北朝鮮「核ミサイル」を迎撃できない「防衛省」「三菱重工」の現実(下)
 
北朝鮮が「大陸間弾道ミサイル(ICBM)に搭載可能な水爆実験の成功」を主張する一方、我が国ではこれを迎撃できるだけの防衛体制が整っていないのが現状だ。防衛省が導入を決めた新兵器「イージス・アショア」も、配備環境や運用主体をめぐる課題が残されている。

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惨憺たる有様は、自衛隊を縁の下から支える企業においても散見される。防衛問題研究家の桜林美佐氏が言う。


「防衛省は一昨年以降、6隻あるイージス艦に加え、新たに2隻を発注しました。ところが、15年と16年の競争入札で立て続けに受注したのは、これまで建造してきた三菱重工ではなく、新興のジャパン マリンユナイテッド(JMU)でした」

 
三菱重工は、主力である造船部門の不調など経営不振が続いていた。従来“日本の防衛は三菱が支えている”とのプライドから自衛隊装備の受注を続けてきたのだが、大型客船の建造失敗で巨額損失を計上したこともあり、徐々に体力が削がれてきた矢先のことだった。

 
この「連続落札失敗」は、防衛関係者に衝撃を与えただけでなく、目下、大きな問題となっているという。


「受注したJMUは13年の設立。その前身企業の一つがイージス艦を造っていますが、20年以上も前になります。6隻のうち5隻を建造した実績と最新のノウハウを兼ね備える三菱重工の協力なしに、JMUが造れるのかという不安は、あちこちから漏れています」(同)
受注合戦の果てに
 
長年請け負ったイージス艦を奪われた格好の三菱重工だが、JMUにも事情はある。

「昨年、三菱重工はイージスとは別の新型護衛艦を竣工し、その2番艦も建造中なのですが、本来この2隻はJMUが取ろうとしていた。ところが重工に取られてしまったため、次の発注も取れなければドックが何年も空くことになる。職人とその技術を維持するには、どうしてもイージス艦を受注するしかなかったのです」(同)

こうした事態の根底には“防衛装備品の調達は原則として競争入札による”と定めた06年の財務大臣通達がある。担い手の限られる防衛産業内で、安値競争が始まったわけだ。

「JMUが実際に起工すれば、当初より大幅にコストが膨らむことでしょう。それでも超過分を防衛省に請求するわけにはいかない。いわば赤字覚悟なのです」(同)

弱り目に祟り目というべきか、三菱重工は昨年、官邸の肝煎りで進められたオーストラリアへの潜水艦売り込みが不調に終わり、フランス企業に受注を持っていかれた経緯がある。

「日本の防衛産業を支えているのは、三菱重工や川崎重工といった『プライム企業』だけではありません。その下には『ベンダー』と呼ばれる無数の中小企業があり、熟練の職人が手作業で作っている部品も多い。競争入札制度によって生じる赤字覚悟の受注のしわ寄せは、部品の買い叩きという形で下請けにも及び、唯一無二の技術を持った町工場が『防衛省の仕事はやってられない』と撤退する悪循環に陥っています」(同)

また、その反対に、

「何年も受注がなければ技術の継承もできず、設備と職人のロスになる。防衛装備はニッチ産業で、受注がない間、製造ラインを別の民生品に転用することはできません。弾薬を製造している会社が、発注がないからと同じラインでブルドーザーを造るわけにはいかないのです。かつて装備品は『大きく儲からないがコンスタントに国から仕事が来る』という安定部門でした。それが安値競争に投げ込まれ、製品は性能よりコストで評価されるようになった。儲からない上に不安定とあって、離れていく企業も少なくありません」(同)


撤退企業は…
 
09年に航空機用タイヤ事業から撤退を決めた横浜ゴムに聞くと、

「規模が小さくて利益率が低く、ラインを維持するコストが見合いませんでした。成長性もないため、10年で全て停止すると決めました」

と言い、レーダードームや燃料タンクなどを開発していた住友電工もまた、

「今後の成長が乏しいと判断し、将来にわたって事業継続が困難であると考えたため、09年から撤退を始めました。現在も完全撤退に至っておりませんが、毎年規模を縮小しており、方針は変わっていません」

軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が言う。

「ひとたび防衛産業から撤退した企業が、再度立ち上げるのは非常に難しい。企業が儲けるためというより、防衛省が何とか企業をつなぎ止めようとしているのが実態といえます」

ニッチな技術こそ宝
 
そんな風潮にあって懸念されるのは、装備品の質の低下である。実際に一昨年、三菱電機が受注した空自のレーダーサイト用機器約5000個のうち、およそ半分で不具合が判明。結果、防衛省が24億5000万円余りの税金をドブに捨ててしまった事案が、会計検査院の資料から判明している。「ものづくり」の灯は、ここでも大いに揺らいでいるのだ。

 
さる防衛産業関係者は、

「プライム企業は得てして『赤字でもお国のために』というのですが、本来企業はそうならないよう努力をすべきでしょう。実際は苦境にあえぐ下請けの部品メーカーのほうが、世界に通用するニッチな技術を持っている場合が多いのです」

武器輸出三原則は3年前に見直されたものの、国際競争力は依然、水準以下と言わざるを得ない。

「例えば米国など同盟国相手に『この部品がなければあなた方の戦闘機は動かない』といった形で共同開発を目指すべきです。民間機のボーイング787では成功したのだから、それを防衛産業でやればいいのです」(同)

先の桜林氏も、こう言うのだ。

「『世界の軍事力ランキング』などが発表されると、日本は大体いつも7位あたり。これらの順位は、単に兵士の人数や軍艦や戦闘機の保有数だけで決まるのではなく、国全体の経済力や工業力も合わせて評価されます。特に自国で兵器を製造できるというのは、外国からすれば重要な“抑止力”。その利点を、日本は自ら潰そうとしているようにも見えるのです」


大臣の人気は上々だが…
 
こうした国家的危機に直面する小野寺防衛大臣は、

「8月23日、記者団には『政務』と発表し、自身のたっての希望で日本海に展開するイージス艦にヘリで降り立ちました。昨年8月に常時破壊措置命令が出て以降、隊員は日本海に張りついたままになっている。そこへ突然大臣がお忍びで現れて激励したのだから、士気は上がりっ放しです」(自民党関係者)

迎撃態勢の“実態”を熟知しながら、前任者とは打って変わって現場で人気上々だという大臣に問うと、代わりに防衛省が、

「イージス・アショアを中心に新規BMD(注・ミサイル防衛)アセットの導入に向けて可及的速やかに取り組む方針ですが、具体的にどのアセットを導入するかについては何ら決定しておりません」(広報課報道室)

安全はおろか、安心すら得られそうにない。


防衛産業から撤退する企業が多いと言う話は聞いている。要するに手間暇ばかりかかって利益が少ないと言うことだろう。防衛産業と言うのは民需の利益優先の産業とは違い、技術を発展させるとともにそれを継承していかないといけないと言う使命がある。これがなくなってしまうと技術も育たなければそれを継承することも出来なくなって軍事技術は枯れてしまう。そうなると国の防衛力は武器を売ってくれる国に委ねられるのだから防衛力自体が相手国の都合で左右され、国家の防衛力は大きく衰退してしまう。そうした点を無視して発注側の防衛省がコスト主義に陥ってしまうと、「手間ばかりかかって儲からないんじゃあもうやめた」と言う企業が増えることになって技術が途絶えていく。発注側は技術を育てて継承していくと言う点にも目を向けるべきだろう。


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