある。

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