航空自衛隊が導入を始めたステルス戦闘機「F35A」が9日、青森県沖で訓練中に墜落した。同型の戦闘機の墜落は世界初だ。防衛省は操縦士の捜索を続けるとともに「フライトレコーダー(飛行記録)」の回収を図り、事故原因の調査に着手する。事故機の操縦士は「訓練中止」との無線通信から間もなく消息を絶っており、機体に何らかの不具合が発生した可能性がある。墜落したのは三菱重工業小牧南工場で組み立てられた1号機。ただし、最終検査は日本人関係者を締め出した別棟で米側だけで行われており、米政府による秘密保持の姿勢が、今後の事故原因解明の妨げとなるおそれが浮上している。
「操縦ミス」「体調不良」の可能性は低い
F35Aは夜間の対戦闘機戦闘訓練をするため、9日午後7時ごろ4機編隊で三沢基地を離陸。30分後に同基地の東約135km付近の太平洋上に墜落した。操縦していた細見彰里3等空佐(41)は、三沢基地のレーダーから機影が消える直前、無線通信で「ノック・イット・オフ(訓練中止)」と伝え、間もなく消息を絶った。防衛省関係者は「F35Aは、AI(人工知能)を含め、最新の電子機器を搭載し、人的ミスを防ぐよう作られている。操縦士が誤った操作をしても機械が修正してくれるほどだ。操縦ミスは、あまり考えられない」と話す。
操縦士が体調不良から「訓練中止」を求めることもあるが、その場合、墜落につながる可能性は極めて低いとみられる。操縦士が緊急脱出した場合に自動的に発信される緊急信号は、確認されていない。緊急脱出の暇もなく墜落した理由はどこにあるのか。同関係者は「個人的な見解だが、機体が突然コントロール不能になる、エンジンが爆発するなどの深刻な事態が発生したのではないか」と推測する。
F35Aは、米空軍でも2016年に部隊配備されたばかりの最新鋭機だ。すでに300機以上が生産され、米国のほか、日本、イスラエルなどで採用されている。米政府は、F35Aの製造元であるロッキード・マーチン社以外の最終組立工場を日本とイタリアに置くことを認め、日本では三菱重工業小牧南工場が指定された。米国と共同生産国がつくった主翼や胴体、エンジン、電子機器が同工場に持ち込まれ、最終組立が行われている。
ただしF35Aの場合、ライセンス料を支払って、国産部品を生産し組み立てるライセンス生産と異なり、海外から集められた部品を組み立てるにとどまる。当初はIHIで米メーカーの開発したエンジンを、三菱電機で同じく米メーカーの電子機器をつくり、小牧南工場で組み込むはずだったが、計画通りには進んでいない。
三菱はロッキード・マーチンの「下請け」
組み立てが終わった機体は別棟の検査工場に移され、日本側を排除した中で米軍幹部、ロッキード・マーチン社の技術者など米側だけで最終検査が行われる。最終検査には、F35Aの最大の特徴であるステルス性のチェックが含まれる。事故機は小牧南工場で生産された1号機にあたり、米側による最終検査を受けた後、米国に運ばれ、ロッキード・マーチン社でも検査を受けた。「日本の製造技術を高く評価する米側の技術者もいた」と話す防衛省幹部もいる。
だが「最終組立」の言葉からわかる通り、小牧南工場で行われているのは、米側の指示通りに組み立てること。部品の大半はブラックボックス化され、その部品の持つ意味も製造技術も日本側には開示されていない。F35Aをめぐる日米の関係について、防衛省幹部は「三菱重工がロッキード・マ-チン社の『下請け』に入ったと考えれば分かりやすい」と解説する。
つまり今回、米側の指示通りに日本側が組み立て、最終検査を米側が行った機体が墜落したのだ。機体の不具合が墜落の原因であると仮定すれば、その責任は日米双方にあるようにみえるが、日本以外で生産した約300機の機体はこれまで1機も墜落していない。米側が日本側に責任を押しつける条件は揃っている。
事故の真相がわからない懸念
三沢基地に配備された13機のF35Aのうち、4機は米国で製造され、残り9機は日本で組み立てられた。米国製の4機は、米国で航空自衛隊の操縦士の訓練に充てられており、非公表ながら飛行時間は数百時間から1000時間程度とみられる。一方、国内で組み立てられた事故機の飛行時間は280時間にすぎなかった。新品同様の機体に不具合があったとすれば、製造上の問題が最初に疑われる。また設計上の問題が、たまたま当該機に現れた可能性も否定できない。
