「政治家はね、選挙に勝ってこそ政治家で選挙で負けたら何もならないただの人よ。だから選挙区では誰彼関係なく媚を売って歩くのよ。まあ言い方が悪いかもしれないけどとにかく誰彼なく顔を売って歩くのよ。父は私を秘書にしてそれをやらせたのよ。私はそう言うのはダメなの。あちこち飲み会を渡り歩いてお酒を注いで回るとかお祭りに行って地元の皆さんと一緒に踊りを踊るとか老人会で歌を歌うとか。私ね、政治の政策を勉強するのは良いのよ、いくらでもやれと言われればやるわ。


でもね、私はお酒を注いで回ったり歌を歌ったりお世辞を言って歩いたりそういうことは大嫌いだしできないのよ。でも父は私にそれをやれと、・・。やらなければ政治家にはなれないと、そう言ったわ。そして私にそれをしろと強制したわ。それが原因で私と父は何度もぶつかった。でも父は決して折れなかった。そうよね、そうじゃなければ政治家なんかできないわ。それは分っているけど私にはできなかった。だから逃げたわ。どこへってそれは言わなくても分かるでしょう。


おかしなうわさが出れば政治家にはなれないからってね。父は怒って大げんかになった。私は外国に逃げた。でも男漁りが染みついて治らなくなった。男は何だかんだ言ってもその時だけは大事に扱ってくれるからね。そんなところかな。AVなんかに出たのも父に対する反抗だったのかもしれない。おバカで幼稚よね、自分を壊して父親に反抗するなんて。でも私にはそれしかできなかった。


今の会社に来てあなたを見て驚いたわ。あなたは堂々と自分の意志を貫いて自由に生きている。何だかあなたが輝いて見えたわ。それに女のはずなのにどこかしら男の香りが漂っているしね。あなたが私のことを探っているのはすぐに分かったわ。でもそれって私には好都合だった。男だったら簡単だけどね。でもあなたは女でしょう。どうしたらいいのかちょっとためらったわ。自分とあなたの関係をどう扱っていいか分からなかったの。でもこうなれてよかった。ねえ、私に力を貸してくれない。私、もう一度自分を立て直したいの。あなたと一緒ならもう一度自分を立て直すことができそうな気がする。だから力を貸して。お願いよ。」


知的美人はすがるような眼を僕の方に向けた。


「いいわよ。そのためにこうしたんだから私のできることはしてあげるわ。でもね、私には私の生き方があるから力を貸すからと言ってもそれを枉げろと言われてもできないわ。そのことは分かってね。」


知的美人はちょっと片眼を瞑って見せた。そして口元をほころばせた。


「あの人ね。副室長さん、きれいな人ね。頭もよさそうだし、・・。」


「きれいだけど芯が強いのよ。結構きつくて怒ると怖いわよ、半端じゃなくね。あなたのことね、私は嫌だと言って頑張ったのよ。何で私にばかりお荷物を押し付けるのかとね。ここの娘もそうだし、あなただって立派な親御さんがいらっしゃるでしょう。私がどうこうするような立場じゃないわ。


うちの社長にもここの社長さんにも頼まれたけど頑として受け付けなかったら彼女に叩かれたわ。困っている人を見て知らんふりをするんじゃないって。これをセットしたのも彼女なんだけど私は彼女の真意を測りかねているわ。ここまでしなくてはいけないのかってね。


いえ、別におあなたのことが嫌だとかそう言うことじゃないの。この国でもめったにないほどご立派な親御さんがいらっしゃるのにどうして私のようなものがってね。天下国家とおっしゃるけれどその前にご自分の娘さんをどうにかしたらって言いたいわけよ、私としてはさ。」


知的美人がせせら笑った。


「ご立派な親かどうかは知らないけど、まあ、看護する能力はあるでしょうね。経済的にだけど。でもいい年した一人娘が気がふれて男狂いでアダルトなんかに出ているんじゃあ困るでしょうからそばには置きたくないんでしょうね。だから他人に預けたんでしょう。」


うーん、知的美人と政治家の親父の溝は思いのほか深いようだ。これは知的美人の両様も一筋縄ではいかないかもしれない。


「でもここに来ることを希望したのはあなたでしょう。だったら文句を言う筋合いでもないんじゃないの。」


「あなたと交わりたいとは言ったけどここに来たいとは言わなかったわ。」


僕は知的美人のへ理屈に苦笑してしまった。僕はここに住んでいるんだから絡みたいと言うのはここに来ることは絶対条件だろう。


「まあこうなってしまったんだから仲良くやりましょう。そして早く元気になって自分の生き方を見つけてね。」


こんな具合で僕と知的美人の共同生活の最初の一夜は過ぎようとしていた。


「ねえ、もう寝るの。まだいいでしょう。もう少し一緒にいて。」


知的美人は意味ありげな視線を僕に向けて来た。困ったものだな、みんな僕が羊の皮を被った狼だってことを知らないんだろうか。ん、羊の皮を被った狼に羊の面倒を見させて無事に終わったのかって、・・。さあ、それはどうだろうか。まあ、それは個人的なことだし、ここで話すようなことでもないだろう。


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