女土方は「ちょっと買い物がある」と言ってクレヨンと二人で帰った。僕は二人についていくのもおかしいので一人でさっさと帰った。家に着くと、家とは言ってもここは金融王の家なんだが、何時ものように自分の部屋に入ってちょっと驚いた。
部屋の中は女土方のものがなくなっていて知的美人のものが運び込まれていた。ただ物自体は少なかったので部屋の中は何となくがらんと空間が大きくなったような印象になった。女土方はクレヨンと同居するようだった。こうして僕に次々に女をあてがうが、これはある意味狼に羊を託すようなものだということを金融王や社長は知っているんだろうか。
すべてが手際よく整えられて僕は何もすることがなかったので晩飯を食いにダイニングに降りた。そして豪華なダイニングで豪華な家具に囲まれて豪華な食器を使って普通の定食のような飯を食った。今日はメンチカツ定食だったが、なかなかうまかった。
飯を食い終わって部屋に戻ったがこれと言ってやることもなくパソコンをいじったりテレビを見たりしていたが、誰も戻ってくる様子はなかった。これからここであの知的美人と同居生活が始まるのだが、一体どんな生活になるんだろうか。大体どうしてこうも手際よく部屋が片付いているんだろうか。
何だかんだ言ってみてももうこれは既定路線で僕だけが聾桟敷に置かれているんじゃないだろうかなんて考えてもみたが、何を言ってももうことは始まっているのだから意味のないことだろう。番犬の皮を被った狼に羊を託すのなら食いまくってやろうじゃないかなんてことを考えているとクレヨンの笑い声が響いてきた。
どうやら帰って来たらしい。でも何となく顔を出すのもためらわれたのでそのまま部屋にいると声は遠ざかって行って聞こえなくなったのでどうも自室に行ってしまったらしい。手持ち無沙汰でDVDなどを引っ張り出して再生してみたが、何となく集中できずそろそろ風呂でも入ろうかと立ち上がったところでノックの音がした。
知的美人かと思ってドアを開けると金融王が立っていた。そしてその後ろにバッグを下げた知的美人が立っていた。僕は「どうぞ」と言って部屋の中に招き入れようとしたが、金融王は「女性の部屋なのでここで、・・。」と言い、さらに「これから会議その他でヨーロッパに出張します。あなたには本当にご迷惑をおかけするが、ぜひよろしくお願いします」と言って頭を下げた。僕はすっかり恐縮してしまって「こっちこそ失礼なことばかり申し上げてすみませんでした。どうぞお気をつけて行ってきてください。彼女のことはご心配なく。」と頭を下げた。金融王は「ではお手数をおかけしますが、よろしくお願いします。」と言うと階下へと降りて行った。
「どうぞ、入って」
一人残された知的美人に声をかけた。知的美人が黙って中に入ると僕はドアを閉めた。
「当分の間、ここで暮らしてもらうわ。あなたのベッドはそっち、ドレッサーや衣装ケースは見ていないけど必要なものは入っているんでしょう。それで、・・」
僕は彼女を風呂の方に引っ張って行った。
「風呂と洗面はここ、トイレはそっち、ここは共用なんで適当に使ってね。それでちょっとついてきて」
僕は知的美人を外に連れ出して階下のダイニングへと連れて行った。
「食事はここ、朝はみんな一緒だから大丈夫、夕食は食べないときはそこに×をつけてね。夕食は定食屋の定食みたいなものばかりだけど結構おいしいわよ。あとカードキーはもらったでしょう。ここはセキュリティが厳しいからあれがないとお手上げだからね。忘れないように。」
そんな説明をしてからまた二階に戻って今度は女土方とクレヨンの部屋に行った。ドアをノックするとすぐに女土方が出てきて、「どうぞ、中へ」と導いた。部屋はこっちも手際よくものが揃えられていた。今案で見慣れた女土方のものがきれいに収まっているのにちょっと違和感を覚えた。
「これから一緒ね。よろしくね」
女土方は固い雰囲気を和らげようとしたのかあまり見ないような笑顔で言ったが、億で自分のベッドに腰かけていたクレヨンが、「その人、私の彼なの。ちょっとの間貸してあげるけど取らないでね」と言い放ってそんな努力も吹っ飛んでしまった。僕はクレヨンに枕でも投げつけてやろうかと思ったが、知的美人が「皆さんにはご迷惑をかけないようにするわ」と言うと部屋の方に戻っていくので睨みつけただけで終わってしまった。
部屋に戻ると僕たちの間にも何となく気まずい雰囲気が漂っていた。
「私もおかしいでしょうけどあなたたちも随分変わった暮らしをしているのね。」
知的美人は開口一番そんなことを言った。
「まあね、ここは特異人種の館だからね。私を筆頭に。まあ仲良くやりましょう。」
僕はベッドに腰を下ろしてそう言った。
「あの子は本当にあなたが好きなの。あなたは副室とペアなんでしょう。」
「あの子は私に男を感じているのかも、・・。でもみんな一緒の仲間みたいなものよ。だから仲良くやりましょう。さて、私、風呂に入るわ。あなた、片付けでもしていて。」
僕がそう言ってベッドから立ち上がると知的美人は「私も一緒に使っていい」と言い出した。そう言えば以前こいつの家に行った時もそんなことがあったっけ。まあこっちとしては「おう、望むところだ」なんだけど何も今日から一緒に入ることもないだろう。
「え、一緒に使うの。良いけど一人の方がゆっくりできるんじゃない。まあ風呂も大きいからいいんだけど。」
僕はそう言ったが知的美人はもう一緒に入るモードでさっさと支度を始めていた。風呂に入る前に洗濯の仕方を教えておいた。洗濯機と乾燥機は階下のユーティリティルームにあるのでそこで洗うことになっている。僕と女土方のはいつも僕が全部まとめて洗っていた。洗ったものは乾燥機で乾かすことになっていて外干しは禁止になっている。毛布など大物洗いの洗濯機も乾燥機もある。ちょっとしたコインランドリーのようだ。
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