防衛省は墜落した機体とともにフライトレコーダーを海底から回収し、事故原因を調べるが、そもそもブラックボックスの固まりのようなF35Aの事故原因を分析する能力は日本側にはなく、米側と共同する必要がある。仮に米側のみが分析を行うことになった場合、機体の秘匿性から、結果だけを日本側に伝えてくる可能性さえある。その場合、事故調査は一方的なものになりかねず、真相にどこまで迫ったのか、日本側が知る術はないことになる。
このような問題が浮上するのは、日本が米政府のさだめた「対外有償軍事援助(FMS)」でF35Aを調達しているからだ。小牧南工場で最終組立が行われた機体は帳簿上、いったん米政府に移管され、米政府の言い値で防衛省が購入する。形式的には米政府の「好意」で売ってもらっている以上、日本政府は価格はもちろん、米政府が求める生産方式を唯々諾々と受け入れるほかない。この理不尽なFMSの仕組みが、事故の真相解明の妨げとなるおそれはないだろうか。
このまま導入を進めていいのか
もうひとつ懸念されるのは、「現代ビジネス」でも以前指摘した通り、F35Aが「未完成の機体」ということである(2017年10月5日、「自衛隊の次期戦闘機・F35 、実は『重要ソフト』が未完成だった」)
米会計検査院(GAO) は昨年1月、F35に未解決の欠陥が966件あると発表した。このうち少なくとも180件は、国防総省の計画によれば、フル生産前に解決されない見通しとなっている。966件の欠陥のうち、111件は「安全性や重要な性能を危険にさらす問題」とされ、残りは「任務遂行に支障を及ぼす問題」だった。
一昨年6月には、ルーク空軍基地に所属するF35Aで操縦士が酸素不足に陥る事例が5件も発生。いずれも低酸素症のような症状を示したものの、予備の酸素を使って機体を安全に着陸させた。「息ができない戦闘機」が事故を起こさなかったのは奇跡である。そもそもF35は開発が大幅に遅れ、すでに開発を始めてから20年近く経過している。米軍は試験運用を続けながら改修し、完成に近づける「スパイラル開発」と呼ばれる手法をとっている。つまり、未完成のまま使い続けているのだ。
米軍は開発終了を急ぐあまり、肝心な安全性の確認を疎かにしてはいないだろうか。また、それはステルス機を渇望し、ライバル機との飛行テストを排除して、カタログ性能だけでF35Aを選択した航空自衛隊にも共通の問題ではないか。航空自衛隊はこのF35Aを42機導入するが、昨年12月の閣議了解と合わせれば今後63機を追加導入し、105機まで増強される。さらに、空母化される護衛艦「いずも」に搭載するため、垂直離着陸ができるF35Bも42機導入することになっている。
このF35Bにはすでに墜落の前例があり、昨年9月、米サウスカロライナ州で米海兵隊機が墜落している。幸い死者はなかったが、エンジン燃料管の不具合が原因とみられ、米軍はF35B全機を一時飛行停止とした。F35Aの追加、そしてF35Bの導入を提言したのは航空自衛隊ではなく、自民党国防族だった。これを丸飲みして導入を決めたのは、安倍政権である。勇み足だったのではないだろうか。
次々にF35を導入したとしても、FMSという理不尽なしくみが、今回の事故原因の調査にまで影響を及ぼす可能性もある。事故の原因が明らかになるまでF35の導入は当面、見合せるべきだろう。F35にこだわるのをやめ、戦闘機の選定をやり直すのもひとつの方法ではある。(半田 滋)
今後の墜落の原因調査にどれくらい日本がかかわっていけるのか分からないが、日本が主導してもブラックボックスの塊では調査はできないだろう。特にF35はエレクトロニクスのために機体があると言われるほどエレクトロニクスの塊でその辺の解析はロッキードマーチンでないと手も足も出ないだろう。何かがあってそこに噛んで行けないのが嫌だというなら自前で作るしかないだろう。新鋭機を導入して何かしらあると選定ミスだの欠陥機だのと言うが、F35と言うのはこれまでの戦闘機の常識を打ち破るような全く新しい概念の機体だそうだ。とにかく早く機体を見つけて回収するのが第一だろう。
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